第69話 ヒーローのちっぽけなプライド・騎士のちっぽけなプライド・男のちっぽけなプライド
『グォォォォォ!!』
「くっ!!」
「まだまだぁ!! これでも食らいなさい!!」
突如現れた牛の鬼のような魔獣。今は俺がフェンリルナイトの状態で前衛をこなし、後ろから姉さんが上級魔法で攻撃をしているが
『グァァァァ!!』
動きはそんなに早くないのだ、そして、姉さんの魔法も、斧で半分以上は防がれてるとは言え、俺の攻撃と合わせてそれなりに当たってはいるのだ。だが
「はぁ……はぁ……」
姉さんの消耗が激しいが、出口をふさがれているため、撤退も難しい……フェンリルナイト・ドラゴンで押し通る手もあるか?いや、ドラゴンは力と打たれ強さは上がるが、速度が落ちる……回避行動に重点を置いている今の状況だとあまり得策ではない……いや、何も出口から出る必要はないか!
「フェン!! この石切り場の壁を超えて撤退する事は可能か!?」
「そうだね、2人ずつ背負って往復したとして……全員撤退までに1時間……ってところかな?」
なんだ、つまり「俺が圧倒的な力の魔獣に、1時間粘ればいいだけ」か。
「レオ……あんた……そういうのはやめろって……」
姉さんが俺の発言の意図、そしてその後の行動について、俺の考えをくみ取ったようだ。抗議したいようだが、今はそんな事を聞いてる場合じゃない!! 俺は目の前の魔獣の攻撃を躱しながらフェンに指示を出す。
「フェン、撤退だ!!」
「主、無茶しないでよ!? ロゼちゃん、ミラちゃん、乗って!!山を降りるよ!!」
「アタシも初級魔法くらい使える!! 戦える!!」
「わ、私だって!! お兄様のお役に立てます!!」
「邪魔だ!! さっさと帰れ!!」
フェンが最初に離脱を促したのは、魔法の使い手としてはまだ未熟、戦力として数えられない2人であった。全員が無事に下山がマストな現状であれば、一番賢い選択だろう。だが、目の前で最大戦力であるはずの姉さんと俺が苦戦しており、その2人を置いて行く事になるのが心情的に許せないようだ。
しかし、その助けを受け入れる事は出来ない。この場から全員可能な限り安全に離脱する事、このためには、ロゼッタとミラを真っ先に離脱させなければならない。
……例え、俺が恨まれる事になろうとも。
「お兄様は、私の事が邪魔なのですか……?」
「ああ、邪魔だ!!」
ロゼッタが辛そうに聞いてきた。こんな緊迫した戦いの中でも、心が痛む。だが、今は皆の安全が優先だ。
「!! お兄様の馬鹿―!!」
「っ!! 馬鹿で結構!! さっさと麓まで戻れ!!」
フェンが泣きそうになってるロゼッタと、それを慰めるミラを乗せて戦場を離脱した。よし、さっきロゼッタから馬鹿と言われたタイミングで魔獣の振り回す斧の刃が掠ったが、よかった、斬れてはいない。ちょっと強く打ち付けただけだ。
この怪我は、俺がこの魔獣を侮り、不覚を取ったせいだ。
決して、ロゼッタに馬鹿と言われたショックで隙が生まれた、とか言う訳ではない!!
