第56話 レイスの処分
王宮内、国王謁見の間。
その謁見の間にて玉座に座る国王、その傍らに立つ大臣、そして片膝を付き頭を垂れる憲兵隊長に、レイス。
通常であれば国政に多少なりとも顔が利く星導教会の司祭も同席する事が多い、というよりももはや慣例となっている節があるが、今回は国王からの提案により、星導教会を除いた謁見となっている。原因は今、国王の手の中にあった。
「天秤剣……まさか破壊出来る者がこの世に居るとは思わなかったが、それよりも、この剣が今、ここにある事の方が問題であるな……」
国王はそう言うと、もはや大きなグリップに果物ナイフでも付いてるかのようなアンバランスなサイズになった天秤剣を鞘に納め、傍らの小間使いに渡す。
小間使いは恭しく一礼し剣を受け取ると、そのままレイスの前に移動し、レイスに対しても恭しく頭を垂れ、剣を差し出していた。
「して、憲兵隊長、今回の事件、詳細を報告せよ」
「はっ! 夕刻ごろに現れた魔獣に対し、謎の男とこちらにいらっしゃいますレイス様が共闘し、魔獣を撃破。我が王国の被害としては、建造物等の被害はあれど、奇跡的に死者はゼロ、怪我人も数人程度です」
「その謎の男というのは、前より話題になっていたフェンリルナイト・マジシャンか?」
「その……それが……」
「陛下! 御前での発言をお許しください」
「許可する。今回の事件を解決した英雄の一人、レイスよ。その謎の男とはいったい」
「その男は、フェンリルナイト・マジシャンであり、フェンリルナイト・ドラゴンであり、フェンリルナイトでもあります。1人で3つの顔を持つ男であります」
「そうか……」
元よりフェンリルナイト・マジシャンとドラゴンの間には何かしらの繋がりがあるだろう、とは思っていた国王であったが、実際に遭遇した者から同一人物であると明言されるとは思わなかった。
「して、レイスよ。フェンリルナイトは我が国にとっては敵か味方か、どう見る?」
レイスはものすごく緊張をしていた。王の御前という事もあるが、この質問内容、回答の内容次第では、レオに対しての約束を守れるかどうかが決まるのだ。
レイスにとってはレオは今や、絶望の中から自分を救い出してくれた希望の英雄である。その英雄に何も報いぬままでは、騎士としてレオに対して顔向けが出来ない。
「それにつきましては、フェンリルナイト殿より伝言をお預かりしております」
ざわっ、と周囲がざわめく。それまで謎のヴェールに包まれていた騎士の実情が明かされたと同時に、共闘した人物に伝言を残していたとなれば、一同注目せざるを得ない。
「フェンリルナイト殿は現在、ミラ様、キャロル様と交流があり、目下お二人の立場を憂慮されております。お二人に不要な害意を向けない限り、敵対する意図は無いとの事です」
レイスがここで言葉を止める。周囲の反応は様々であるが、全体的に「よりによって……」といった空気を醸し出している。
別にミラやキャロルが悪いわけではない。原因をとなるのは王太子の火遊びが原因である以上、王太子を責めるべきではあるものの、王太子に面と向かって文句も言えるわけでもなく……
「もし、その約束を違えた場合は?」
代表して国王が聞くこととなった。
「その点については伝言はありませんでした、ですが……フェンリルナイト殿の性格を見るに、約束を違えた時は、それ相応の痛手は覚悟した方がよろしいと思います。例え王国を敵に回してでも、王宮の破壊程度はこなしてしまうものと思います」
レイスがさも当然のように怖い事を話すので、周囲の皆が押し黙った。権力や地位を求める人々において、ミラやキャロルのような、妾腹ですらない王家の子はそもそもアンタッチャブルなのだ。ましてや、王国全土を敵に回してでも味方をする理由もない。
「あ、でも、ミラ様とキャロル様に肩身の狭い思いを強いる事となった元凶の方に対しては後日、フェンリルナイト殿が私的制裁をするかもしれませんね」
「ふ、ふふ、ははははは」
レイスの危険な発言に耐え切れず笑い出したのは、何故か国王であった。
「そうであるな、我ももうそろそろ退位を考えておる。そんな中、次期国王が締まりがなさすぎるのは良くないな。是非とも、フェンリルナイト殿にキツイお灸をすえて欲しいところだ」
王太子を襲うかもしれないと告げたのに、国王は上機嫌である。
「あい分かった。何度も王国を救ってくれたフェンリルナイト殿は、我が国の認める客員騎士とさせていただき、要望のあったミラ、キャロルが望まぬ過剰な干渉、生活を脅かすような行為は禁止する。ミラ、キャロル両名とフェンリルナイト殿の交友についてはこの場限りの機密事項とし、この場に居る全ての者に箝口令を敷くものとする」
その言葉を聞き、レイスはレオとの約束が守れた事で肩の荷が下りたような感覚を感じた。ちなみに、国王がフェンリルナイトに与える地位として述べた「客員騎士」は、権力としての騎士の称号は持たないものの、自由裁量で好きに動いていいという、特に何もないものである。
だが、王国が存在を肯定的に認める相手である、と示す事となる。これは非常にプラスである。
「さて、レイスよ。フェンリルナイト殿と協力し、見事民の安全を守ったと伺っている。だが、ここ最近の貴殿の目に余る不誠実な行動により様々な処分、そして、天秤剣を折ってしまった事による損害、これらを加味した上で全ての賞罰を一度、国の預かりとし、賞罰相殺にて沙汰を下そうと思うがよいか?」
「はっ! 陛下のご意向のままに!」
元々魔獣が誕生したのも、原因の一旦は自分にあるのだ。今更どんな沙汰が下りようとも後悔など……いや、フェンリルナイト、彼と轡を並べて戦えなくなるのは残念だな。などと思っていると。
「ただいまを持って、学院の出席停止処分の解除、及びAクラスへの復帰を認める。また、天秤剣の常時帯刀を義務とする」
賞罰で相殺したのだろうか? よくわからない
「陛下、恐れながらお伺いいたします。私への罰に当たるところがありませんが?」
「そうか? 問題を起こしてからの復学は十分大変だと思うがな。それに、その天秤剣の帯刀、それは今回の出来事を引き起こした張本人に対しての撒き餌となる……むしろ危険な任務を任せる事になるのだが……どうする?」
「その役目、是非とも私にお任せください!!」
こうして、レイスは出席停止を解除となった。
***
「ところで陛下、先ほどの件、彼には詳細はお話されないのですか?」
レイスの退出後、傍に控えていた大臣が国王にそう耳打ちする。
「うむ、下手に知らせてしまい、必要以上に恐縮されるのも問題だと思うのでな」
「左様ですか……でしたら、何も言いますまい。遠巻きに彼に護衛を付けさせます」
「うむ、頼んだぞ」
国王がそう告げると、大臣は恭しく頭を垂れ、謁見の間を後にする。謁見の間には国王だけが残った。国王は天を仰ぎ
「天秤剣……この王都の教会で保管してあるはずの星導器の流出、そしてその事実が報告されていない現状……教会は敵と見るべきか否か……」
もし本作を気に入っていただけましたら、ブックマーク、評価等を戴けますと幸いです。
ぜひ↓の☆☆☆☆☆より評価をお願いします!




