第74話 ただいま
「はぁぁぁぁぁ」
『アンちゃん、重いかな!』
戦闘を終えた俺達4人は疲れた体を引きずりながら下山中である。そもそも「こんなところで戦ったんだよ」って解説をして見学して帰る程度の話だったのに、まさかの戦闘である。そして、思ったより長期戦闘となったため、ちょっと急がないと日暮れまでに下山が間に合わない。
そして、先ほどの戦闘であまり目立った動きをしていなかったアリオンが何故フェンに乗っかり、俺と先輩が歩いているのかと言うと。
「剣で鍛え続けた先輩や元から体力があるレオと違って、俺は引きこもって本読んでたからな。この登山もギリギリムリだった」
「なら付いてこなきゃよかったのに……」
ここに居る男連中のうち、アリオンだけがインドア派だったのだ。
「一緒に行きたかったんだ……友達だろ、俺達」
……そんな事を言われると、俺も何も言えない。
「……いいから、休んでろ。フェン、落とさないようにな」
『えー!!』
「わりぃ、フェン。ちょっと、休むわ……」
アリオンがそう告げると、体からガクッと力が抜ける。
『わっ!! 急に寝ないでよ!!』
フェンが落とさないようにワタワタしているが、頼むぞ、とフェンにお願いしてから俺は先輩と並んで歩く。
問題は、この後のこの旅の日程についてである。
――星導教会が王国に造反している可能性が出てきたかもしれない
先輩の言葉が事実である場合、王国への報告義務、そして……
「僕の剣も、天秤座の紋が刻まれている剣だ。そして実際に僕を魔獣に変えてしまった……魔獣を教会が意図的に放っているとしたら……」
「……人々と敵対する、魔獣を操っている可能性がある?」
「ああ、そして、そのカギとなる剣を野放しにするかというと……」
……最悪の場合、次の戦闘が起きる可能性が……?
「それはマズいですね……もしこの旅の日程なんかを抑えられていたら」
「また戦闘があるかもしれない、そして、その時は……」
「……最悪、シャーロットさんやキャロルちゃん、オッサンやルリさんまで巻き込むかもしれない」
楽しい旅行だと思っていた、だが、その道中が一転、戦場になってしまう……
「先輩、俺は、この旅行を切り上げて帰るのが良いと思う」
「そうだよね……問題は、この旅行を楽しみにしてた皆がどういう反応をするか、だけど……」
なんだかんだで楽しみにしていた皆の顔を思い出す……怒られるのか、悲しむのか……
『問題は、危ないから帰ろうと言われて大人しく従う子達かな?』
「うーん……」
「それは……」
皆がどう反応するか、予想が付かない。だが、皆を危険に晒すかもしれない、そう思うと、なんとも言えないのだ。
「事情は話さず、帰っちゃうかい?」
「それが一番いいかもしれない」
「いや……このまま旅は続行しよう」
いつの間にかアリオンが目を覚まし、そう提案してくる。
「さっきの戦いで思い知った、お前の戦いが俺達の考える物よりはるかに激しい戦いだったと」
「そうだ、だから、お前らを巻き込む必要なんか」
「おい、本気で言ってるなら俺も怒るぞ」
アリオンがちょっと怒った感じで言ってくる。なんだ? 皆を危険に晒したくないのは当たり前だろ。
「そうだな、レオが戦いに僕らを巻き込みたくない、とかいう理由でこの旅を止めたいというなら、ならこの旅は決行したほうがいいだろう」
「は? 先輩何いってんだ? バカか?」
いや、バカだろ
「バカじゃない。それに、今僕が言った事、図星だろ? 僕たちを戦闘に巻き込まないように、自分から遠ざけたいと思ってる。多分、この旅を中断したとしても君一人で行くつもりだろ?」
「……」
「先輩、図星らしいですよ」
くっそ、何が悲しくて……戦いに皆を巻き込まなきゃならんのだ。
『主、ここで結論出そうとすると、続行になるんじゃないかな?』
「わかったよ、だけど、下山してから皆にこの旅が危険な事を話した上で、どうするかを皆で決めよう」
まったく、こいつらは何故危険な戦いに首を突っ込みたがるのか……
『主がまた一人で突っ走ろうとするのが悪い』
「うん、僕も思うよ。レオが一人で突っ走るクセがあるのが悪い」
「どうせ、巻き込みたくないとかそんなこと思ってるんだろ」
……バレてら
***
麓に到着した俺を待ち構えていたのは
「……」
無表情の姉さんと
「……」
笑顔なのだが、俺を威圧するような空気を放つミナさんと
「……」
俺の事を睨みつけるロゼッタだった。
うん、緊急事態だったとは言え、ロゼッタを一方的に怒鳴りつけ、離脱を促したのは俺なので、ロゼッタはは分かる。
ミナさんは……ロゼッタを怒らせた事に怒ってるのか、それっとも、姉さんが無表情な事と関係あるのか。
そして姉さん。姉さんが無表情でいるのがよく分からない。
「た、ただいま……」
俺がその空気に威圧され、何事もなかったかのようにフランクな挨拶をしたつもりがどもってしまった……
姉さんが無表情なまま俺との距離を狭め、そのまま手を伸ばせば相手に触れられるような距離感になったと思ったその時
――パシンッ!!
姉さんが何も言わずに俺の頬にビンタを放つ。咄嗟の事で俺は反応も出来ず、そのまま唖然としていたが
――ガバッ!!
次の瞬間、姉さんに抱きしめられていた。
「バカッ!! 本当バカ!! 心配したのよ!!」
姉さんが声を震わせ、俺を強く抱きしめながらそう言う。
姉さんは怒ってる感じではない、泣いている……? やはり、心配をかけてしまったか……
俺は姉さんを抱きしめ返し
「ごめん……」
としか返答できなかった。
「はぁ……」
俺に抱き着いて大泣きする姉さんを見て毒気が抜かれたのか、ミナさんとロゼッタが放っていた威圧的な空気が抜けたように感じた。
「本当は私との約束も破った事を説教するところなんですがね!! 今回はリリカ様に免じて許して差し上げます!! ……おかえりなさい、レオ様」
「お兄様、私も今回だけは許してあげます……ご無事でなによりです」
姉さん、ミナさん、ロゼッタ。皆が俺の事を心配してくれてる。そして、本気で怒ってくれる……そうなると、俺の言うべきはごめん、じゃない気がした、だから、俺は笑顔でこのセリフを言うのだ。
「ああ、ただいま」
本当に俺を心配してくれていたのが分かった。だって、姉さんのビンタ、さっき戦った時に受けたダメージよりもはるかに痛かったのだ……。
これは本当に魔獣の攻撃を超えた衝撃を受けたわけではなく、心がこもっていたからそう感じたのだろう。
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