第72話 フェンリルナイト・カスタム
先輩とアリオンにしばらく魔獣の対応を任せ、俺はフォームチェンジを行う。フォーム4、いや、こいつの名前は……
「フェンリルナイト・カスタム!!」
先輩の名乗りに触発されたのか、何となく俺も名乗ってしまった。魔獣は先輩に翻弄されているし、先輩とアリオンは魔獣の対処に追われて聞いていない。何となく恥ずかしくなった。
だが、落ち込んだり恥ずかしがってる場合ではない。ここで決めなければ全員で生きて帰るのが難しいのだ。俺はすまほを取り出し、ポチポチと操作。昨日作った2つの必殺技を連続発動で設定し、腰にあるすまほ用ホルダーにセット。こうする事で、必殺技を読み込み、発動させることが出来るのだ。
「くっ!!」
1分でも5分でも任せろ、と言った先輩が魔獣に動きを捉えられてきた。30秒、良く持った方だ。俺も必殺技発動までは少しラグはあるが、今の先輩よりは上手く立ち回れると思う。
「先輩!! 交代だ!! 後ろに下がって休め!!」
「レオ!! ……そのフォームは初めて見るな……」
「フェンリルナイト・カスタムだ!! 覚えなくていい!! アリオン、もうちょっとだけ魔法で援護してくれ!!」
「分かった!!」
先輩が最後、ギリギリで躱した突進にカウンターするように、魔獣の顔面目掛けて肘撃ちをお見舞いする。
『グウォォォォx!!』
顔面に肘が決まった痛みからか、先ほどまで執拗に先輩を狙っていた魔獣の怒りの矛先が俺に向く。よし、これでいい。
俺は突進を回避しながら、必殺技の発動を待つ。
3……2……1……よし! 次の瞬間、俺の手には実体の無い赤い光の剣が握られていた。右手、左手、それぞれに1本ずつ。
「赤光剣・二刀流!!」
だが、これは普通の剣ではない。実体が無い、それ故、相手の物理攻撃を受け止めるといった事は出来ないのだ。
本命の技はこの後続けて発動する必殺技、だからこそ魔獣の攻撃をさらに続けて回避し続けなければならない。
まだか……まだなのか……よし!!
俺は設定した必殺技に導かれるように、実体の無い剣をがむしゃらに振り始めた。設定した必殺技の動きに逆らわず、全てを委ねるように。
その振りには余計な力を加えず、ただ早く振る事だけを考えて延々と剣を降り続ける。
『グァァァァァ!?』
斧を使ってガードをしようとした魔獣だが、この剣は実体がない。だから
「斬撃が貫通して届くって、どんな気分?」
この剣は物理的な防御を貫通し、刃の届く範囲を光の熱で焼き切る。
『グァ!! グァァァァ!!』
斧で受け止められない。そう悟ったのか、避けようとするが
「そんな重そうな体だと、早く動くの大変だよね?」
足に、腕に、胸に、避けられずに付く無数の傷。そのどれもが魔獣の体を深く切り裂き、それでいてその傷口を熱で焼き付ける。
「あらあら、やっぱりクセは抜けないんだね。無意識に斧で防御しようとしちゃったら……」
避けようと動いてはいるが、斧で防御し続けたクセか、時々斧で俺の剣を止めようとする魔獣。そんな事すると……
――ペキペキッ
斧の刃に亀裂が入る。そりゃそうだ、フェンリルナイトの人を超えた力の攻撃、上級魔法、中級魔法を長い時間、休みなく受け続けた斧が熱を放つ光の剣の熱を受け続ければそりゃ
――パキン!!
折れるし、そもそも柄の部分が
――キンッ
斬られて終わり。
『グ、グォォォォ!?』
斧が折られ、ただの棒になった斧の柄を握りながら狼狽える魔獣。そして、この斧が先輩の持っている剣と同じようなものであるなら……この魔獣も元は人間だったのかもしれない……それならば
……人殺しの汚名は仲間の誰にも着させない、俺が殺す。
「おらららららら!!」
斧が切れてもそのまま俺のラッシュは続く。顔に、首に、腕に。俺が剣を振る度、魔獣の体に傷が付く、そして。
とどめ、とばかりに大きく両手を大きく振りかぶり、上段から大きく斬り下ろす。魔獣は人間の時の習性か、はたまた生物全体に備わった動きなのかはわからないが、傷だらけの両腕で頭を守ろうと交差する……が
「この剣は物理防御意も貫通する!!食らえ、赤光剣乱舞!!」
魔獣の腕も頭も貫通し、魔獣を真っ二つに切り裂くと
――ドォォォォン!!
魔獣は爆発し、その後には無残にも壊された斧の柄が落ちているだけであった。
***
「はぁ……死ぬかと思った……」
俺、どれだけの間変身して戦ってたんだろ……最長記録かもしれない。と思いながら、俺は変身を解除する。
『はい、主以外の2人、さっさと離脱するよってなんか派手な人が居る!!』
なんとか魔獣を倒し、安堵の息を吐いた俺達の所にフェンが戻ってきた。
「ああ、何とか魔獣は倒したぞ」
『それはいいけど、そっちの派手な人……って、レイちゃんか』
フェンはなんか変なあだ名をつけるなぁ。アリオンの事もアンちゃんとか呼んでたし。
「よく分かったね、フェン君」
先輩が剣を鞘に仕舞うと、変身が解除された、そしてその肩には。
『ぴぃぃぃぃ!!』
小さなグリフォンが乘っていた。ああ、この子……
「前の戦いの時、俺も助けてくれた子だな」
「そうだね、僕の幻獣、らしいよ」
そうかそうか、先輩も幻獣使いなんだな。
「俺だけ幻獣従えてないし、仲間外れな感じがする」
アリオンがちょっと悔しそうな様子である。
『でも、幻獣や魔獣を体内に宿してないと上級魔法以上は使いにくくなるから、上位の魔法使いになりたいのなら、従えてないほうがいいよ』
へぇ、そうなんだ……ってちょっとまて
「なんか、今フェンの口から爆弾発言が出た気がするけど」
『常識でしょ?』
「……先輩、知ってました?」
「いや、初耳だ……そんなの誰も知らない事だよ……」
……
『そ、それよりも、さっきの魔獣の持ってた武器って、どうなったのかな?』
あからさまな話題逸らしな気もするが、まあ、追及する必要もないだろう。
「それならレオが粉々に……でも、この剣みたいに、使える人が使うと再生するのかもしれない。柄の部分だけ持って帰ってみるか」
先輩がそう宣言し、斧の柄を持ち、その斧の柄を観察……動きが止まった……
「レオ。今から話す事、ここだけの秘密としてくれるか?」
先輩が真剣な顔で俺に小声で話しかける。何があったのか……
「この斧の柄、星導教会の崇拝する黄道十二星座の牡牛座の紋が掘られている……もしかしたらこの斧、僕の剣と同じかもしれない……そして……」
先輩が緊張したような声色で俺にその真実を告げる。
「星導教会が王国に造反している可能性が出てきたかもしれない」
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