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第65話 男子料理部、撃沈!

「レ、レオさん!! 助けてください!!」


 山の麓の村に到着し、そこの宿で休んでいた所、ルリさんが慌てた様子で宿に駆け込んできて、ロビーでくつろいでいた俺にそう声をかけてきた。


「ルリさん!? どうしたんですか!?」


 ただ事ではない様子のルリさんに俺も緊急事態なのか、と身構える。


「そ、それが、イザークさんとレイスさん、アリオンさんが!!」

「!! まさか!!」


 確かにその3人は宿に荷物を置くなり、そそくさとどこかに消えてしまったが……先輩はあの「先輩を化け物に変えた剣」を帯刀している。つまり……あの剣を回収しに来た敵が襲ってきても、おかしくはないのだ。しまった、このタイミングで来るとは思わなかった!!


「話は後です!! 着いてきてください!!」

「わ、分かった!! フェン、済まないが皆の護衛を頼む!!」

「分かった!! 主は行ってあげて欲しいかな!!」


 俺は宿に残った皆の護衛をフェンに任せ、ルリさんの案内で村の乗合馬車管理組合の建物に駆け込む、そこに広がっていたのは……


「あ、レオ。お前も来てしまったか」


 厨房でエプロンをつけ、皿になにやら盛り付けていたアリオンと


「え? お前ら、何やってんの?」

「僕達の恰好見て分からないかな? 料理だよ」


 先輩も、長い髪を後ろでくくり、エプロンを付けて何か焼いている。


「いや、それはわかる、だが……」


 そう、料理をしているのだ。俺に触発されたのかは知らないが、それ自体は良い。だが……なるほど、ルリさんの駆け込んできた理由がなんとなくわかったぞ。


「おい、素直に答えろ……このサラダ作ったの、誰だ?」


 一番の大問題、それはこのサラダだろう。


「それは俺だ。どうだ、うまそうだろ? 俺は初心者だからな、失敗しないようルリさんに助言もらってサラダにしたぞ。本当は凝った料理を作りたかったのだがな」


 アリオンがちょっと誇らしげである。うむ、下手に凝った料理をせずに、基本に忠実だ。メニューの選択にちゃんと他の人の意見を聞き、初心者として謙虚に作ったところもポイントは高い。だが……


「ほう、それは殊勝な心掛けだ。それてひとつ聞いていいかな? このキノコ、どこから持ってきた?」


 このサラダに入ってるキノコ、これが問題だ。


「そうなんだよ、この村、キノコ売ってる店がなくてな。採ってきた」


 予想通りだ。どうせ、普通のサラダだと面白みが無いからとアレンジしたのだろう。


「ほう……では、このサラダに乗っている毒キノコはお前が取ってきた、と?」

「え? 毒キノコ? 何言ってるんだ? いつも食べてるキノコと同じ見た目じゃないか!」

「キノコはな、見た目がそっくりな毒キノコ多いんだ!! 野菜も同じ、下手したら死ぬような植物がいつも食べてる野菜と同じ見た目な事もあるんだ!!」


 俺は辺境の男爵家で田舎出身なので、キノコ狩りをする機会もあったのだが、そんな俺ですら間違えるような毒キノコも世の中にはあると聞いた。ましてや、キノコ狩り未経験でいきなりキノコ狩りをするとは……いや、ムリだろ。


「それじゃ、今日の食卓にコッソリ出そうと思ったこの料理は……」

「出していいわけないだろ!! 捨てろ!!」


 アリオンには申し訳ないが、流石に毒キノコ入りだけは許可出来ない。さて、お次は……


「で、先輩、それは何ですか?」

「ああ、僕も初心者が簡単にできそうな、鶏肉の串焼きを」


 何言ってるんだこの人。鶏の串焼きを作ってる人ナメすぎだろ。

 実際、表面は所々黒くなっている。これ、強火で一気に焼いたりしてないか?


「先輩、それ、味見しました?」

「味見? 何故そのような事をしなければならないのだ?」


 料理経験の有無でこんなに料理に対する見方が変わるものなのだろうか?


