第63話 パンドラボックスが開かれた
さあ、皆、和気藹々と楽しい馬車旅を満喫しているが……今日のメインイベント、忘れてないよな?
馬車が進み、段々と日が高くなるにつれて、俺の顔がちょっとずつニヤけてくるのが分かる。
料理部での修行の成果を見せるチャンスは刻一刻と迫っているのだ。
覚悟しろ、お前ら!!
「主、おなかへったー!!」
「お前、さっきからお菓子食べまくってたろ……確かに、もうそろそろお昼ご飯を食べてもいい頃合いだろうな」
フェンにお腹が減ったと催促され、俺は最高にニッコニコの状態で弁当箱を荷物から取り出し……馬車内が静まり返った。
「レオ、あんた、もしかして、お弁当作ってきたりしてるの……?」
姉さんがガタガタ震えながらそんな事を聞いてくる。そういえばお弁当作ってくるって言った時、居なかったな。
「弟君のお弁当かー、ミラちゃん、キャロルちゃん、楽しみだねー」
「アタシは怖さ半分だけどね」
「私はレオちゃんのお弁当楽しみです!!」
王女様方3名はいいのだけど、それ以外のメンバーの反応が結構失礼だ。
「イ、イザークさん!! 山の麓の村まであとどれくらいかかりそう?」
「ん? レイスの坊ちゃんどうしたんだ? 結構順調だから、あと2時間くらいかな?」
「ほらほら、午後2時くらいには着くそうだ!! 遅めの昼食でもいいじゃないか」
「時間に余裕があるならよかった、どこか途中で降りて、皆で弁当囲もうよ。イザークのおっさんたちも」
「お、いいのか? ルリ、どっかこの先に休憩できそうなポイントあるか?」
「もうすぐ着きますよ、そこで休みましょう!」
へー、受付のお姉さんの名前、ルリって言うんだ。それはともかく……
レオ特製弁当を阻止しようとした先輩、撃沈。
「レオくん、その、旅行の楽しみは現地で美味しいものを食べる事だと思うんだ!!」
「そ、そうだぞ!! お昼も村で食べればもっと楽しめるぞ!」
「お弁当持って出かけるのも旅の楽しみだぞ!! それに、遅めの昼ごはん食べると、夜あまり食べられなくて悔しい思いするぞ?」
そんな、皆で俺に対して明らかに失礼な発言を繰り返していたが、そのうち馬車が止まった。
よし、時間まで逃げ切った!! てか皆、本当に失礼だな。
「よし、ここで休憩にしよう……なんだお前ら、俺を恨みがましい表情で見やがって」
俺の弁当から逃れたがってた奴らが一斉に、時間切れを告げに来たイザークのオッサンを睨みつけてた。
よし、失礼な事言いまくったこいつらに吠え面かかせてやる。泣いて謝っても許してやらん。地獄の釜は間もなく開かれる……
いや、ちゃんと色合いも整えた普通の弁当だよ!! 皆に感化されて、俺が毒物を作ってきたような言い回しになってしまったが。
***
地べたに直接座り込むようなことのないように、地面に敷物を敷いてから、皆で弁当箱を囲んで座る。大きめの弁当箱が3つ。その弁当箱を皆が固唾を飲んで見守る。
「はい、はい、はい!!」
さっさと食べようね、と言わんばかりに、俺は弁当の蓋をパッパッパッと開ける。皆は心の準備をしていなかったのか「あぁぁぁぁぁ」とか言ってるが、そんなのはお構いなしだ。
そして弁当箱を覗き込んだ皆の感想は
「茶色くない」
「いうほど茶色くない」
「茶色、ではないかな」
「茶色じゃない」
見栄えで文句が出ないよう、パンに具を挟んだ料理にしておいたからな。
「あー、これ、おいしー」
「ふーん、これ、タマゴのペーストのやつ、味が2週類あるね?」
「あ、ほんとだ。片方はちょっとピリッとした感じするね」
キャロルちゃんはすぐに食べ始めてくれた。ミラとシャーロットさんなんか、タマゴペースト2種類作ってきたのをすぐに見破るほど、味わってくれてるみたいだ。
「ふっふっふ、普通ならタマゴペーストの味付けはマスタードとピクルスを使うが、もう一つはトウヨウのカラシとラッキョウで味付けしてるのだ」
