第55話 何故、炎がないと思った?
「変身」
その言葉と同時に俺は再度、フェンリルナイトへと変身する。
「僕も一緒に!!」
先輩も戦う気満々だが、ちょっとまて。
「先輩は避難遅れた人の避難を助けてやってくれ」
「何だと!僕が力不足だとでもいうのか⁉」
そうだよ!! むしろ邪魔だよ!!
……とは流石に言えないので、俺は言葉を選ぶ。
「民を守った騎士様だろ、最期まで守り通して見せろ」
「……わかった、僕が民を守る、あの魔獣は任せた」
先輩も魔獣の呪縛から解き放たれたら正義感が前面に押し出されてきたのか、自分が発生原因となっている魔獣を自分で処理出来ない事が悔しいようだ。それに、俺から戦力外を通告された事もこれは気が付いてるな。だが、その事実を受け入れ、今出来る事をしようとしている。
――最初からこの態度で接してきていたら、人間としては俺の完敗だったかもしれないな。
そんなことを思うくらいには、信頼を置ける感じではある。
「ああ、頼んだぞ、先輩」
さて、先輩が逃げ遅れた人々の救助、誘導をするのを邪魔されないよう、この魔獣を足止め、または完全に消滅させなければ、と思うのだが……
『ククク……オレ様ニ物理攻撃ハ通用シナイ!! ソシテ、魔法攻撃モ、サッキノ水程度デハ効カンゾ』
なるほど、ドラゴンの力は今は使えないし、フェンリルナイトは物理攻撃が主体のため戦えない、マジシャンになっても魔法攻撃が弱くて通用しないぞ、という、万策尽きたと思わせたい訳だな。
……ふーん、そういう事言っちゃうんだ。
俺は腕輪をトントンと叩き、フェンリルナイト・マジシャンを選択、変身先の属性は……
「ねえ、地水風と変身したのを見てるのに、何で火が無いと思ったの?」
火属性、それは炎の魔法を攻撃に乗せる事で火力を上げる攻撃の型。
フェンリルナイト・マジシャンの姿に変身した俺だが、さっきまでと違い、俺の胸当てとフルフェイスヘルメットの正面部分は赤である。
俺はそのまま間髪入れずに右手を一回、サッと振る、そうすると、L字のようなJ字のような金属の短い杖のようなものが出現した。俺はその杖のようなものの一方を魔獣に向け、そのまま
――ボゥッボウッボウッ
と炎の矢を3発放つ。
『ハハハ! ソンナチッポケナ炎ノ矢ナド効カヌワ!!』
魔物はその炎の矢を握り潰そうと手を広げ、そのまま……
――ボォォォォォン!! ボォォォォォン!! ボォォォォォン!!
怪物が握りつぶそうとしたそのタイミングで、矢が爆発した。
『グォォォォォ、ナ、ナンダト!?』
「かわいい初級魔法に見えた? 残念、中級魔法ちゃんでした、っと」
『ク、クソ、ソノ変ナ杖ノチカラカ?』
どうやら、俺の持っている杖が特殊だと思っているようだ。
『コ、コノォ!!』
俺に向かって突撃してくる。遠距離の魔法攻撃で一方的に倒されるような状況を避けたいのだろう。
なるほど、魔獣にしては頭が回る。距離を詰め、接近戦に持ち込む。確かに悪くない、だが……
「近距離戦闘こそ、フェンリルナイトの本領発揮だぞ!!」
無意味だ!! 俺は杖をブンと振る、すると、杖は無くなり、俺の手元には1本の剣が。
『グォォォォォ!!』
俺は魔獣の攻撃をそのまま剣で受け流す。
先程先輩と融合しかけの時はギリギリ押されそうになった事から、この魔獣相手に押し切られても大変なおで、念のため受け流す。そしてそのまま
「はぁ!!」
刀身に炎を纏わせそのまま切りつける。
もちろんこの炎も魔法の炎である、そして、魔獣が言っていたが、威力のある魔法なら攻撃が通る、つまり。
『グォォォォォ!』
魔獣に俺の剣筋にて付けられた傷が生まれる、そしてその傷口の中から
――ボォォォォン
と爆発魔法が発動し、魔獣の体を内部から破壊していく。
『ガァァァァァァ!!』
魔獣は近接攻撃で受けるダメージの方が大きいと踏んだのか、今度は俺から距離を取った。
つくづく頭が回る事で……だが、一手遅いな。
俺はその場で剣を1振り、武器をしまう。そして
「はぁぁぁぁぁぁ!!」足に魔力を貯める、もう、ギリギリまで全力で。
足に十分魔力が貯まったところで、魔獣に対し全力で駆け出し、そしてそのまま
「たぁぁぁぁぁ!!」
俺は勢いを殺さずにジャンプ、その際、スピンをかけ、ひねりを入れながら魔獣に対して飛び蹴りを放つ。
「ナイト・マジシャンズキーック!!」
魔獣に向かい放った飛び蹴りから炎が出現、そして、その炎は俺がキックを放っている足を中心とした螺旋を描き、魔獣を貫こうとしている。
『グ、グォォォォォぉ!!』
魔獣はそのまま体でキックをまともに受け止め、そして
