第64話 男子料理部、襲来!
「へぇ、あの料理はそういう工夫してたんだ」
「レオちゃん、物知りー!」
「弟くん、料理も上手くて、びっくりしちゃった」
「主―! おやつ食べていい!?」
どうやらお弁当については、王女様方からは合格点をいただけたようだ。
「レオくん、あれのレシピも教えてもらっていいかな?」
「それは私も知らなかったです。帰ったらやってみます!」
「お兄様に料理の腕で負けそうで怖いです……」
「ねぇ、主―!!」
セラ、ミナさん、ロゼッタの反応からも、満足いただけたようだ。ちょっとロゼッタが落ち込み気味だが、俺のせいじゃないだろう。うん。
「しっかしあんた、1か月かそこらで料理上達したわねー」
「まあ、料理部の方にも顔出してたからね」
「主―!! 聞いてる!?」
姉さんからも合格点をもらえたようだ。よかったよかった。そしてフェン、お前、おやつばかり食べてるんじゃない!! 俺は無言でフェンに包みを渡す。
「主ー、これなに?」
「お前、さっきメシ食わなかったろ? おやつばっかりはダメだ、さっきの弁当残しておいたから、これ食べなさい」
「えー」
あからさまにイヤな顔してるが、流石におやつばかり食べてるのを放置はできない。今回ばかりは甘やかすわけにはいかない。
「ちぇー」
フェンは不満そうに包みを開け、そして、残しておいたお弁当をパクッ
「!!」
パクッパクッと無言で食べ続ける。
「さっきお弁当の時に皆と一緒に食べられたらもっとおいしかっただろうにな。だから、これから先、おやつはちょっと少なめにしろよ?」
コクコク、と頷く。
そんな俺の回りの輪から離れて、馬車の前の方、御者台の近くには先輩とアリオンが陣取っていた。どうやら、御者台のイザークのオッサンと何か話しているようだが……何を話しているんだ?
***
「先輩、やっぱり料理の出来る男ってのはいいんですかねー?」
「僕は良くわからないが、いいんじゃないかな?」
女性陣に取り囲まれているレオを見て、レイスとアリオンはため息をひとつ。確かにレオの料理は旨かった、だが……こう、人気を独占されたみたいでこれはこれで悔しいのだ。
「何だ? 坊ちゃん方、料理出来ないのか?」
御者台にルリと並んで座っているイザークが声を掛ける。御者台の真後ろで陰鬱な空気を醸し出しながらため息をつかれるのはどうもガマンならんのだろう。
「俺は子爵跡取りとして、って教育されてきましたからね」
子爵家跡取りとして、つまり、次期当主としての教育。そこに料理という項目は無いのである。
「僕は剣一筋でしたから……まあ先日、その剣すら折られましたが」
レイスも伯爵家としての教育を受けており、料理は未知の領域なのである。
「はっはっは、どうせ、レオが折ったんだろ。あいつすぐ人の物を折るからな」
「全くです、はっはっは」
イザークは蹴り飛ばされた時のことを思い出す。確かにあの時はレオにプライドも何もかもへし折られた……だが、そのおかげで見えた事もたくさんあり、自分の大切な事を思い出す事も出来たのであった。レイスの反応を見てイザークは、レイスも同じだったのだろう、と察した。
ちなみに、各地を転々とし、時に野営をする必要のあったイザークは基本的な料理程度は出来ると豪語している……基本的な料理、といっても、食べられるもの、という範疇ではあるが。
「現に今、女性陣独占して俺と先輩の心を折りに来てますからね」
「「「はっはっは」」」
男3人、青空の下で高らかに笑いあう。本日は晴天なり。だが、その笑い声はどこか乾いている感じで……
(え?なにこの空気、私もあっちの女性の和に入りたい)
イザークの横で黙って様子を見ていたルリの危機感を煽るのであった。
「……どうです? たまにはレオのプライドヘシ折ってやりません?」
突然、アリオンがそのような事を言い出した。
「……いいだろう、僕は乗った。イザークさん、この話、聞いたからには貴方も共犯ですよ?」
この集団のリーダーであるはずのレイスすら賛成していた。
「おいおい、穏やかじゃねぇな。何する気だよ……」
イザークも「穏やかじゃない」といいつつ、何かイベント事が起きるのではないかとちょっと楽しげだ。
(不穏な会話……私、巻き込まれるんじゃないでしょうね……? 嫌ですよそんなの……)
男3人の悪乗りにイヤな予感を感じ、ルリはより一層、置物としてそこに座っているのであった。
「僕ら、フェンリルナイト様を助け隊男性陣はこれより」
「フェンリルナイトことレオのプライドをへし折るため」
「「料理部を設立する事を決めました!!」」
そう高らかに宣言するレイスとアリオン。料理で度肝を抜かれた事が悔しいから、料理で見返す、そういう健全な趣旨のようだ。
「つきましては、今日到着する村の乗合馬車管理組合の建物の厨房をお借りしたい!!」
思い立ったが吉日、とでも言わんばかりに、今日から早速料理をしてみるようだ。
(よ、よかった!! 平和だった!!)
さっきまでの不穏な空気とは裏腹に、すごく平和的な内容であったため、ルリは肩を撫で下ろす。
「おう、いいぞ。ルリ、到着したら用意してやってくれ」
「え? あ、はい」
まあ、管理組合の建物の施設の一角を貸し出すだけなら構わない、という事で、思わず了承をしてしまったルリ。
「だが坊ちゃんども。俺にも作らせろ!! 坊ちゃんと俺、それぞれ1品ずつ作って、今日ん晩飯にこっそり出させてもらおうか」
イザークはいいとして、残り2人は料理の「り」の字も知らない人物である。それが、教えを乞わずにいきなり料理を実践しようというのだ。その事に今、ルリは気が付いたようだ。
男3人、同じ厨房の中、何も起こらないはずがなく?
(だ、大丈夫だよね……?)
結論から言おう、ダメだった。
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