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第71話 フェンリルナイト・グリフォン

変身へんしん!!」


 このセリフを他の人が口にする事があるとは全く想像もしていなかった俺は、驚きのあまりそのセリフを言った先輩に思わず視線が釘付けとなってしまう。


 まさか、恐怖のあまり先輩がおかしくなったのか? などと思う間もなく、先輩が光に包まれる。

 間違いない、これ、本当に変身している!!


 わずかばかりの間光に包まれていた先輩であったが、光が収束し、そこに現れた姿は……


 全身を真っ白なスーツで覆われ、頭には鷲のような鳥をイメージした装飾を施されたフルフェイスヘルメット。体の所々を守るガードはいずれも金で構成されており、そして極めつけが深紅のマントに金の装飾で、グリフォンが描かれている。


 なんというか……ものすごく派手である。


 その変身に先輩も驚いたのか、それとも変身出来た事に喜んでいるのかは知らないが、自分の手を見て体を見て、ワナワナと震えている。


「!! 先輩!! 構えろ!!」


 そんな変な動きをしている先輩に構わず牛の魔獣が斬りかかる。だが先輩は


「ハッ!!」


 剣で受け止め、そしてまた弾き飛ばす。


 マジか、変身してパワーアップしたのか!!


 変身した先輩はそのまま、俺と俺を庇おうとしていたアリオンの所までやってきて、倒れたままの俺に手を差し伸べる。


「レオ、アリオン君、心配かけて済まなかった。だが、この僕が、いや……」


 俺を引き起こした後、くるっと背中を俺に向け、剣を牛の魔獣に向けながらこう宣言した。


「このフェンリルナイト・グリフォンが力になろう!! 一緒にあいつを倒そう!!」


……ポカッ


「ちょ、レオ、何でいきなり僕の頭を小突くんだ?」


「いや、俺はここ、頭の装飾が狼だから、フェンリルでいいんだけどさ。先輩、フェンリル要素ないでしょ? どうしてフェンリルナイトって名乗ってるの?」


……ビユゥゥゥゥゥ……

 標高高い山の中、俺らの横を通り過ぎるのは冷たい風と、耐えきれないほどの沈黙と、そして


『グォォォォォォォ!!』


 その沈黙を破るけたたましい牛の声。


「くだらない問答は後だ、先輩、いけるか?」

「ああ、今まで僕は皆に守られていただけだったが、今度は僕が皆を守る番だ」

「あの、レオ……これ」

「アリオンは引き続き魔法で支援を頼む、いけるか?」

「あ、ああ。任せろ」


 アリオンが何か言いたそうだったが、今はそんな時間も惜しい。

 とりあえず、先輩が前衛として魔獣を抑え込めるようになった事で、俺もフォームチェンジをする余裕が出来た。

 とはいえ、ドラゴンの場合はドラゴの力を借りる必要がある。ドラゴはフェンが近くに居ないと呼び出せないから、今はドラゴンにはなれない。となると……


変身(フォームチェンジ)!」


 俺はマジシャンの炎属性を選択し、フォームチェンジ。そしてすぐに右手を1回振り、L字の魔法杖に。


「行くぞ先輩!!」

「ああ、任せろ!!」


 俺は魔法杖から炎の矢を3連続で放ちながら、魔獣に向かい駆ける。先輩も態勢を低くし、全力で魔獣に向かっている。その勢いのまま剣を一閃するが


――ガキィィン


 視界外からの急襲を狙った先輩の一撃、だがしかし、態勢が低かったことも災いしてか、斧の握りの部分で剣をさばかれ


――ボウ、ボウ、ボウゥゥゥゥ


 幅広の斧刃で魔法を完全に防がれた。ならば……俺は杖をブンと振り、そのまま剣に、さらに少し回り込み、剣に炎の魔法を乗せ、魔獣に叩きつける。


――ガキィィィン!!


 これも斧刃で防がれる。そして、俺の攻撃を防いでいる間、先輩がその握りの部分に引っ付いたままなのだ。

 どうやら、刃と違って握りの部分は柔らかく、先輩の剣が食い込み、離脱に手間取っているようだ。


 つまり現状、1本の斧で前衛2人がいなされた形となり……


『グオォォォォォ!!』


 魔獣が斧を思いきり振ると、その振った斧の勢いに巻き込まれ


「うわぁぁぁぁ!!」

「ぐはぁぁぁぁ!!」


 前衛が2人同時に弾き飛ばされる。

 そして、がら空きになったアリオンに向かい魔獣は突進しようとして……


「させるか!!」


 先輩が派手なマントをバサッと1回はためかせる。すると


『グォォォォォ!?』


 魔獣の視線が、そのまま先輩に向かう。……そうか、そういうことか。


 先輩の変身姿はものすごく派手で目を引いてしまう。これは先輩のプライドやらなんやらが具現化したものと思っていたが……


――自分が目を引くことで、危険な目に遭っている他者を助けるための能力か!!


 派手好きな先輩だとさっき内心呆れてたのは、ごめん。先輩、あんた本当に、根っからの騎士だよ!!


『グォォォォォ!!』

「よっ!! はっ!! とぉ!!」


 実際、魔獣の動きが単調になり、先輩はそれをヒラッヒラッと躱しながら時間を稼いでいる、とはいえ


「先輩に敵の攻撃が集中してる今の状態は良くないな……」


 先輩の能力は変身で大きく上がっているのは分かる。だが恐らく、俺の変身程は強化されていない。この状態で、先輩にばかり負担をかけていれば、いずれ破綻する……だが


「気にするな……僕は……これでいいんだ」


 やっと手に入れた活躍の舞台、先輩は降りようとはしないだろう。多分俺を先に逃がそうとか言いかねない。


(フェンが到着するよりも先に、この魔獣を倒すしかないかもしれない……)


「先輩、1分、いや、30秒、時間稼いでもらえる?」


「え゛っ!! あ、いや、大丈夫!! 1分でも5分でも任せろ!!」


 一瞬本音が漏れてたような気がするが……ここは先輩を信じるしかない。


「先輩、頼んだ!! 変身(フォームチェンジ)!!」

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