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第75話 フェンリルナイトは君さ

「皆、聞いてくれ」


 宿の食堂、皆で夕食を取った後のノンビリしたこの時間に先輩がこの集団のリーダーとして今後の方向性を相談するため、皆の注目を集める。


「今日、山に登った際に戦った魔獣に対しての話をしたい」


 ピリッ、と場の空気が固まる。それは魔獣に対応したメンバーだけでなく、シャーロットさんやキャロルちゃん、イザークのおっさんとルリさん、ミナさんまでその気が張り詰めたような気配を醸し出していた。


「魔獣……まさか、あんな強いとは思わなかったわ……」


 姉さんがそう言い、自分の肩を抱くようなしぐさを見せる。


「あんなのにレオや先輩は昔、戦って勝った事があったんだな……」

「そうね……まだ思い出すだけで震えが止まらないわ……」


 アリオンとセラも同様に、魔獣と対峙した時を思い出したのか、心なしか震えているようだ。


「いや、僕も以前倒したのはアレほどの魔獣ではなかった……この先、あんな強い魔獣とは出会わない事を信じたい、だが……」


 先輩がそう語りながら、傍らに置いていた自分の剣、天秤剣をテーブルの上に差し出し、言葉を続ける。


「詳細は伏せるが、敵はもしかしたら、僕の持っているこの剣を狙っているのかもしれない……」


 流石に、教会が王国に対し造反してるなどとは言えず、先輩は言葉を濁しながらも自分が狙われている可能性を示唆する。


「僕の力が弱いばかりに、この旅を続ける事で皆を危険に晒してしまうかもしれない。もしそうなってしまうのなら……僕はここで旅を中断して、帰る事を提案したい」


 全員が固唾を飲む音が聞こえる。昨日まではお気楽な旅行かと思った皆が、この先危険な道中になる可能性を示唆されてしまい、誰も言葉を続けられないのだろう。


 俺は目を閉じ、皆の決断を待つ。魔獣と直接正面からぶつかった俺が意見を出してしまうと、皆の意見がそれに左右されるであろう。俺が「旅を続行しよう」などと言えばまるで「俺からしたら弱かったからこの先も安全」と宣言するようにも見えて油断されても困る。

……もし俺が「中断しよう」と言ったらそれはそれで、俺が「敵が強すぎて苦戦した」と言ったように思われるかもしれない。そんな事をしてしまえば、皆の心のどこかに「俺を見捨てて逃げた」「押し付けた」といったような考えを与えてしまうかも。


 俺がこの話に意見をしないほうがいいだろう……。


「レオ、あんたはどう思う?」


 黙って目を閉じていた俺に姉さんが問いかける。その姉さんの言葉に反応して目を開けると……あれ? なんか皆が俺を見ている……。


「このまま続けるならあんたの負担になるかもしれない。どっちにするか、あんたの意見を聞きたい」


……俺なんて無視していいのに。


「皆の安全を考えるなら、そんな危険のある場所に行く必要は無いだろ……俺はこの時点で引き返して帰る方が良いと思うけど……判断は皆に任せたい」


 そう言うと俺は立ち上がる。


「お兄様?」

「流石に今日は疲れた……先に寝させてもらうよ、おやすみ」


 俺はそのまま自分の部屋に戻り扉を閉じ……


変身(へんしん)変身(フォームチェンジ)


 俺はカスタムに変身、そのまますまほを取り出し、今度は必殺技設定でなく、メッセージアプリを起動する


*******************************************************

(俺)「皆が部屋に籠ったら教えてくれ、出発する」


(フェン)「分かった」

*******************************************************


 さて、フェンからの返答が来るまで、この変身した状態で待機だ。しかし、変身しないと使えないすまほはちょっと不便だな……


「このすまほもだけど、変身後にしか使えないスキルの一部でいいから、変身前に仕えるようにしてほしいな……」


『……えぇー。……わかりました、次のアップデートの時に出来るようにしておきますよ』


「今の誰だ?」


 聞いた覚えはないが、どこかで聞いたような、懐かしいような声が上の方から聞こえた気がした。


***


 しばらく俺が変身したまま待っていると


――キィッ……


 皆に割り当てられた部屋の扉が開く音がした。話がまとまり、部屋に戻ったのだろう。そして、しばらくの時間が経った後


――バタン


 皆の部屋の扉が閉まったのを確認した。


*******************************************************

(フェン)「皆が部屋に戻ったよ」


(俺)「分かった、行くぞ」


(フェン)「えー、本当に行くの?」

*******************************************************


 この後、皆で行く予定であった砦跡、あそこに俺は今から向かう。仮に先輩を狙って何かを仕掛けている場合、今回は避けられたとしてもその者が今後襲ってこないとも限らない。


