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第60話 フェンリルナイトの痕跡を辿るツアー

 さて、学校が始まってから1か月ほどが過ぎ、今から学校は


「長期休暇だ―!!」


 1週間ほどの休みに入るのだ。

 この1週間の休みは、進学と同時に親元を離れ家が恋しくなった者の一時的な里帰りや、高等学院の学習内容に付いていけなくなった子たちが自分を見直し、実家に帰るための期間である。


 なんでも、実家から離れて初めて暮らすことになり、不安を鬱屈させた学生が街中で覚えたての中級魔法を放ち、大混乱を引き起こした事を反省し休みを制定したそうだ。迷惑な。


 まあ、今年は学院が始まる前に事件が起き、今年高等学院に入学した学生は、2週間も待機を強いられたのだ。しかも、国に対する造反すらささやかれる始末。今年の新入生は例年の学生よりも鬱憤が溜まっているのかもしれない。


「ようレオ、準備は順調か?」

「レオくん、楽しみだね!!」


 見ればアリオンとセラもウキウキと……準備? 楽しみ?


「どうした? お前ら、どっかいくの?」


 仲の良い二人だことで、旅行でも行くのかな?それなら俺はお邪魔虫になるから……休みの間は部屋でゴロゴロしながら、必殺技の作成を進めるしかないか……なんか暗いなぁ。


「レオ、まさか僕の話聞いてなかった、とは言わないよね?」


 1年の教室だというのに、何故か3年の先輩までやってきた。


「お兄様、何も用意されていないと思ったら、本当に忘れられていたのですね……」

「ロゼッタ、あんたも大変ね……」

「えー! レオちゃんと旅行楽しみにしてたのに―!!」


 さらに、校舎も違う中等部、初等部からもロゼッタ、ミラ、キャロルちゃんがやってくる。


 なんだなんだ、どこかで見た面子だなおい……


「1週間の休みは、僕ら『フェンリルナイト様の活躍を助け隊 』の最初の活動として!! フェンリルナイト様の戦いの跡地を巡る旅に出ると言っていたではないか!! 大丈夫、我がエリシオン伯爵家が旅費その他全てを負担しよう!!」

「うぉー! 先輩、太っ腹―!!」

「美味しいものたくさん食べるわよー!!」


 先輩が旅行を宣言すると、アリオンとセラがいつにも増して高いテンションで騒ぎだす。いいのかお前ら。今の話の内容の通りだとすると、お前らが人質になったあの砦までまた行くことになるぞ?


「いやだ、聞いてない、行かない。大体、2年生の先輩方は?」

「うむ、本人たちも来たがってはいたのだが……『フェンリルナイト様の活躍を助け隊』として、実力が足りないので、皆で修行してくる、だそうで」


 いいな、俺もそっちの方がいい!!


「参加不参加は自由なんだな、じゃ、俺はここで」

「うむ、レオと、僕以外は自由参加だ!!」


 やめろ。


「遠いぞ? そんな長時間の馬車旅なんて、キツイだけだろ?」

「大丈夫、我がエリシオン伯爵家が最高級の乗り心地の馬車を用意している!! それに、超ベテランの御者も一緒だ!! 快適な旅を約束しよう!!」

「言っておくが、山登りもあるぞ? そんなの、準備できる訳が……」

「フェン君に聞いているよ、大丈夫、現地の村で登山の準備をしてもらえるよう、お願いしている!!」


 だ、だめだ、とりつく島もない……


「さあ、明日のお休みは1日かけて準備し、明後日の朝出発としようではないか!!」

「だ、第一、うちの保護者は姉さんだ、姉さんの許可が下りないと俺とロゼッタは行けないぞ!!」


***


「駄目よ」


 俺が聞いたところ、姉さんは即答してくれた。思わずガッツポーズをする俺と、期待通りの回答がもらえず、肩を落とすロゼッタ。姉さんは「え? 2人の反応が思ってたのと逆!!」と言ったような表情を浮かべていたが


「駄目に決まってるでしょ? そんな、保護者も付かずに……」


 一応、先輩の前での方便で姉さんが保護者とは言ったが、この王国での成人年齢は15歳、俺は成人であるはずなのだ。そして、その成人が数名、中には3年生である先輩もいるわけで、そう考えると


「一応、俺単独だと、保護者にこだわる必要もないんだよな……」


 保護者が必要なのはロゼッタ、ミラ、キャロルちゃんの3人という事になる。

 そんな呟きを聞いたのか、ロゼッタが俺の手を強く握り、泣きながら


「お兄様! お兄様は私を置いて行かないですよね!?」


 なんて泣きながら聞いてくるのだ。


「安心しろ、行かないから」


 むしろ、行きたくないから……俺もロゼッタもお留守番だ、よかったな。


「うーん、フェンは置いておいても、未成年が3人……3人にそれぞれ保護者が付けばいいのかしらね?」


 姉さんがロゼッタの泣き顔に絆されたのか、何とかして解決策を導き出そうとしている……いやちょっとまって姉さん。ここは断っていい所だから!!


