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第70話 燃える剣

「この!!」


 アリオンが最近使えるようになった中級の土魔法で俺と魔獣の間に壁を作る。魔獣はその壁を1発で粉々に破壊したが、危うく魔獣の攻撃の直撃を受けそうになった俺が魔獣の目を欺くためには十分役に立った。


 とはいえ先ほどまでとは違い、防戦一方だ。どうしても魔法巧者である姉さんが抜けてしまうとこうなっても仕方ないのだろう。


 そして、ここにきて俺の動きも緩慢になってきているようで……


「レオ! 危ない!!」


 そう叫ぶや否や、先輩が魔獣の斧に対し、軌道をずらすように剣を添わせ、魔獣の斧の一撃は俺の体に当たらないギリギリのラインまで逸れた……


「サンキュー、先輩。助かった」


 フェンが姉さんたちを連れて行ったのが数分前、そう、まだ数分しか経っていないのだ。その間、動きの鈍った俺をサポートするため先輩も結構なムチャをしている。そのせいか……


――パリン!!


 先輩の剣が魔獣の攻撃の圧に耐えられなかったのか、砕ける、そして、その剣が砕けた先輩に向かって、牛の鬼の魔獣から横薙ぎに戦斧が振るわれ……


 気が付いたら俺は、先輩をかばう様に、先輩を突き飛ばし……


ーードゴォ


 魔獣の攻撃を真正面から食らう事となった。横薙ぎの攻撃、俺はそれを防御しきれず、そのまま吹き飛ばされ……


――ドォォォォン


 と、壁に叩きつけられ数秒、意識が飛んだ。こんなところで気を失うわけにはいかないと、そのまま意識を手放さないようなんとか持ちこたえた俺の目の前で繰り広げられていた光景は……


『グォォォォォ!!』

「先輩!!」


 アリオンが悲痛な叫びを上げる。そして、その目が捕えている光景、それは、先輩に振り下ろされようとする魔獣の無慈悲な一撃と、魔獣の斧に捉えられ、今にも真っ二つに切り裂かれんとする先輩の姿であった。


***


(ああ、僕はここまでか……)


 目の前の魔獣が自分に向けて、無慈悲に斧を振り下ろしてくるのを眺めながら、レイスはそう考えた。

 その斧が振り下ろされるまでの時間がいやに長く感じる。その間、レイスは色々と考えを巡らせる。


 まず最初に、またも折れてしまった剣に対して。仕方なかったとはいえ、こう短期間で2本も敵に剣を折られる事になるとは。

 剣士としては本当に失格だな、と心の中で自身を嘲笑する。


 そして、次に思いを馳せるのは、クラブの仲間たち。

 これまで伯爵家の跡取りとして厳しく育てられ、剣の道にずっと邁進していたレイスにとっては、肩肘を張らずに付き合える、こういう関係性がとても新鮮であった。とても短い期間ではあったものの、自分にとって本当に大事な、守りたい場所となっていたようだ。


 だからこそ、レオが一人ですべてを背負い込む事がレイスにとっては許せなかった。レイスから見たレオの評価としては、口が悪くすぐに憎まれ口を叩く生意気な後輩ではあるものの、実は優しい男である、と考えている。

 人の苦難に誰よりも早く駆け付け、そしてその苦難を一人で全部背負い込むところがあり、やや危なっかしい所があるのだ。


 レオが全力で皆を守りたいと思う、その気持ちについてはレイスは賛同する。だが、全てを一人で背負い込む事。これだけはクラブの年長者として、そして自分が認めたライバルとして、許さない。


――この男が心の剣を折らない限り


 ふと、以前の魔獣騒動の時にレオが言ったこの言葉が頭を過ぎる。

 既に2本剣を折った、だが……心の剣は折れたのか? と自問自答をする。


 そして、結論は……折れてない、それどころか、心の剣は今まで以上に強固な剣となっている、とすら感じる。


 もしこの心の剣が魔法の剣なら、刀身は全てを焼き尽くすほどの炎に覆われているだろう。

 もしこの心の剣が御伽の世界の剣なら、魔王を打ち倒す勇者の剣すら斬り捨てるだろう。


(そうだ、僕の心の剣は折れていない、ならば、最後まであがいてやる!! たとえそれが不格好であっても!!)


 そして次の瞬間、レイスは自分でも何故そのような行動を取ったのか分からないのだが……


「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 折れたはずの天秤剣を鞘から抜き、そして、魔獣の放つ斧に向け、刀身をぶつけるように振り抜く。


――ガキィィィィン


 折れた刀身は果物ナイフ程度の長さしかなく、一見、剣としては機能しないように見える。その根元に残った短い刀身の延長線上の(・・・・・)何もない空間(・・・・・・)でレイスは斧を受け止め


『グ、グォォォォ!?』

「はぁぁぁぁぁ!!」


 そのまま、魔獣を押し切り、弾き飛ばしたのだった。


(今の力はいったい……?)

『ぴぃぃぃぃぃ!!』


 どこからともなく聞こえた声、それは天秤剣から……天秤剣が光ったと思うと、次の瞬間には、以前助けてくれた謎の鳥のような子が姿を現したのだ。


「そうか、キミ、あの後どこに行ったのかと思ったけど、剣の中から僕を守ってくれてたんだね」

『ぴぃぃぃぃぃ!!』


 その小鳥のような子はぴぃぴぃと鳴き声を発しながら、レイスの回りをグルグルと回ったかと思うと


『ぴぃぃぃぃぃ!!』


 と一鳴き。すると、天秤剣が眩い光を発し……


「剣の刀身が……元に戻った……?」


 ありがたい……だが……自分にこの剣を使いこなせるだろうか……


『その剣を使いこなしたければ、我が力を貸そう』


 急に聞いたこと無い声でそう問いかけられ、レイスは周囲を見渡す。誰だ? 誰が僕に問いかけている?


『汝の望む強さ、それを思い浮かべるのだ。我はその望みに応じ、お主の力となろう』


 その声は、目の前の鳥のような子から発せられている。


「君が、僕に力を貸してくれるのかい?」

『変な事を聞くものだ。我は幻獣、汝は我のマスターだ』


 剣が元に戻ったり、小鳥だと思った子が急に話しかけてきたり、情報量が多くてレイスの頭の中は混乱している、だが……


『グォォォォォ!!』


 レイスに吹き飛ばされ、怒りに狂った牛の魔獣、こいつを何とかするのが先決だと気持ちを切り替えた。


「わかった、君を信じよう!! 行くぞ!! 僕の相棒、幻獣グリフォン(・・・・・・・)

『任せるがいい、我が主、レイスよ』


 レイスは剣を正面に構え、そして、天に捧げるように高く掲げ、こう叫んだ。


変身(へんしん)!!」

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