 本気で先輩や俺達を狙っているのか、それを確認するためにも俺は行かなければならない。


――急用が出来たのでフェンと一緒に先に帰ります。俺の荷物を回収してもらえると助かります。


 俺はそう書置きしてから窓を開ける。扉に鍵はかけていないため、誰でも入れるようにしてある。


 俺の使っている部屋は3階にあるため3階から飛び降りる事にはなるが、変身中のため何の障害にもならない。


――ビュッ


 と窓から飛び降り、地面に着地、よし、あとはフェンが来れば


「主」


「フェン、来たか。早速だが……」

「おう、馬車の用意は出来てるぞ!!」


 フェンが急にイザークのオッサンみたいな声を出したので、びっくりして振り返ると


「み、みんな……」


 流石に夜も遅いのでキャロルちゃんはミラに背負われ寝てしまってるが、全員がその場に居た。


「な、何で?」

「フェンが教えてくれたのよ、あんたがまた無茶しようとしてるって」


 思わぬ裏切りである。俺が一人で行こうとしてたのは……


「皆を巻き込みたくない、皆を守りたい、お兄様はそう考えてるのは分かります。だけど……お兄様に力は及ばないとしても、私たちも皆を、お兄様を守りたいと思ってるのです!! 戦力として見る事は出来ないかもしれませんが、私たちのその思いまで無下にしないでください!!」


 ロゼッタにも怒られてしまった。その上、考えまでバレてるのか。だが、そうなると……


「大丈夫、教会の造反の可能性については、シャーロット王女の護衛の方の一部に伝令をお願いしておいた。僕達皆で王都に帰る頃には全て解決してるはずさ」


 懸念事項も解決済み、流石は学年首席の先輩だ。


「レオ様の部屋からレオ様の荷物持ってきましたよ。ところでレオ様、この書置きを見て、私たちが心配しないとでも思ったんですか!?」


 俺の荷物を持ってきたミナさんが笑顔でそう告げる。うん、笑顔なんだけど、すごく責められてるような圧力を感じる。無茶な事をするな、と暗に言いたいのだろう。


「今さら、レオ様に無茶をするな、なんて事を期待なんてしません。ですが……せめて私達に黙って出ていくような事だけは、しないでください……」


……確かに、大事な人が自分の知らない所で苦しんでいる、と考えると俺もいたたまれない気持ちになる。


「分かった、今から俺は砦に向かう。そこに何者かが待ち受けてるかもしれない。皆を危険に巻き込まないためにも……」

「黙って出ていこうとしたから今さら何言ってもダメ! 弟君、皆ついていくわよ?」


 嘘つき!! どこに行くか伝えたらいいって言ったじゃない!! と言いたいが、今回の件、シャーロットさんも怒ってるようで、反論すらさせない、といった空気を感じる。


「レオ君、昔みたいな無鉄砲な行動は取らないと言ってたのに、結局取ってるじゃない……本当に子どものままなんだねー」

「諦めろレオ、もうここに居る全員思ってるぞ。レオを一人で行かせないって」


 セラ、そしてアリオンからも言われ、俺は降参するしかないようだ、だが、ミラとキャロルちゃん、この2人だけでも……


「なに?アタシたちを仲間外れにする気?」

「そういう訳じゃないけど」

「大丈夫、アタシもロゼッタもキャロルも自分の身くらいは守れるし……アタシは出来るだけ、アンタと一緒に居たいのよ……こ、ここに居る全員がそう思ってるって事よ!!」


 ミラのその発言を聞いて姉さん、ロゼッタ、ミナさん、フェンまで4人で集まってコソコソと話し始め、シャーロットさんがものすごくニコニコし始めたが、俺はそのまま自分の考えに浸る。


 俺は変身能力があって、高い戦闘能力があって、それで皆を守ろうと思ってたのに……

戦闘能力なんかじゃ測れない強さを見せつけられて……全く、俺は皆に一生敵わないかもな……

 だが皆のおかげで、フェンリルナイト! と持ち上げられて肩肘張っていた俺の力が抜けたようだ。


 フェンリルナイトとして戦うのは俺だが、それを支える皆も強くて……

 フェンリルナイトという名前は、俺が安心して戦えるように気を使ってくれる、俺が守りたいと思える皆を指している名前なのだと思った。


「さあ、皆さん。移動中に仮眠取れるようにしてますから、馬車に乗り込みましょう」


 ルリさんに促され、俺らは馬車に乗り込む。

 行き先はあの砦、そこに何が待ち構えるかは分からない。だが……俺は皆を見回す。もう一人よがりの戦いなどではない。もし困難があったとしても俺は、皆の代表として戦うだけだ。


「行こうか、皆」

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