「いいから、一口食べてみな」

「わかったよ、仕方ないな……」


 先輩は仕方なく、といった様子でパクッと一口


「!!」


 予想通りだ。


「ほら、吐き出していいから。わかったでしょ?」

「レオ、大変だ!! ここの鶏肉は欠陥品だ!!」


 ん? 何言ってるんだこの先輩は。


「焼いても味はしないし、中は生のままだ!!」

「それは先輩が下味をつけなかったのと、強火で一気に焼いたから中まで火が通ってないだけです」


 仕方ない。先輩の鶏肉と間に刺さったタマネギは炭になった所だけ捨てて、俺が何か再利用しよう……


「はっはっは。坊ちゃんたち、これじゃ俺の不戦勝になっちまうぞ」


 そう愉快そうに言いながらイザークのオッサンが持ってきた料理は……うん。別に食卓に出してもいいんだけどさ……


「俺が料理マスター、ってことでいいかな?」


 流石に初心者相手に料理を教えもせずに自分だけ作ってて大人げない気がするので、灸を据えるため、ちょっと別の勝負を持ちかけることにした。


「じゃあイザークのオッサン、オッサンの料理を宿の料理と一緒に出してもらって、どれがオッサンの料理かを女性陣の半分以上に当てられたらオッサンの負け、って勝負にするか?」

「良いぞ!! まあ、流石に半分以上に当てられることは無いだろうがな!!」


 さて、先輩のこの鶏肉とタマネギ、どうしてやろうかな……仕方ない、安直だけどスープにでもしておくか。


***


 宿の夕食、皆が1つの大きな卓に付き、大皿に乗った料理が複数用意される。そこから皆で好きなようにサーブして楽しむ形式なのだそうだ。

 そして、女性陣には1つだけ、イザークのオッサンの作った料理があるから当ててみて欲しいと言ってある、その結果が……


「絶対に、これね」と迷いもなく指さしたのは姉さん

「これですね」とミナさんが続く

「私はこれだと思います」ロゼッタが遠慮がちに指し示す

「んー、これですかねぇ」とシャーロットさん

「アタシもシャーロットに賛成」とミラ

「これじゃないかな?」キャロルちゃんにまでバレてしまってる

「他の料理の方が食べたい。これだけは食べたくない」とフェンが最後の一撃、結構ひどいなその言い方は


 女性陣は皆、1つの料理を指さしている。それは紛れもなく、イザークのオッサンの作った料理であった。


「ば、バカな!!」


 イザークのオッサンがガクッっという音を立てそうな勢いで、肩を落とす。


「な、何故だ!! 何故食べもせず、分かってしまうのだ!!」


 確かにオッサンは、料理の腕はあったと思う。先に味見させてもらったが、味も悪くない。だが……


「「「「「「「茶色い」」」」」」」


 唖然とするオッサン、吹き出すルリさん。


 そう、料理を趣味とでもしていなければ、男の一人所帯の料理で「彩」を出すことは稀な事なのだ。どうしても茶色い食卓になってしまう。そして、この土地柄についてはアリオンの失敗がヒントとなっているのだ。


―― この村、キノコ売ってる店がなくてな。採ってきた


 つまり、キノコのような「山の恵み」が豊富で、売り物にならず、キノコ狩り未経験のアリオンでも(毒キノコ混じってたけど)採ってくる事が出来た、それほど山の恵みが豊富な土地なのだ。


 食材の中心に、そして彩にと、他の料理には山菜が入っているため、山菜を使っていないオッサンの料理は相対的に茶色さが際立っているのだ。


「ま、まだだ!! レオの料理を7人中3人以上が当てれば、引き分けだ!!」


 あ、オッサンこっすい。こっそりと俺の敗北のボーダーライン下げてきやがった。

 まあいいや、何か知らんけどこうやって皆が盛り上がるなら、勝敗とかどうでもいい。


 ちなみに、俺の料理を当てられたのはミナさんとミラの2人だけだった。


「香り付けに山菜の葉を使ってるけど、アタシは料理の全体との味の調和に違和感を感じた」とはミラの意見。バレたか。

 実はキノコを捨てるアリオンを見て、山の恵みを使って他の料理に紛れ込む手法を思いついたので、結構付け焼刃だったのだ。


「お肉の処理がなんだか中途半端だったように思います。なので、消去法的にこれかな、と」とミナさんが言う。ミナさん、それ、先輩のせいです。


 こうして、男子料理部の初陣はほろ苦いものとなってしまったのであったとさ。

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