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第5話 本当に守りたかったもの

 正直、ただの姉と弟の喧嘩にしては派手な戦いであった。


 そして、その勝負に「魔法を使えず、明らかに不利であった」レオが勝利を飾った。


 魔法を可能な限り撃ち続けたリリカは負けが決まった瞬間、その場にへたり込んだ。


 それは魔法を撃ち尽くして魔法力が切れたのか、それとも、今自分が出せる極限を出し続け、緊張の糸が切れたのか……


 そしてその傍らには、この勝負に勝ったレオが倒れていた。


 まあ、レオが倒れている理由は遠目で見ても分かる。


(……イッテェェェ!! クッソいてぇぇ!!)


 リリカの最後に放った魔法、それは勝利を確実にするため、リリカも気が付かない間に「気合の入った魔法」となったわけである。つまり


――やべぇ、腕ちぎれそう!!


 殺傷能力マシマシなのであった。


 レオの腕が一部、皮だけで繋がっているだけの状態になっていた。


――血が足りないかも。頭が回らなくなってきた…


「なぁ、姉さん……」


「皆まで言わないでいいわ、レオ、貴方の勝ち……きゃぁぁぁぁぁ!!」


 負けたショックから回復したのか、レオの方を向いたリリカだったが、レオの惨状を見て気を失いそうになり、それでもなんとか耐えたようだ。


「レオ…レオ!! 貴方、なんでそんな大怪我を!!」


……その怪我をさせたのはリリカなのであるが。


 いや、実際はレオもあの時、回避する方法は一つ思いついてはいたのだ。それは、変身すること。


 変身すれば身体能力は大きく向上し、回避も余裕であったろう。


 でも、レオはそうしなかった、何故なら、今回は優等生を演じ過ぎてうっぷんが貯まったリリカのガス抜きの姉弟喧嘩であったし、そもそもただの姉弟喧嘩で勝つためだけに変身する弟とか、聞いたこと無かったからだ!!


 いや、居るかもしれないけど、レオはやりたくなかった、ただそれだけの話。


――姉弟喧嘩に勝つためだけに変身する弟とか、それはもう変身ヒーローじゃないじゃん!!


 もしかしたら変身能力って、格好付けてしまう呪いでもあるのかな? なんて変な事を考えながらも、心配している姉に向かって心配しなくていいようにと、精いっぱい笑いかけた。


「姉さん、俺の勝ちだね……」


「……馬鹿!! こんな時に何を……」


「やっぱり姉さんは凄いや。こんなすごい姉さんが居て、俺とロゼッタがどれだけ誇らしいか」


「いいから黙ってなさい!! すぐに治してあげるから!!」


 リリカはすぐさま回復の魔法を使おうとして、悟った。


――魔力が空っぽになってて、魔法が使えない……


「……だから、姉さん……」


 レオは薄れゆく意識の中、最期にこう告げた。


「ロゼッタとも……仲直り……」


 最後まで言う事なく、レオの意識は途切れた。


***


 リリカは力なく横たわるレオを見て、父親のランバートに中級魔法を教えてもらおうとした時の事を思い出していた。


 そう、リリカを苦しめていた中級魔法の習得、これは実はリリカが自分から志願してやっていたことを今更ながら思い出す。


 その時、父であるランバートはあまり乗り気ではなかったのだった。


 魔法の名家である、という触れ込みもあるので、ある程度魔力を上げる訓練はさせていたが、身の丈に合わない魔法の習得はよくないと思っていた。


 だから、ランバートはリリカに対して問うたのだ。


――何故力を欲するのか、と


 リリカはその時に何と答えたのか。


――大切なものを守るため。お父さんも、お母さんも、ロゼッタも、レオも、私が守れるようになるため。


 結果どうなったか。


 中級魔法を覚えられない苛立ちからロゼッタを傷つけた。

 その上、諭してくれたレオを失おうとしている。


――身の丈に合わない力は己を滅ぼす。


 父ランバートの言った通りの事になってしまった。それでも……


 レオを抱きかかえる。息は浅く、体温も心なしか低くなっている気がする。


――身の丈に合わない力でもいい、もう、二度と魔法が使えなくなってもいい。今はただ


 レオの命を救える力が欲しい。


***


――覚悟があるようかな、僕が力を貸そうかな?


 周囲には今にも息絶えようとしているレオと、自分しか居ないはず……なのに、頭に何者かが語り掛けてくる。


『貴方は一体、何者なの⁉』


――今は僕が何者であっても関係ないんじゃないかな? キミに求めてる答えは、彼を助けたいか見捨てたいか、ただそれだけかな。


『助けたい! いや違う、助ける!!』


――へぇ、それは僕が仮に悪魔だったとして、対価が君の魂であってもその答えは変わらないのかな?


『悪魔だろうとなんだろうと構わない!! この魂を捧げろと言うなら捧げてやる!! だけど』


――だけど?


『その悪魔が私の家族を苦しめるのなら、私は魂だけの存在になっても、食らい殺してやる!!』


 一瞬の沈黙、そして。


――わっはっはっはっはっ!! いいねいいね!! 気に入ったよ!!


 上機嫌な笑い声と同時にリリカとレオの前の空間が一瞬歪んだかと思うと、そこには大きさからいって2メートルはあろうかという、通常よりも大きな狼が姿を現した。


『実を言うと、僕も彼に死なれると困るかな。全力でサポートするよ、だから』


 大きな狼は続けてこう言った。


『一緒に彼を助けよう』


「いいわ、私に出来る事なら何でもする。だから、力を貸してちょうだい!!」


 自分よりはるかに大きな狼が出てきたというのに、リリカはそれほど驚かなかった。


『僕はこう見えて物知りでね。治療の方法も、やり方も分かってる。だけど』


――ワォォォォォォン!!


 狼が遠吠えをし、前足で地面を踏みしめる、そうすると、レオを中心とした魔方陣が出来上がった。


『魔法を行使する事だけは出来ない、だから。キミに魔方陣を起動してほしいかな。魔力は僕の魔力を貸そう。さあ、彼をそこに寝かせ、僕のところに来て!』


 リリカはレオを魔方陣の中心に寝かせると、狼の横に立った。


『左手で僕の右前足を掴んで、右手を魔方陣に添えて!!』


 リリカは言われたとおりに狼の右前足を左手でつかみ、右手で魔方陣に触れる。


『今から僕の魔力を注ぎ込むから、制御はお願い!!』


 と言うや否や、リリカを経由して魔方陣に大量の魔力が流れ込む。


『あ、3か所、魔力の淀みが起きてる、制御お願い!!』


「わかったわ……よ!!」


 その一言で、魔方陣からポンという音が3回響き、魔方陣が綺麗に光りだした。


『おお、すごい。簡単に問題解決した。キミ、本当に魔法の才能あるよ』


「中級魔法使えずに自分の願い事すらまともに叶えられなかったのに?」


『うん、自信もっていいよ、だってこの魔方陣の魔法って』


――最上級魔法だから


 そう言おうとした瞬間、レオの体が光に包まれ、次の瞬間……大きな傷口がふさがり、顔色が良くなったレオがその場で眠っていた。

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