「よっとっと」
魔獣の体を貫通し、そのまま地面に着地した俺。そして魔獣は
『グワァァァァァァ』
――ドォォォォン
と爆発していた。
「ふぅぅぅ……」
俺は変身を解除しながら一息付く。しかし、この魔獣、先輩の中に居た魔獣が先輩の存在を食らって出てきたとはいえ、街中で魔獣が出るというのがそもそも前例が無いという事だが……
「やったな、レオくん!」
ふと振り返ると、先輩がそう言いながら俺に駆け寄ってくる。その後ろには、逃げ遅れた人を先輩が助けたのだろう、何人もの住民が肩を寄せ合っていた。その中には小さな子供も……
「……」
「レオくん?」
俺が無言で住民を見ているのを訝しんだのか、先輩がそう声をかけてくる。
「あ、何でもないです。じゃあ俺は帰るので後は先輩、よろしく!! 手柄も全部持って行って!!」
「え゛っ!? いやいや、今回の件で一番手柄を上げたのは、間違いなくキミだろ? 僕はむしろ元凶として裁かれるべき人間だ」
「先輩、王族周りの人間関係に詳しいですか? もし詳しいなら、こう言ったら理解してもらえます? 俺が出ると『ミラ・ゼファー様とキャロル・ゼファー様のご友人が、この騒ぎを納めた』って事に」
国民を率先して守った人間が、妾腹ですらない、王宮が扱いに苦慮している人間、下手したら存在すら消したがってる相手とその友人だったとすると、王宮の権威やら世継ぎやらに影響が出るだろう。
個人的には、王国がどうなろうと知ったこっちゃなく、一番の懸念事項としては、そのままミラやキャロルちゃんに魔の手が伸びたり悪影響がある可能性の方が問題なのだが。
「あ、ああ。そういう事か……理解した。その……君が、最近名を馳せているフェンリルナイトだという事も隠した方がいいかい?」
「そこはお任せします。だけど、力を持つ人間がミラとキャロルちゃんの近くに居る、って思われると大変かなとは思います」
「わかった、任せておけ。迷惑をかけたせめてもの罪滅ぼしに、そこは取り計らわせてもらう」
先輩はそう笑顔で俺に応えてくれた。
さて、あとの面倒くさい事は全て先輩に丸投げするとして、俺は……3人の姫様の元に向かい、3人の前で片膝を付き
「さあ、姫様方。ここから先は私がナイトとしてエスコートいたしましょう」
「レオ、あんた、大丈夫? さっきの戦いで頭でも打った?」
姫様を守る騎士、って体で戦ってたから、それにふさわしいだろう行動を取ったのに、早速水を差せてきたのはミラ。まあ、いいか。さっきまでの光景を見て怯えられるよりは。
「怪我してない? 本当に大丈夫? 痛むところとかあったら、ちゃんと言いなさいよ? うち近いから、見てあげるから」
あれ、本当に心配してくれてる?
「はい! 騎士様! 私のフィアンセになってください!!」
元気よく爆弾発言してきたのがキャロルちゃん。まあ、幼い頃は身近の年上のお兄さんと結婚するーとか普通に言うからね。ロゼッタも言ってたよ、お兄様と結婚するーって。
「分かりました、レディ。その時が来たら必ずや、この騎士がお迎えに上がります」
「は、はい!! まってま……お、お待ちしております。お慕い申しております、騎士様」
まあ、大人になるにつれて、対象から外れるからその時は来ないと思うけどね。
そして、最後にフェン。流石に傷は魔法で塞がれているようだが、一人で奮戦した疲れからか、立ち上がるのがつらいのか、壁を背に座り込んでいた。
「なんか、やっぱりこういう時にお姫様扱いはこそばゆいかな」
「ちょっと前にお姫様扱いしろって言ってたやんけ」
「あの時と今は違うかな。今は相棒として、よくやったと言ってもらう方が嬉しいかな」
「ああ、よく頑張った、相棒」
「でも、流石に今は自分の足で歩くの大変かな。主、お家まで連れてって!!」
「ああ、もちろんだ」
俺はフェンを連れて帰るため、片手をフェンの膝の下あたりに、もう一方の手をフェンの背を支えるように差し出し
――ヒョイッ
「なっ」
「フェンちゃんいいなぁ」
おんぶでもいいのだが、疲労困憊のフェンに腕の力を使わせるだろうおんぶは不適当だろう、と思って抱っこして帰る事にした。
フェンは黙っている、疲れたのだろうな。そうやって家に歩いて帰っている所で、ロゼッタと、ロゼッタに呼ばれた姉さんと、ミナさんがやってきたので、フェンを連れて帰る役割を替わってもらった。
俺から離れる時に朴念仁とか悪魔とか言ってきたのはよく分からなかったが。
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