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第68話 山に牛が居るわけ……

「はぁ……はぁ……」

『人間はやっぱり体力無いね……』


 いざという時の為、フェンには大狼の状態で待機してもらい、登山を開始した俺達一行。最初の方は結構余裕に見えたのだが、道中半分を過ぎた頃からきつくなってきた人が出てきたようで


「ごめんなさい、フェンちゃん……」


 真っ先にダウンしたのはロゼッタ。ロゼッタはフェンの背中に乗って登っている。


「ミラ、セラ、姉さん、大丈夫か?」

「ええ、これくらいならアタシもまだ行ける」

「大丈夫だよ、私、体力だけは自身あるから」

「レオ、私の事はいいから、あんたは自分の事を心配しなさい」


 姉さんが「大丈夫」とは言ってくれなかったが、まあ、まだ大丈夫のようだ、さて……


「レ、レオ。俺がちょっとキツい……」

「ああ、僕も、ちょっと休憩するのに賛成だ……」


 アリオンと先輩が真っ先に休憩を申し出るとは思わなかったぞ……とは言っても、俺も体力的にちょっと休憩したいと思ってたので、この申し出は渡りに船だ。


「そうだな、ちょっと休憩しよう……あ、こら、アリオン座り込むな」


 これまで2時間弱、休まず山を登り続けたのだ、まだ大丈夫とは言ってたミラ達もそれなりに疲労していたのだろう。ミラ達もその場で息を大きく吐き出し、歩みを一時止める。


『えー、まだ全然疲れてないよー?』


 不満げなのはフェンだけである。


「わぁ、お姉様、皆さん、見てください」


 荷物から防寒用の羽織り物を取り出し、羽織りながらロゼッタがそう言うので、皆が周囲を見渡し、そして皆がロゼッタの言わんとする事を理解した。皆の息を飲む音が聞こえた気がしたのだ。

 絶景である。自然豊かな山々が眼下に広がっているのであった。周囲の山々は頭をこちらより低くし、まるで山がこちらに頭を垂れているような錯覚にも陥る。この光景を見る事が出来ただけでも、今日ここまで来た価値はあるな。


『主―、いんたすにパシャってやってー!!』


 咄嗟にフェンからそう言われたかと思うと、目の前にすまほが急に出てきた。

 いんたすとかいうすまほの機能で写真を撮れという事か、俺はフェンのすまほをトントンと。


――おや、前に馬車で撮った写真。これに壁紙(と言うそうだ)を変更、じゃなかった、カスタムをしたまんまだ。まあいいか。


 俺はフェンに言われたように、パシャッパシャッと適当にいんたすをしておく。


『主、ありがとー!!』


 フェンがそう言うと、俺の手元からフェンのすまほが消える……まあ、カスタムの事はわざわざ言ってやる必要もないか。


 さて、と、俺は先の方の道を見る。その先にはまだまだ山頂目指しての道が延々と続いており、まるで山に挑む俺たちの挑戦をあざ笑っているようにも見える。


「先輩、もうそろそろ出発しないと間に合わないんじゃない?」

「あ、ああ。そうだね。皆、登山再開するよ。肌寒さを感じた人は防寒具羽織って無理しないように」


***


 目的地の8合目あたり、謎の石切り場のような広場に到着した。やはりというか、その場を見た皆は驚きと疑問を覚えたようだ。目的地に着いたので、フェンから降りたロゼッタがその様子を見て驚嘆している。


「自然にこのような地形になる事……無いとは断言出来ませんが、それにしても不自然です……石切り場?それにしては……」

「もしここを石切り場として使ったのなら、その石を使った建造物、または祭壇なんかが近くにあるはず……ここは星導教会の修練場だったと聞くから、アタシの予想はその関係物に使われたと思う」


 そのミラの発言、俺は初耳だ。星導教会の修練場だった?それならば、俺が倒したあの怪物は、もしかしたら星導教会のその遺物を狙った賊が変化した姿、とかなのかもしれない。

 しまった、山についてもう少し調べるべきだった。


 先輩、山について予習してないですか? と聞こうと傍に居る先輩を見ると、先輩が腰に下げた剣の1本を凝視していた。そして、そのまま俺に真剣な顔を向けると、俺にだけ聞こえるよう、こう切り出した。


「僕を魔獣に変えてしまったこの剣だけど、王が言うには、星導教会の管理する王都の宝、だそうだ。星導教会、そして、フェンリルナイトの戦いの歴史。それが2個も一致するのは、ちょっと不自然じゃないかな?」


 そして、先輩のこの発言。俺から見たら、星導教会はまだ明確に敵として認識はしていないのだが、俺の戦闘が2件、星導教会に近い所で起きている……偶然にしては出来過ぎだ。


「レオ、何か奥の方に畑あったぞ」

「すごいねー、フロウ草が全く枯れずに生えてるし、誰か管理しに来てるみたい」


 薬草を確認しに行っていたアリオンとセラが戻ってきた。そうか、やはり、土に精霊を高濃度で混ぜてる、とかいうフェンの話の通りなのか? この薬草も星導教会が管理しているとするなら、精霊を高濃度で詰め込んだり魔獣を生み出したり、通常の魔法使いを超越した何者か、または道具を使っている者が居る……?


「それに……変ね。石が目的の石切り場だったら不要だろうに、結構頑丈な結界のようなものが張ってある……まるでこの場所が重要な場所のような……っ!!」

「!! 変身(へんしん)!!」

『!! 皆、下がって!!』


 周囲を魔力探知で確認していた姉さんの探知に何か危険なものが引っかかったようだ。俺は姉さんをかばうように前に出て、その場でフェンリルナイトへの変身をする。

 フェンはバックアップのため俺の後ろ、そして姉さんが皆を守るよう、やや後方に構えている。そして


――その気配は、これまでに無い程の圧力を放ちながら


「っ!! な、何だこの圧力!!」先輩がその気配を感じ取り、震えながらも天秤剣で無い方の剣を抜く。


――そして、これまでにない大きさを兼ね備え


「この気配……あの時のドラゴンよりも……」ドラゴンと対峙した事のあるアリオンはそれと比較し、

「な、なにこれ……」セラは無言の圧力の正体を掴みかねてそう呟く。


――その者の姿は


「「……」」ミラとロゼッタに至っては、声すら出せない……


――まさしく異形の魔獣であった


 大きさとしては3メートル程度はあろうか、筋骨隆々な姿に牛の角、そして顔はもはや、鬼、この一言でしか言い表せないほど、相手に恐怖心を植え付けるような顔つきであった。

 そして、手にはまた、推定で長さ2メートル、刃渡りもそれ相応の大きな刃を持った斧を構えていた。


***


「クックック、我ら星導教会の聖なる霊峰を穢す冒険者どもから聖域を守るため、我ら協会は星導器を使い、魔獣と化した人間を守護者として置くことにしたのだ……覚悟しろ、天秤剣の持ち主。そこの今の守護者は……」


 司祭は壁に飾られた星導教会の絵を見る。黄道十二星座に守護された守護天使の絵が星導教会のシンボルの絵として、信者の家には飾られているのである。そして、その十二星座の一つ、牡牛座


牡牛斧(タウロスアックス)、仮に天秤剣の男が剣の力を自分の意思で制御できるようになっていると仮定しても、牡牛斧の力の前では赤子も同然……さらに、今回の魔獣化にはとにかく力の強い贄を使った……これで、天秤剣の男も終わりよ……クックック」

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