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第51話 三人の姫

「ああ、やっぱり王家の人か」


 キャロルちゃんとフェンが遊びに行ったので、ロゼッタとミラと俺で公園に出張出店しているクレープ屋のクレープに舌鼓をうちながら、俺たちは適当なところに腰掛けて話をしていた。


「そういえばルーディルの奥様はルリア様だったわね。そう言う意味ではアタシとキャロルはレオたちのいとこ、といったところかしら?」


 よかった、ついうっかりおばさん呼ばわりされる中等部と初等部の学生はいなかったんや。そんなのはシャーロットさんだけで十分や!


「ん? でもそれなら、母さんの事はルリアおばさん、になるのでは?」


「アタシみたいなのがルリア様をおばさん呼ばわりとか……恐れ多いわ」


「その、ミラちゃん……お兄様にお話ししても、いいですか?」


 ロゼッタがミラを心配そうに見ながらそう問いかける。一体どんな秘密があるというのだろうか。ミラは言葉は発しないが、ロゼッタに対し首肯する。俺も知っておいた方がいい事なのだろう。


「ミラちゃんとキャロルちゃんは王太子様のご息女なのですが、その……」


 ああ、妾腹とか言う奴で身分が低い、ってやつか。


「王宮の若いお手伝いさんに手を出した際に身ごもったお子様でして」


「よし、この国滅ぼすわ」


「お兄様が言うと冗談にならないからやめてください」


 そりゃね、王太子様も男ですから。過ちもあるとは思うようん。だけど、次期国王が2度も同じ事をやらかすって、相当でしょ。


 王女を娶るために王国に対して喧嘩を売った父さんがまだ常識人に見えるレベルだ。


「なるほどね。次期国王の子ってことで、権力争いに巻き込まれはしていないものの、疎まれてるわけか」


「レオ、あんた、意外とズゲズゲ言うのね?」


「ここで俺が言葉を濁すことでミラの立場が良くなるなら、いくらでも濁すよ」


 実際、ミラはロゼッタと、キャロルちゃんはフェンと今後仲良くなりたいと思ってる中、その兄なんかから変な目で見られたりするくらいなら、内情は認識しておいて欲しいわけだ。仲良くなった後で家族ぐるみで避けられる、みたいなのは仲良くなる前に拒否されるよりも心が痛いだろう。


「まあ、アタシやキャロルと仲良くしておくと、王宮から目を付けられる可能性も無くはないわけ。それでもいいのかしら?」


 挑発的な笑顔でこちらを伺ってくるが、そんなの決まってるさ。もちろん、ロゼッタも。


「父さんがアレなんだ、今さらルーディル家の人間が王宮に遠慮すると思うか?」


「そうだったわね、そもそもランバート様がそういうお方だったわね……」


 ロゼッタが俺の言葉を聞いてもニコニコしているのを見て、呆れた様子で応える。


 実際、母さんにとっては兄弟姉妹なのだろうから複雑かもしれないが、俺にとっては母さん、ミラ、キャロルちゃん、そしてシャーロットさんかな、これ以外の王家の人間は赤の他人だ。

 この4人以外が敵に回るようなことがあれば、俺は躊躇う理由は無い。ロゼッタか姉さんが特別に仲の良い相手でなければ、俺は容赦はしない。


「でも、お兄様が本気で暴れると国が滅びる可能性もあるからほどほどにしてください」


「はい……」


「いや、こんな話を振ったアタシが言うのも何だけど、アンタら平然と国の滅亡を語らないでよ。怖いんだけど」


 そんな和気藹々(?)としたガールズトーク(?)をしていた最中であった


――ドォォォォン!!


 王都の一画から爆発音がしたかと思うと、王都全土を揺らさんが如く地面の振動が俺たちにもビリビリと伝わる、そして……


「ね、ねぇ! あそこ!!」


 ミラが指さす方角を見ると、そこからうず高く煙のようなものが舞い上がっているのだ。あの方角、まさか……


「あそこ、キャロルとフェンちゃんが向かった方角じゃ……?」


 俺は万が一の事があってもフェンが何とかすると思ってるから、すぐに助けにいくつもりではあるが、動揺はしていない。ロゼッタも心配そうな表情はしているが、フェンを信用しており、俺が慌ててないので自分も落ち着こうとしている。


 だが、フェンが幻獣と知らないミラからしてみれば、妹たちが事件に巻き込まれた可能性を考えたのか


「キャロル!!」


 と叫びながら駆け出していた。


「一人で突っ込んで行ってもどうしようもないだろ!! ロゼッタ、お前は姉さんの所行ってこい!! 俺はミラを追う!!」


***


「はぁ……はぁ……」


 人間の体は本当に不便だ、とフェンは思った。


 急に爆発が発生したと思ったら、その場に剣を持った魔獣がどこからともなく出現し、その魔獣から分裂するかのように茶色い塊が飛び散ったと思ったら、その茶色い塊が小型の魔獣となって人々を襲い始めたのだ。


 逃げ惑う人々、腰が抜けて動けなくなった人々、そんな人々に魔獣の意識が向かないよう、今はフェンが1人で戦っており


「さあ、みなさん、こちらです!! 落ち着いて逃げてください!!」


 まだ子供であるはずのキャロルが避難誘導を行っていた。膝は笑いながらも、懸命に避難を主導している。これも王家の血筋のなせる業か?