「へー、これはこれでアタシ好きかも」
「ピリっとしたのもいいけど、私は普通の方がいいかな」
普通に料理談義を始めたミラとシャーロットさんと俺、そして、バクバクと食べているキャロルちゃんを見て、皆も警戒心を緩めたのか、次々と手を伸ばしてくれて
「え? レオ、なにこれ、うま」
「レオくん、ちょっと後でレシピ教えて!!」
アリオンとセラ、あれだけ嫌がってたのに普通に食ってくれてるし
「前まで茶色かったのに……」
「レオ様が……普通の料理を……」
「……帰ったら、私も料理の練習します」
どうやら家族の度肝も抜けたようだ。
「お、このピリッとしたタマゴうめえ。レオ、やるじゃねーか」
「こう、料理出来る男性って、ステキですよね」
「お、俺だって料理くらい出来るし!!」
ルリさんになんかアピールしてるイザークのオッサン。
「料理か……僕も始めてみようかな」
「先輩、最初の頃は茶色い料理って言われ続けるけど、ガンバッテ」
先輩まで料理を始めようと思ったようだ。そしてそんな中
「主ー、おやつ食べ過ぎてお昼ご飯食べられそうになーい」
「お前な」
お腹空いたって言ってたやんけ!! フェンはいつも通りだった。
***
「何故奴が生きている!!」
――ドン! と机を思いきり叩く男が1名。
王都、星導教会。教会内の1室で、司祭と謎の男が向かい合って話している。先ほど机をたたいたのは司祭の方、そしてもう1名は
「いやー、剣を渡して魔獣化したところまでは確認したんですよー」
ヘラヘラとそう告げる男。以前、レイスに天秤剣を渡した謎の男であった。
「くそっ!! まだ王宮は情報を掴んでいないようだが、あの男、あれからずっと天秤剣を帯刀してると言うではないか!! いつバレるか……死んでくれれば罪も被せ放題であったのに!!」
フェンリルナイトをおびき出すため、魔獣を放って様子を見る。そのため、以前深夜に魔獣を1回放ち、見事そこに顔をだしたフェンリルナイト。確実に仕留めるため、剣の扱いに炊けた歪んた心の持ち主に天秤剣を渡し、確実にフェンリルナイトを消すつもりであったのに……
「しかし、何でですかね? フェンリルナイトは魔獣から人間を切り離せるんですかね?」
司祭でない男はあいもかわらずヘラヘラとしており、頭を抱える司祭を愉快そうに観察しているが、司祭はそんな男の様子を気にも留めず、男の発言に「はっ!」となったようだ。
「そうか……龍音叉!! フェンリルナイトめ、龍音叉の秘密に気が付きよったか!! まさか、星導器の秘密に気が付いてしまったのか……!! おのれ、フェンリルナイトォォォォォ!!」
おもしれー、司祭でないほうの男は司祭の動向を見てそう思っている。そして、おもしれーから
――もっとかき回してやろう
「そういえば、天秤剣を持った男、王女様方と一緒に旅行に行ってるみたいですよ」
「なに? 旅行?」
よし、乗ってきた!!
「最初はあの山、そしてその後に龍音叉のあったところの砦に行くそうですね」
「ほうほう、あの山か……クククッ……どうやら、私にも運が向いて来たようだな……」
クックック、と笑う司祭。そして、そんな司祭を面白く観察する男。
「よし、念のため、砦の方はお前が控えてろ!! 万が一山から無事生還しても、砦で仕留めろ!! いいか!? 失敗は許されんぞ!!」
「へいへい、じゃあ、あのクスリと何人か贄もらっていきまーす」
「ああ、勝手にしろ」
バタン、男が部屋を出て行き、司祭が一人残される。残された司祭は窓から外を眺め、クククと笑いながら
「そうか、あの山か。普通の人間が生きて出られると思うなよ……」
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