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第50話 神星・天秤剣

「あ、お兄様!! 今お帰りですか?」


「主! 確保―!!」


 アリオンとセラはクラブ活動に興味があるようで、放課後も説明会に参加しているため、今日の俺は一人で帰宅している。


 俺も料理研究会は確かに興味があるが、なんというか、フェンリルナイト・マジシャン様ファンクラブの前だけは通りたくない、気恥ずかしさがあるし、それよりも、思ったより人多いんだもん。


 ロゼッタとフェンはロゼッタのお友達と一緒に遊んでいたのか、4人で居たところ、俺が通りかかり、そしてフェンに物理的に確保され、逃げられないようにされた。


「ふーん、ロゼッタ、その男があんたの言ってた王子様?」

「あははー、フェンちゃんといっしょに、あたしもー、かくほー!!」


 ロゼッタの同学年かな? ロゼッタよりちょっとだけ背が高い女の子が値踏みするような視線を俺に向ける。


 一方で、フェンよりももう少し年下な感じの、恐らく初等部下院くらいの女の子がフェンの真似をして俺の手を掴んでくる。


「普通ね、期待していた王子様の見た目じゃないわ。ギリギリ、王子様の馬ってところね」ロゼッタの友人らしき少女が鼻で笑いながら俺にそう言い放つ。失礼な奴だな。


「おうまさーん、おうまさーん」もう一人の少女がその皮肉を理解せずに嬉しそうに連呼する。


「つまり、主は馬並みってことかな!!」フェンが皮肉を理解した上でわざと変な言い回しをしている。


「ところで、ロゼッタ、お二人は? 友達?」


 無駄に年下の女の子の発言に噛み付いたりすると、また悪い意味で鬼神のうわさが広まってしまうと思ったので、俺は努めて冷静に質問を返した。


「あ、お兄様、紹介しますね。お二人は……」


「ふーん、鬼神、なんて物騒な二つ名を付けられるからどんな人かと思ったけど、噂ほど短慮な人間ではなさそうね。アタシはミラ=ゼファー。ミラでいいわ。よろしくね、レオ」


「ああ、よろしく。今後もロゼッタと仲良くしてあげてくれ」


 あとはこの、俺の手を掴んでいる子だ。さっきまでの無邪気さは鳴りを潜め、ちょっと恐怖を感じたような表情になっている。


「きしん? 鬼さん? 怖い人?」


「ああ、キャロル。この人そんな怖い人じゃないから大丈夫よ。レオ、その子はアタシの妹のキャロル。フェンちゃんを気に入ったみたいだから、たまに一緒に遊ばせてあげて」


「はい! キャロル=ゼファーです! レオちゃん、よろしくおねがいします!」


「うん、よろしくね、キャロルちゃん。フェンと仲良くしてあげてね!」


「はい!!」


 後ろでフェンが「僕が面倒みてあげてるのにー。主、僕がちゃんと面倒見てあげてるんだよ、褒めて褒めて!!」って言ってるが今は無視。


 お家に帰ったら存分褒めて甘やかせてやるから、今は我慢しろ。


「そうだ、フェンちゃん、今から街の探検ごっこしよう!!」


「うん、僕、探検ごっこしたい!!」


 フェンが目をキラキラ輝かせて嬉しそうにそう言う。面倒見てあげているとはいったい。


「キャロル、危ない所に行かない事、そして、遅くならないうちに帰ってくる事、いいわね?」

「フェンちゃん、危ない所に行ったり、遠くに行かないようにね? 晩御飯までには帰ってくるんですよ?」


 ロゼッタの友人が悪い子ではないという事がわかったのと、ロゼッタがフェンのお姉ちゃんをちゃんとやっている所を見れて嬉しい反面


「わーい!! じゃあ僕達、遊んでくるね!!」


 と遊びに出かけたフェン。主に何の相談もなく……ちょっと寂しいなぁ。


***


 クソクソクソ


 僕が一体何をしたって言うんだ!! 僕は悪い事など何もしていない!! 全て正しい行いなんだ!!