 そして、そんな子供が頑張っている姿を見て、人々も落ち着きを取り戻し、怪我人を自主的に庇いながら比較的落ち着いて避難をしていた。


 だが、まだ人目は多少はある。さらに、キャロルがフェンの奮闘を目に焼き付けんとでもしているのか、凝視していた、その結果


「まいったな、こうも見られてると、僕が変身しちゃったらますます混乱が大きくなるかな?」


 大狼に変身してしまえば、剣を持った親玉はともかく、小型の魔獣くらいフェンは余裕で倒すことの出来るレベルなのだが……仕方ない、とフェンは覚悟を決めた。


 魔獣がフェン目掛けて腕を振り下ろす。フェンはそれをギリギリで回避し


「はぁ!!」


 魔獣の顔目掛け、肘を放つ。完全に肘が決まり、魔獣は仰け反る……そしてすぐに復帰する。


 人間形態のフェンは小さい女の子であり、体重も軽くなっているのである。そして、体重が軽い事により、体重を乗せて放つ格闘のダメージも軽いものとなってしまっているのだ。


(とりあえず、主が来るまでに皆の安全確保……魔獣の意識を僕に集中させておかないと)


 フェンの中ではレオが助けに来ることは確定事項であり、それまでどう対応するか、しか頭にない。


「来い、魔獣!! 我が主、レオ=ルーディルの唯一かつ最高の相棒、このフェンが相手になってやる!!」


「レオ……!!」


 剣を持った魔獣の親玉がレオの名前に反応し、フェンはそれに目ざとく気が付いたものの、今はそれどころではない。


――グァァァァァァァ!!


 魔獣がフェンを取り囲み、一斉に襲い掛かった。


「はっ、とう!!」


 先程は打撃があまり有効でなかった事から、フェンは敵の攻撃を躱し、その際の勢いを生かして投げ主体の戦闘スタイルに変更した。だが、これでも体重が軽い事が災いした。


「はぁ……はぁ……」


 魔獣の攻撃の勢いを生かして投げを繰り出すが、どうしても体重差から来る体力の消耗が激しい。それに


「うぎぎぎぎぎ!!」


 相手の攻撃の勢いを使うだけでは投げられなかったので、多少無理矢理投げようとしたのだが、相手に踏ん張られ、そしてそのまま逆に投げ返され


「がっ!!」


 身体を地面に打ち付ける事になってしまったのだ。


「フェンちゃん!!」


 キャロルが投げ飛ばされ体を強く打ち、立ち上がれなくなったフェンを抱きかかえるようにして庇う。


「キャルちゃん、僕の事はいいから、逃げて!!」


「嫌!! お友達を助けられないなんて、嫌!!」


 そんなフェンたちを小さな魔獣たちは取り囲み、逃げられないように包囲する。そしてそんな魔獣が道を作るようにササッと横に動いたかと思うと、その魔獣の作った道を親玉の剣を持った魔獣がゆっくりとキャロルとフェンに歩み寄り


「キャロル!!」


 ミラがそう叫びながら、初級魔法で火球を魔獣に向かって放つが


――グァァァ!


 取り巻きの小さな魔獣がその火球を手で叩いて消してしまう。


 剣を持った魔獣はキャロルとフェンに向かい剣を振り上げ、思いきり剣を振り下ろそうとして……一瞬ためらうような動作を見せ、動きが止まったその瞬間


「おいおい、レディのエスコートにしては乱暴だな。こんなエスコートの仕方、ママにバレたら殺されるぞ?」


 その言葉と同時に、レオがどこからともなく飛び出し、剣の魔獣の顔面に膝蹴りを見舞う。


――グアァァァァ!!


 そして、そのままフェンとキャロルをかばう様に、魔獣達との間に立ちはだかる。


「主……」「レオちゃん……」


「フェン、よくやった、お前は俺の最高の相棒だ」


 首だけ後ろを向き、フェンに向けて親指を立てて見せる。フェンも親指を立てつつ


「じゃあ、この後、3人のお姫様達を助ける騎士の役は任せようかな」


 と、不敵に笑うのだった。


「ああ、ここから先は騎士の仕事だな」


 とフェンの言葉に応え、レオは魔獣を睨みつける。


 子供ながらに国民の避難を主導した姫様、その姫の為に身を呈して戦った姫様、そして、無我夢中で走り、そんな姫様達を助けようとした姫様。


「まったく、実に守り甲斐のある姫様達だ……これで燃えなきゃ騎士じゃないな! 変身(へんしん)!!」

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