第77話 封鎖された街
「おい、レオ。俺達は言ったよな? 交代して見張りをしようと」
「あ、ああ……」
「リリカさんもリリカさんです!! 山頂の戦いで一番活躍した2人がそろって見張りで休憩をおろそかにするとは何事ですか!!」
日が昇り、皆が起き出してきた。そして、起き出してから見張りの交代をしていない事を思い出したのか、目を覚ましたばかりのアリオン、先輩が見張りをしていた俺と姉さんに詰め寄ってくる。
俺が詰め寄られるのはもういつもの事のような気もするが、姉さんが詰め寄られるのを見るのは珍しく感じる。珍しいものを見たと思った俺はちょっと口元が緩みつつ……
「レオ、聞いてるのか!?」
アリオンに怒られる。一方の姉さんは……
「そんなにレオの事心配ならあんたらが自主的に起きて代わりなさいよ!! この子、全部ひとりでやろうとするような子だって分かってるでしょ!!」
「い、いや、それは分かってますが……リリカさん、落ち着いてください。我々は二人が心配なだけで……」
先輩に姉さんが説教されているかと思いきや、いつの間にか先輩が姉さんに説教されていた。すげえ、どうやったらそうなるんだ?
「皆さん、落ち着いてください、ほら、もうすぐ到着しますよ」
そうミナさんから告げられ、説教なのかただの口喧嘩なのかは分からないやり取りはピタッと止まり、俺らは馬車の前方に移動し、前を見る。間もなく街に到着するようだ。俺はその入口からは街に入って行った事が無いので何も感慨を感じる事が無かったが……
「懐かしいな……まさか、こんな形で戻ってくることになることになるとはな……」
御者として馬車を引きながらイザークのオッサンがそう告げる。支部長として活躍していた当時を思い出しているのだろうか……
***
「うーん」
「おいおいおい、まさかここまでとは……」
街に入り、街中を馬車に乗って歩む。その馬車から外を見るに、街の姿は数か月前から大きく変貌していなかったものの、前の姿を見た事のある人からすると大きく違っている事が分かる。
街中を大勢の人が歩み、様々なお店がお客を呼び込む。所々で喧嘩や小銭稼ぎのストリートパフォーマンスがあったりと、騒々しいながらも賑やかであった。
それに比べ今の状況は、街中を歩くのは見回りの王国の兵士がちょこちょこ居る程度。そこら辺の建物もお店も空いている様子は無く、住人の気配はまるでない。
実際、乗合馬車というこの地方の稼ぎ頭が居なくなり、領主の土地自体が王奥の接収されるとなると、もはやこの場での旅行者向け商売では稼げないであろう。
もはやこの土地に残る人と言えば、先祖代々この地に住まい、この地に骨をうずめる覚悟をした老人くらいではないだろうか。
「あー、ここまでとは思ってなかったなぁ……あのお店の焼き菓子美味しかったのに……」
「へえー、美味しいお菓子のお店があったんだ。私も食べてみたかった」
「え、いや、王女様のお口に合うかはわかりませんが……」
セラは平民出身のため、まだ王女様であるシャーロットさんに対しては遠慮がちのようだ……ここまで、命の危険すら一緒に乗り越えようとしてる仲間同士でそれは良くない。
「セラ、その焼き菓子って、フェンの口に合いそうか?」
「主! 僕にお菓子くれるの!?」
最後まで寝ていたフェンが、俺の発言に反応して飛び上がって起きたようだ。ああ、お店が開いてたらね、と適当に流す。
「多分、フェンちゃんなら美味しいって言うと思うよ」
「ならシャーロットさんも気に入ってくれるよ。フェンと一緒にケーキを美味しく食べてたから」
どうしても王女様、という肩書が付いて回り、優等生なセラがフランクに接するのを躊躇うのは分かる。だけど、この旅の間だけでも仲間、として接して欲しいものだ。
「レオくん、王女様と一緒にケーキ食べた事あるんだ? あ、リリカさんの繋がりで一緒にお出かけしたりした事があるんだね」
「んー、どうだったかな。確か、リリカちゃんと2人で遊んでたら弟君が声を掛けてきてくれたんだっけ。私とお茶などどうですか? だったっけ?」
「確かそんな感じだったと思う」
シャーロットさんに俺が街中で声を掛けた事を肯定すると、なんだか周囲の皆の俺を見る視線が冷たいものに……
「お兄様、その話」
「詳しく、お聞かせ願います」
ロゼッタとミナさんが何だか怖い感じで俺に詰問しようとするし
「レオ、アンタ……意外と肉食なのね……」
「レオちゃん、私と言うものがありながら、浮気はダメです!!」
ミラは驚いた様子で俺を見るし、キャロルちゃん、当時は俺と知り合ってないし、浮気ってなんだ。
なんだか女性陣に睨まれた感じになり、俺がタジタジしてるとその様子を見たセラが笑いをこらえきれず、といった感じで笑い出し、その場の空気を払拭する。
「いやぁ、レオ君、おとなしい顔して突拍子もない事するねー!! まさか物語の登場人物がこんなにおもしろ人間だったとは……」
なんだろう、ちょっと釈然としない。
「多分、私もそういう意味では負けてないですよ。立場とかそんな些細な事は好みませんから」
シャーロットさんは俺を笑うセラにそう一言声をかけてから
「弟君のお友達なら、私のお友達ですよ。セラさん、普通にお友達として、仲良くしてくださいね」
と言いつつ、セラと手を取り合うのだった。
「は、はい!! シャーロットさん!!」
……いやあ、女性同士の友情、いいね、なんて思いながら見てたわけだが
「あ、あのぉ……俺も一応、レオの友達なんですけどー……」
貴族として考えても王族とパイプを持つ事は有効だ、という考えからか、それともただ単に美人にお近づきになれるのではないかと思ったのか、アリオンがおずおずと右手を挙げながら名乗り出てきたのだが
「えー、あそこの喫茶店のケーキですか!! 私も好きなんですよ!!」
「そうなんですか、じゃあ、王都に戻ったら皆で行きましょう」
仲良くなった女性2人の耳には届いていないようで、挙げた手を下げるタイミングも逃し、空しく手を挙げっぱなしのまま固まっていたアリオンが面白かった。
「お菓子、お菓子ー!! 楽しみだなー!!」
そんな2人をよそにワクワクしているフェンであった。




