第62話 弟はフェンリルナイト
「アタシは認めないわよ!!」
俺は、まさかミラから拒否を示す言葉が出るとは思っていなかった。
ミラとの付き合いはまだそんなに長い方ではない。せいぜい1か月かそこらの付き合いではあるが、ミラの性格を何となくつかんではいたと思う。
ミラはこう、言動がガサツなように見えて、実際ガサツなところはある。それでいても、不器用なりに人一倍気を遣う気遣い屋な部分もある。
シャーロットさんとミラ、表面上正反対なように見えて、その実、似た性格なのである。
たとえ、この直前に二人が大喧嘩をしていたとしても、それは相手を思っての行動だったろうし、周囲の皆が歓迎ムードを出してる中で一人強固に反対するような和を乱すような行動を嫌う人物、それが俺の中でのミラの評価であった。
実際、ミラもここまで強く言うつもりもなかったのだろう。ミラから拒否され、涙目になっているシャーロットさんを直視できずに目を背けている。
(本心から出た言葉ではない、ってことかな……?)
とはいえ、ミラの一言で場の空気が澱んでしまったのも事実。周囲の皆も、どうしようか、といった空気を醸し出しているところだ。
「ミ、ミラちゃん……お姉ちゃんのこと、嫌いになっちゃったの?」
泣くのをこらえ、それでも拒否されたのが堪えたのか、弱弱しく質問するシャーロットさん。
「っ!! そ、そんなんじゃないけど……ごめん、アタシも言い過ぎた……」
ミラはとりあえず、本心から突き放したいわけではない、とは言ってはいるものの
「で、でも!! 今回の旅行中、保護者として認めるだけだから!! お姉ちゃんとは認めないから!!」
シャーロットさんには一線を超えさせたくない、そんな思いがあるようだ。対するシャーロットさんは
「う、うん!! ミラちゃんにお姉ちゃんと認めてもらえるよう、おねえちゃん、頑張る!!」
などと言っている。
「おーい、馬車の用意整ったぞ!! なんだ? 行くのか? 行かないのか?」
イザークのおっさんが空気を読まずにそう声を掛けてくる。いや、むしろ、わざと空気を読まなかったのかもしれない。
「あ、馬車の準備が出来ましたよ、皆さん!! さあ、楽しい旅行に出発しましょう!!」
ミラがシャーロットさんを心から拒絶しているわけではない、という事は分かったので、とりあえず皆はそのまま馬車に乗り、出発したのだ。
さあ!フェンリルナイトの戦歴を巡る旅に、出発だ!!
***
「……」
「……」
「……」
えー、こちら、馬車の中のレオです、馬車の乗り心地は最高です。路面の揺れなんか、全くと言っていいほど感じません。
「……」
「……」
レオです……友人同士で旅をしているはずなのに、旅してる空気じゃなかとです!!
(ね、ねぇ、レオ君。この空気、何とかならないのかな……?)
(そうだな……よしアリオン!ちょっくら野良ドラゴンに喧嘩売ってこい)
(よしわかった……って出来るか!!)
「あ、そういえば」
姉さんがそう声に出すと、俺の方を向く。
「私、この旅でどこ巡るか聞くの忘れてたわ、どこ行くのかしら?」
別に誰が悪いわけでもないけど、この空気感を作ってしまった自分に負い目でもあるのか、そう話を振ってきた。
「あー、姉さんたちには言ってなかったね。今回の旅は、フェンリルナイトの戦った場所を巡る旅なんだよ」
「フェンリルナイトって、最近王都で出た魔獣を倒したとかいう変人でしょ?」
変人とはひどいな。
「あれ?でも、そんな人が戦った場所を巡るって……王都と、あとは、あの砦くらいですよね?今向かっているのはどこなんですか?」
ミナさんが首を傾げる。
「ああ、フェンリルナイトが初めて戦った場所だよ……具体的には、3年ほど前の真冬の深夜、薬草を取りに行ったフェンリルナイトが戦った場所、だね」
3年前、真冬の深夜、薬草、この言葉でピンと来たのか、姉さんとミナさんの俺を見る目が厳しくなる。
「あんた……まさかまさかとは思うけど……その……」
「フェンリルナイトって……レオ様の事なんでしょうか……?」
「うん」
はぁ、とため息をつく2人、何故ため息?
「レオ、頼むから、危険な事だけはしないでよね……あんたがこれ以上ケガなんてしたらもう……」
「レオ様、使用人を代表して、そして、私個人としてもお願いいたします。無理だと思ったらすぐに逃げてください!!」
「え? いや、その……」
「返事は、はいかイエス、どっちかで応えなさい!!」
「は、はい……」
「あらら、フェンリルナイトっていう正体不明の騎士様が、ミラちゃんとキャロルちゃんを守ってくれてる、という噂は聞いてたけど、そうかー、弟くんだったんだー」
詰められている俺の所に柔らかな笑顔を浮かべ、シャーロットさんが天使のように降臨なされた!! おお!! なんと神々しい笑顔であろうか!!
「シャーロット、その、あまりフェンリルナイトがレオだった、なんて言いふらさないようにね? レオもだけど、そんなレオと仲が良いアンタも変な事に巻き込まれるかもしれないし……」
「そんな事しないよ? 弟くんだけでなく私の事も心配してくれて、やっぱりミラちゃんは優しいね。前みたいにお姉ちゃんって呼んでくれてもいいのに……」
「それはイヤ」
それは残念、と少しも残念じゃなさそうな様子で発言し、改めてシャーロットさんは俺を見る。
「騎士様、何卒、ミラちゃんとキャロルちゃんをお願いいたします。2人とも、本当にいい子なんです。この2人をどうか守ってあげてください!!」
ちょっとやめてよ、恥ずかしい、と、ミラはシャーロットさんの頭を上げさせ、この話はお流れになった。
今のやりとりで、2人の関係性も別に険悪なわけではないと分かったのか、馬車内の空気もいくらか柔らかくなり、ようやっと楽しい旅の始まり、といったところだ。
――この2人をどうか守ってあげてください!!
俺は自分の為だけ、自分の守りたいものを守るために力を使う、そう心に決めている。だから、人に頼まれて何かを為す、その為に力を使う気はさらさらなかった。
そこまで面倒を見てしまうと、手が回らないし、責任に潰されかねないと思っているからだ。
だけれど……シャーロットさんのあのお願い……まいったな……守りたいものが、また一つ増えてしまったじゃないか……
フェンがお菓子を食べながらこちらをじーっと見ている……「また何か余計な物を背負い込もうとしてる……」って顔だなおい。大正解だよ
相棒、すまんな。お前には世話をかけっぱなしだ。
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