「レオ、あんた……」
「姉さんもボサッとしない!! 休憩して!! 先輩、アリオン、セラ!! 牽制でいいから、姉さんが休憩してる間、魔法で援護を!!」
「レオ!! 君も休め!! 前衛なら僕が替わる!!」
「ダメだ!! 先輩も魔法で援護だ!!」
先輩は剣を持ってきていたとは言え、今日は皆登山のため、戦闘用の服装なんてしていない。戦闘に向いた服装なんて、変身した俺くらいだろう。
そんな俺ですら危険だと思うこの状況、先輩には任せられない。
「……わかった、僕達は援護に徹しよう」
「仕方ねぇ……レオ、無理だけはするなよ……」
それぞれ掛けられる先輩とアリオンの言葉。先輩はまた、悔しそうにそう告げる。そしてアリオン、その約束はムリだ。もうすでに結構無理してる。
「リリカ先輩、これ飲んでちょっと休憩しててください。しばらく代わります」
「あ、ありがとう……ごめん、ちょっとの間、レオの事、頼むわね……」
「……はい!!」
姉さんと他3人が入れ替わり、姉さんが休憩モードになった。ちなみに魔法の実力的には
姉さん>>先輩>=セラ>俺>アリオン
といったところだが、今回は前衛の俺が敵の攻撃を受け続けなければならないため、安全に撤退させるには、アリオン、セラを先に逃がすのが良いのだが
「……」
姉さん、既に長い時間上級魔法を放っていた事もあり、普段からは想像もつかないほど疲労している。それでも意地を張って、戦線復帰し、最後まで残ると言うのだろう。ルーディル家の人間は本当に意地っ張りである。
***
20分後、フェンが戻ってきたことにより、撤退第二陣の出発である。
『次、誰が撤退するのかな?』
「私は残るわ!! あいつの動きを止めて、少しでもレオの負担を減らさないと!!」
「僕も残るよ。レオが無事に戻るよう、僕も全力で協力したいからね!!」
「俺も残るぜ!! 親友を見捨てるわけにはいかない!!」
「友達の為だもん!! 私も残る!!」
……誰も撤退しようとしない……
『もう一度聞くよ?誰が撤退するのかな?』
……誰も答えない……
『じゃんけんでもなんでもいいからさっさとして!! グズグズするとそれだけ主が危険なんだから!!』
この撤退の間、俺は出来るだけ攻撃を避けながら魔獣に対し攻勢を仕掛け、フェンの撤退の安全を確保しなければならない、だから、ここで揉められても困るのだ。
回避しながら攻撃を全力でするので、体力の消耗がヤバイ。
「……セラ、お前が先に撤退しろ」
「ふむ、そうなると……リリカさん、先に下山していただけますか? 後は僕達に任せてください」
アリオン、そして、先輩が残る事にしたようだ。だが、2人、特に姉さんが黙っていなかった。
「駄目よ!! あの魔獣、上級魔法でも簡単に防ぐのよ!! あんたらの魔法じゃ……」
そこまで発言したところで、姉さんはクラッと倒れそうになり、セラに受け止められる。
「セラ!! 姉さんを、頼む!!」
俺のこの一言が決め手となったのか、セラが「分かった!!」と返答してくれ、姉さんを抱えてフェンに乗って撤退を開始した。
……最後まで姉さんは何か叫んでいたような気がする……多分、すんごい怒ってるなあれ。無事に戻る事が出来たら、姉さんに何発か殴られるの覚悟しよう……。
そう、俺はこの状況でも生き抜くんだ!! ロゼッタに嫌われて罵詈雑言を浴びせられるために、そして、姉さんに殴られるためにも、生き抜かなくてはならない!!
まるで、罵られたり殴られたりするのを望んでいるような言い方になってしまったが、その程度で皆が安全に過ごせるのなら、俺としては構わない。
後ろでは先輩とアリオンが仲良く話しながら魔法で俺を援護してくれてる。
「先輩は、残った事後悔してないですか?」
「後悔なんてしてないさ。頼れる後輩2人と一緒に強敵に挑む、燃える展開だね」
「それに、このまま、レオだけにいい恰好させるわけにもいかないですからね」
「だね。レオまでは行かないにしても」
「情けない、とか思われたくないですからね」
男のプライドってやつか。
わかった、それじゃ、この牛の鬼みたいな魔獣と、吹けば飛ぶようなちっぽけな男のプライド×3、どっちが勝つか、勝負だ!!
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