第66話 私が作家になりたい理由
「ふぅ……」
今日はいつもと違う環境、村の宿で休むという事で、俺はこの月の照らす夜の中、4つ目の変身フォームに変身し、すまほをいじりながら散歩をしている。最早日課と化した、必殺技設定だ。結局、フェンに1個技を設定してもらった後は1個しか作れなかったので、環境を変えて挑戦中である。
環境が違うと頭も冴えるのか、今日は2つ出来上がった。
当初の目標の技5つ、とりあえず達成ということになる。
「さて、明日も早いし、寝ようか」
明日は3年ぶりくらいに、あの山に登る事になる。しかも、フェンに頼り切りだったあの時とは違い、今度は自分の足で、だ。あの時、どれだけフェンに苦労を掛けたか、その苦労を身をもって体感するのだ。
さて、明日に向けて体力を温存しなきゃ、と宿に戻る途中、見知った顔が歩いているのが見え、俺はスタスタと近寄る。相手は……何か動きが固まっているようだが
「ィ……」
「よぉ、セラ、まだ寝なくて大丈夫か? 明日はハードスケジュールだぞ?」
あ、変身解くの忘れてた、とばかりに、変身を解除。
「……レ……レオ君だったんだ……」
「ん? セラ? どうした?」
よく見れば、セラの顔色は血の気が引いたような青、目も涙でウルウルさせ、泣きそうになっていた。
「黒づくめの……青く光って……殺されるかと……」
あちゃー、変身前の俺の姿か。確かにフェンからも一番悪役っぽそうとは言われたし、俺もこれはないわー、とは思ったくらいだけど……
「あ、悪い悪い。確かに暗闇からあんな姿の人間が出てきたらビビるよな」
「謝罪軽いなー……もう、次から気をつけてよね」
いつもなら笑って流してくれるセラだけれど、今日に限っては本当に怖かったようで、結構強めに注意されてしまった。
「いや、本当に済まなかった。許してくれ」
もう、俺は誠心誠意、平謝りしか出来ない。そんな俺を見かねたのか
「許す代わりに、ひとつ貸しにしとくよ。何かあったら返してよね」
と最終的には笑顔で許してくれた。セラさん、やっさしー。
「わかった、じゃあ、セラが困った時は俺が全力で助けるよ!! 貸しがあってよかった、って言わせて見せる」
「うん、期待してないから、ほどほどにね!!」
「なんか反応薄いな、ひどくない?」
「レオ君なら、借りがあろうとなかろうと助けてくれそうだし」
完全に見透かされている。もうセラもアリオンも先輩も、俺が暮らす何の変哲もない平凡な日常を構成してくれる仲間なんだ。何があろうと、俺が守る。
心の中でそんな事を思いながら、俺はセラに聞いておきたい事があったのを思い出した。
「そういえばセラ、物語創作クラブに行きたそうだったじゃないか? 何でここに入ったんだ?」
そう、王国からは歓迎されているようだが、フェンリルナイトが歓迎されているのは「民の為に戦った人物だから」である。
戦う事は常に危険と隣り合わせであるため、そんな人物に近い所に居るこのクラブ、実は危険なのだ。本当ならこんな危険なクラブは解散させて、皆にも平和な生活を送ってほしいのが本音なのだが。
「あー、そっか、私が入部を決めた時、レオ君居なかったよね」
セラはそう言いながら微笑み、そして語り始めた。
「私ね、小さい頃から本を書いてみたい、物語を作りたいと漠然とは思ってたんだけどね、本気で物語を書きたいと思ったきっかけは、1冊の本だったの」
人生を変える本に出合う。よく聞く話だ。実際、悪い事ではないと思う。
「『希望の英雄』という本を読むことがあったのだけれど、その本に感動してね」
※ただしその本は除く
「そして、当時はファンクラブって名乗ってたけど、説明会の時に話を聞いて、確信したの。その本の希望の英雄とフェンリルナイトって人は、同じ人だって」
「ちなみに、その説明会してた人って……」
「2年生の先輩方だね」
やめてくださいセラさん。その本のお話は、フェンが面白おかしくキザったらしく脚色し、それを母さんが冗談半分で脚色したヤツです。俺とは似ても似つかないでしょ?
あ、先輩方がフェンリルナイトの活躍を捏造したのか。そうだよね、そういう事にしとこう。
「きっかけをくれた本の主役に話を聞いてみたい、ってのもあったから、クラブに入る事にしたというのが、理由の一つかな?」
「もう一つは?」
「それは流石にヒミツ」
「そうか、それは残念だ」
そうかー、あの本のせいかー、何なの母さん。俺に恨みでもあるの?
セラはくすくすと笑いながら
「まさか、その私の夢のきっかけをくれた人が友達で、平凡な男の子で、でも学校では鬼神とか悪人みたいな扱いされてるとは思わなかったけど」
「どうだ、これが本に出てくる登場人物だ。幻滅したか?」
「むしろ安心したかな?」
何故セラが安心したのか、俺には分からなかった。憧れた人がごく普通どころか、一時期悪目立ちしてたような男だぞ?
「本では完璧超人の英雄、なんて扱いだったから、本当にそういう厳しい人だったらどうしようかとちょっと心配だった。むしろ、私たちと同じように泣いて笑って怒って、そんな人でほっとしたよ」
そこで、セラは俺の顔をじっと見つめ、そして……ニヤッと笑いながら
「でも、私の理想の英雄様よりはやんちゃで、子供っぽいかなぁー?」
なんて抜かすのだ。ひどくね?
俺は年相応だっての。
「なにをー!」
「きゃぁ!! レオ君が怒ったー!!」
キャッキャッ、と2人でちょっとだけ騒いでから笑い合い
「俺はその本読んだことないけどさ、その英雄は、完璧超人なんじゃなくて、ただ単に、弱みを見せる事が怖かっただけだと思うよ」
「レオ君、急にテンション変わるからたまに置いて行かれる時があって困るんだけど……それは、どういうこと?」
「もし弱みを見せれば、姫様、だっけ? 姫様が『助けてくれる』『行かなくていいと引き留めてくれる』なんて甘えてしまうと思ったんだよ」
「甘えてもいいじゃない?」
「でもその英雄はそうしなかった。その英雄が一見完璧に見えるのは、ただの本人の我が儘だったんだよ。自分が折れる事を何よりも恐れ、そして、自分が全てを解決しよう、なんて思い上がったわけで」
「我が儘なの?今も?」
……当時はまだ若く……やらかしたことに対しては反省してます……
「今は、一人で全部やろう、なんて抱え込む気はないな。だけど、俺が出来る事なら俺が解決してやりたい、そして、皆で平凡な生活を送りたい。俺が望むのはそれだけだよ」
「それ、今もあまり変わってないって事だよね……」
セラが何かボソッと言ったようだが、風の音のせいか、その一言は聞こえなかった。
「そういえばレオ君、本の中では死んでたよね? 何で生きてるの?」
「元から死んでません、イキテマス」
さて、夜風もまだ冷たい時期である。さっさと明日に備えて寝よう。俺はセラに遅くならないよう伝えてから、自分の部屋に戻るのであった。
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