表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

71/132

第67話 霊峰

 2日目の朝。


 俺たちはこれから山登りをするそうだ。この国では1位2位を争うレベルの標高の高い山に。


 バカなんじゃないだろうか。


「なぁ、バカ……じゃなかった、バカな先輩、俺、麓で待っててもいいよね?」

「バカじゃない。レオが来ないと話にならないだろう? 最初に言ったじゃないか、僕とレオ以外は自由参加って」


 俺は山の方を見る。そこは薬草を採取する冒険者がよく通るせいか、地が踏み固められ、道のようなものが出来ている。

 少なくとも、途中までは人が歩ける道があるのだ……げんなりする。


「ほら、もう、この馬車で登って行こう!!」

「馬車が登れるわけないだろ!! ほら、グズグズ言ってないでサッサと行け!!」


 呆れた声を出しながら俺の背中をドンと押したのはイザークのおっさん。くそう、覚えておけよ。


 イザークのオッサンは御者として来ているため、今日の山登りには付いてこないのだ。同じくルリさん、そして、まだ幼いから過酷だろうということで、キャロルちゃん、そしてキャロルちゃんの保護者として、ミナさんもお留守番だ。


「なーに、こう見えても簡単な武術くらいは出来るんだ、お留守番のお嬢ちゃんたちの心配はしなくて大丈夫だぜ!!」


 オッサン、頼んだぞ! でも、オッサンもムリするんじゃないぞ!


「しかし、王女様まで来ますか……」

「こういう体験もたまにはいいじゃありませんか」


 いや、王女様、ちょっとまってよ。昨日から気が付いてはいたけど俺が無視を決め込んでいた、陰からコソコソついてきてる護衛の人たちが明らかに「マジかよ……」って顔してるんですが……あ、じゃんけん始めた。


「シャーロット、あんた、王族の自覚を持ってキャロル達と待機してなさい」


 そう進言したのは、姉さんでも先輩でも、ましてやアリオンやセラでもなく、ミラだった。


「えー、私もミラちゃん達と一緒に山登りしたい!!」

「ダメ! 危ないし、そんな危険な場所まで護衛の人が付いてこれないでしょ!!」


 あ、ミラも気が付いてたんだ。そして、名指しされた護衛の人たちがドキッとしたようだが、自分たちを気遣う発言だと気が付いたのか、気が付いたら皆が目をウルウルさせていた。


……なんだかこの国、王族の中心に近い人ほど、行動が突飛と言うか……正直、今回の件はミラの言う事の方が正しいと思う。


「シャーロットさん、その……不満かもしれないけど、今日は妹に免じて、ね」

「……はい。かわいい妹とかわいい弟に免じて、今日はお留守番します」


 勝手に妹にしないでよ、というミラの抗議の声は無視して、とりあえずシャーロットさんのお留守番については承諾を得られたという事で、護衛の皆さん、いかがかな?


 あ、なんだか、護衛の皆さまのミラへの忠誠度が上がった気がする。よいぞよいぞ。しかし、シャーロットさんの気持ちも分かる、俺もかわいい妹と弟にお願いされたらそりゃ、危ない事しようなんて思わな……


「お兄様、何故私を見てすぐに目を背けたのですか?」


 ロゼッタのためになるなら火の中水の中飛び込んでいきそうだ……。あれ。そういえば、シャーロットさん、しれっと俺の事かわいい弟、って言ってくれた?

 いい……こう、癒されるお姉さんに優しくされるのいいいたたたたたた。


「……なんか、レオが失礼な事考えてる気がした」


 気が付くと姉さんが、ほっぺたを膨らませながら俺の頬をつねっていた。


***


「くっくっく……」


 星導教会の司祭は昨日からずっと笑いをかみ殺しているような表情であった。


「フロウ草、だったか。変な名前だと思った物だが、なるほど、こうやって考えると、確かにフロウ、が一番しっくりくる」


 フロウ草、3年前にレオが採取してきたその薬草はそう名付けられていた。名付けたのは薬師連盟であり、当初はどのような病も治癒し、体力、特に魔力を充足させる事から若返りの効果もあるということで、不老の草、という理由で付けられた名前のようだ。


 他にも採取の手間の割に儲けが少なく、採取の労力に支払われる金額が負けている「負労」なんかの呼び名で呼ばれているようであったが……


「今回はその生息地域で、私が労力を使わずに邪魔者を消し去ってくれる『不労』であるか……」


 元々、あの山は霊峰として教会の管理する山であった。たまたま、登山中に力尽きそうになった修行僧の一人がそこに生えていた草を食べた所、元気を取り戻した事から、薬師連盟に持ち込んだのが始まりであった。


 その後すぐのことである。採取した薬草が高値で売れると噂を聞きつけた冒険者たちが押し寄せてきたので、一定の線引きをするため、7合目までの立ち入り許可そして、それ以上の登山を固く禁止し、上手く共存出来ていたのだ……あの時までは。


 寒波が来るたびに根こそぎ採取される薬草、そして、年々そのルールを破る冒険者が増えた事で、星導教会は……


「司祭のオッサン、贄50人連れて砦に向かうぞ?」

「……キザシ、50人はちょっと多すぎじゃないか?」


 レイスに天秤剣を渡した男、改めキザシが、司祭のその言葉にクックックと不気味に笑い返す。


「司祭さんよぉ、確実に仕留めたいんだろ?なら、これくらいさせろよ」

「かまわんが、目立たないようにな」

「まあ、運よく俺の所まで奴らが辿り着いたら、最高に苦しい遊びをしてやるぜ」


 そんなキザシを見やり、司祭は自己暗示でもするかのように、考えを巡らせる。


 大丈夫、大丈夫だ。あの山、霊峰には守護者を配置してある。以前の守護者はいつの間にかやられていたが、それは贄の技量が足りなかっただけだ。事実、贄を厳選した結果、同じ天秤剣を持った魔獣には、フェンリルナイトでも苦戦していたと言うではないか。


 今回の守護者はちゃんと贄を厳選してある。前の守護者は何者にやられたかは知らないが、無残にやられることはないだろう。

 そして、そこを突破したとしても、次はキザシが50人の贄で迎え撃つ。万が一にも行き残る事は不可能だろう。


 しかし、司祭は用心深く、その場合でも生き残る場合を考えていた……そして、司祭にとっての不確定要素、それは、フェンリルナイトの存在であった。

 司祭もフェンリルナイトについての噂は聞いている。高い戦闘力を持ち、変幻自在に戦う、と。そんな男がもし、レイスを守って居たらと思うと、霊峰の守護者もキザシと50人の贄も倒してしまうかもしれない……そうなったら。


「ふむ、万が一に備え、研究している大型魔獣兵も用意しておこうか……」

もし本作を気に入っていただけましたら、ブックマーク、評価等を戴けますと幸いです。


ぜひ↓の☆☆☆☆☆より評価をお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