第6話 相棒との再会
「はぁ……重いわねぇ……」
帰り道。レオは先ほどの大怪我からは復帰したものの眠ったままであったので、リリカが背負って連れて帰っている最中である。
『いやあ、寝てしまってるから仕方ないかな』
「あんたがレオ乗せてくれれば全て解決したのにね」
リリカがギロッと狼……ではなく、小さな犬を睨む。
『僕だって魔法使いすぎてエネルギー足りてないから、仕方ないかな』
まあ、大掛かりな魔法を使った後なので、この狼がそう言うのもわからないでもないのだけど
―一筋縄ではいかないタイプね、この狼
なんというか、人をからかったりするのがものすごく好きそうな気がする。
油断してると、狼相手なのに狸に化かされた思いをさせられたり、狐に鼻をつままれたりするようなイタズラをしてきそうだ。
『何だか失礼な事考えてるかな?』
「人の心を読まないで…よっ!!」
よいしょっ! とレオを背負い直しながらリリカが言った。
『僕が好きなのはイタズラじゃないかな、人をおちょくったりからかったりする事かな』
「大して変わらないわよ」
『酷いなぁ。……ところで、よく寝てるね。完全に安心しきった寝顔みたい。』
リリカに背負われて寝ているレオを見ながら言う。
「まあ、小さい頃からよくこうやって家に帰ってたからね」
レオはここ最近見せた事の無いような無防備な顔をしていた。
いくら成長して生意気になったと思っても、その表情だけは昔のままであった。
***
レオが物心付くか付かないかの頃、母はロゼッタにかかりっきりであった。
父も仕事が忙しく、自然とリリカとレオは2人で遊んでいることが多くなった。
もちろん、お手伝いさんも一緒にいるのだから、レオが遊び疲れて眠ってしまっても、そのお手伝いさんにレオを連れて帰ってもらえばよかっただけの話だったのだ。
だけどリリカはレオを背負って家に帰る役目だけは誰にも譲るまいとしていた。
――何てことはない、ただ単にリリカも寂しさを感じていたのだ。
忙しい父と妹にかかりきりの母。ずっと寂しさを感じていた。
だからその昔、レオが自分の誕生日を忘れていた時に余計に悲しさを感じたのだ。
弟も自分を見てくれてない、そう感じてしまった。
――我ながら子供っぽい。今になってそう思うし、今あの時の事を思い出すと恥ずかしい
だけども、弟がくれた、花で編んだ指輪、これで機嫌を直した事には理由があるのだ。
あれはいまだに怖くてレオには聞けてないので、もしかしたらただの偶然なのかもしれないが
その時レオが編んでくれた花の指輪は、私が好きだとレオに話した事のある花で作られていたのだった。
まあ、今聞いてもはぐらかされるだけだろうから、真相はもう闇の中なのかな。
――そう言えば、あの後どんな会話したんだっけ……
「いつか、お姉ちゃんの誕生日に僕が*****を*****してあげる!」
「嬉しい!でもレオ、そういうのは****に*****よ?」
「じゃあ問題ないね!僕にとって*****は****だから!」
細かい所は記憶が曖昧だけども、リリカは不思議と心が熱くなるのを感じた。
***
『さて、美しい姉弟愛も見れた事だし、残りの距離は僕が運ぼうかな?』
「あんた、魔力が足りないから小型化してたんじゃないの?」
『え? ただ単に姉弟愛が見たかったから小さくなっただけだかな?』
「うわ、ホントいい性格してるわぁ」
『まあ、いいじゃない。さて、大型化しますか……』
「うーん、このまま私が連れていくわよ」
『えー、せっかくやる気になったのにー』
「まあ、もうちょっとで着くからね、気持ちだけもらっとくわ」
そう言いながらリリカは、背負ったレオの重みを感じながらしみじみと言った。
「ほんと、あの可愛い子が大きくなって……」
『お母さんみたいなセリフかな、それは』
「人が感傷に浸ってる時に茶々入れないで」
『僕は食えない奴みたいだから、そういう風に振舞っただけかな。それよりも、約束よろしくね!』
「はいはい、まあ、任せなさい」
レオが助かった後、大きな狼はリリカに対して頼み事をしてきた。
曰く、レオのペットとして飼ってほしいという事だった。
――さて
玄関の前でリリカと狼は最後の打ち合わせをする。
「あんたは普通の犬のふりしなさい! 後はこっちで話付けるから」
『わかったよ…』
「何? 急に従順になったわね……助かるけど」
玄関を開けると……いやに騒がしかった。
「あ! リリカお嬢様! おかえりなさいませ!」
「えっと、なんだか騒がしいけど、何があったの?」
「あ、そうですよ! ロゼッタお嬢様が部屋にこもって食事すらしなくて、もう使用人一同心配で心配で……」
――そうだった、まだその問題があった。ロゼッタとの仲直り、しなきゃね。
大丈夫、レオが私のためにあそこまでしてくれたんだから、私も勇気を出さないと!! とリリカも決心を固め……
「って、リリカお嬢様、そんなに汚れて何を…って、レオ様も服があボロボロで気絶してらっしゃる!!」
「あ、あの、レオがこの子犬を助けたら懐かれたみたいで、この子飼ってもいいかな?」
「お話は後で聞きます!! さあ、まずはお風呂とお着替えに行ってください!! 誰か!! レオ様を自室まで運んで差し上げて!!」
その日、一気にいろんなことが起きたせいで、犬を飼う事については誰も大して言及してこなかった。
こうして、狼はルーディル家の一員となった。
***
――翌日、レオの自室。
レオは目を覚ました。そして、徐々に目の焦点が合い、目に入れたものが見えてきた。
見知った天井、見知った家具、見知ったベッド、そして、見知らぬ2メートルくらいの狼が顔をベロベロ嘗めていた。
……狼と目が合った。
……狼も俺も動きを止める……
ほんの数秒か、それとももっと長い時間か、互いに見つめ合った後……
……ベロベロベロベロ
「いや、目が合った時点で止めろよ。無言で続けるなよ。」
『失礼、主が僕を見ても何も言わないから、続けろという意味かと』
「なんだよそれ……」
レオは右手で顔を覆い、ため息をついて呆れたポーズを取ったあと、ニヤッと笑って言った。
「やっと会えたな、相棒」
『やっと会えましたね、主』
レオは前世の記憶はほぼ忘れている、だが、変身ヒーローに関わる点だけは朧気ながら覚えていた。
こいつとはよく駆け回り、戦場に向かっていた。
「またこき使ってやるからな、覚悟しろよ」
『僕は主のため、どこまでもお供する所存です』
前世の俺のバイクだった。