「分かったわ、私を含め3人、保護者を出しましょう!! その保護者と一緒ならOKって事にしてあげる!!」


***


「という訳で、一緒に行くことになったから、よろしくね!!」


 明日からの買い物のため、公園で集合と約束していたので、そこに姉さんとミナさんを連れて俺たちは合流していた。


「はい、では不肖ながら私は、キャロル様の保護者という事で」

「わーい、おねえさん、よろしくおねがいします!」


 ミナさんがキャロルちゃんの保護者という建前になるという事で、2人で微笑ましく挨拶を交わしていた。


「それで、私はロゼッタの保護者ね!!」

「えっと、それじゃ、ミナちゃんの保護者は……?」

「保護者候補がいるのよ。声掛けてくるから、当日のお楽しみということで!」


 そう言うと姉さんはどこかへ行ってしまった。ミナさんはそのまま買い物に付き合ってくれるそうだ。そして……


「主、主!! 泳ぎたい!! 水着買って行こう!!」

「お前、どこ行くか分かってるのに何いってるのかな!?」


 フェンは相変わらずであった。


「そうか、リリカさんが来てくださるのか……」


 先輩がぼそっとそう言うので


「変な気起こすなよ?」


 と釘は挿しておいた。


「分かってるさ、あの時の僕はどうかしてた。もちろん、リリカさんは魅力的な女性だけれど、今の僕なんかとても……」


 やっぱり、信頼はされていないのだな、とボソッと言うのが聞こえたので


「あんたが民を守りたいって思ってるのは知ってるさ。だから……これからは変な曲がった事はせず、真っすぐ歩いて行けばいいさ」


「ありがとう……」


 さて、ミラはなんか「アタシの保護者? 一体だれを連れてくる気……?」なんて身構えてるし、アリオンとセラは旅行ってだけで浮かれてるし、みんな、そんな楽しそうな空気出してると、俺、本気出しちゃうぞ~!!


「さーて、みんな、買い物行こう!! いやあ、全部で何人だ? 御者さんも合わせると12~3人ってところかな~!! いやぁ、一人で皆のお弁当作るの、大変だぞぉ~!!」


 途端に固まる空気、きっと、皆の頭には一斉にこの言葉が思い浮かんだのだろう。


――茶色い弁当


「レ、レオくん、何なら私が作ろうか?お弁当作るの慣れてるし、大人数分作るのも大して変わらないから」

「そ、そうだぞ、セラの弁当は旨いぞ!! セラに任せてみないか!?」

「うんうん、やっぱり適材適所で、慣れた人にやってもらうのがいいよ」


 いやあ、セラ、アリオン、先輩の息の合った連携プレイだ、これは強い、だが


「No!」


 無意味だ。


「レ、レオ様! その、私もお手伝いさせてくださいますか?」

「そうですよお兄様! お料理なら私もお手伝いしますから!!」


 ミナさんとロゼッタが、一緒に住んでいる事を武器に攻め込んでくる。だが、まだ弱い。


「ロゼッタ、ミナさん、女性は旅の準備するの、大変だろ? お弁当は俺に任せて、準備に力を入れていいんだよ?」


 女性に優しく、こうする事で断りにくかろう。わっはっは。


「茶色い弁当……どうしよう、怖いんだけど、ちょっと怖いもの見たさもあるわ……」

「レオちゃんの手作りのお弁当!! 私も食べてみた~い……です!!」

「僕はおやつさえ用意してもらえばどっちでもいいかな」

「はっはっは。大丈夫、たまには茶色い弁当もいいぞ!! キャロルちゃんに美味しいと言わせてあげるから、期待しててね! フェン、大盤振る舞いだ、銀貨5枚分までおやつ買っていいぞ!!」


 こうして、旅行の最初のお昼は茶色い弁当になることが決定したのであった。

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