 僕は伯爵家の長男として生まれながら、魔法能力は飛びぬけて優秀、といった訳ではなかった。


 だから、僕は探したのだ。魔法が下手でも強くなるための術を、そして、剣に出会ったのだ。


 それから僕は剣を極めんと、人生のほとんどを剣につぎ込んだと言ってもいい。それだけ努力をしたのだ!!


 それでいても1年の最初のクラス分けではBクラスにされ、納得のいかない僕は、試験補佐をしていた当時2年の女子学生に勝負を挑み、そして完膚なきまでに打ちのめされた。


「貴方は強い。だけど、力だけじゃ駄目。自分を磨いて、もっと強くなりなさい」そう言い残して。


 学校のクラス分けでも僕の実力を正確に理解しなかった、その僕の強さを認めた上で、さらに強くなりなさい、そう言ってくれたのだ。


 その時、初めて僕自身を見てくれた人が現れたと思った。


 そして僕は、その女子学生に並ぶため、一番のパートナーとして認めてもらえるよう、さらにより一層の訓練をしたのだ、それが


「極悪非道の外道、レオ!!」


 あのような騎士道の欠片もない男にそのパートナーの席が独占されている、これは正しさの観点からいくと、間違った事だ、だから僕は全力を持って排除しようとした。その結果……


「レイス=エリシオン。3年Cクラスへの降格及び1か月の出席禁止」と学校からは不当に虐げられ


「レイス……今まで君のひたむきさを買って剣を教えていたが……騎士道に反する君にこれ以上、剣を教えることは出来ない。君を破門とする」と、先ほど剣の師匠からも理不尽な対応をされてしまった


「クソクソクソ!!」


 人気のない裏路地、剣の師匠に呼び出され、破門宣告を受けた僕は帰る気にもなれず、荒れていた。


「クックック、荒れてますねぇ」


 ふと後ろを見ると、怪しげな男が一人、そこに立っていた。


 おかしい、先ほどまで気配すら無かったはずだが。


「何だ貴様は!! 僕に何か用か?」


「自分は正義の行動を取ったのに、世間に虐げられる。その辛さ、よく分かりますよ」


「ほう、僕の事を理解してくれるのか?」


 普段ならこのような輩、完全にスルーだが、今の僕にはこの男だけが理解者だ、と思うと、不思議と話を聞いてしまうものだ。


「ええ、正義は称賛されるべきです。なのに、世間は正義を迫害する。そんな世の中、正義の行いに対し正しき評価を向けるべきなのに……というわけで」


 男は剣を1本差し出した。まずい、まさかこいつ、あの外道レオの差し向けた刺客か?


「これは神星・天秤剣しんせい・ライブラソード。正しき行いに対し、その正さに相応しい力を与える聖剣です。これを貴方に差し上げましょう」


 あからさまに怪しい。だが、正しい行いには相応の力を与える。これぞまさに、僕が求める正義のための剣なのではないだろうか?


 受け取り、僕は剣を抜いてみる、すると……


「お、おおお!! 力だ、力を感じるぞ!! やはり僕は正義だったんだ!! ギャハハハハハハ」


 この力がアれば、憎キ外道のレオを一撃のもとに屠る事がデきる!!


 勝テる!! カてるゾー!!


「はい、その剣を持つものの正しさに比例して、力を与えます。力を引き出せるのは正しき者……または」


 男ガ何か言っテイるガ、ソンなノどウデモいイ


「邪な者にはその邪な心に相応しい力を与えるのです……」


 男ハそウ言いナガラ、すっト消エタ。ダガソンナのドウデモイイ。


 レオヲ殺す、ダガそのマエに、僕ノ正シサを認メなイ、腐っタコの世ヲ正ス!

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