第46話 お姉様はサイコーです
クラスA、それが俺に割り振られた仮のクラスであった。
例年、王国の全土から高等学院に入学してくるのは200人かそこら、王族が進学する年は国王とのコネを狙う諸貴族らが差し向けるのか、300から400人程度の入学があるそうだ。
その中でもやはり能力の差が生まれるのは必然であり、高等学院の学生は一旦、事前の選考でおおよそ想定される実力で割り振られたクラスで集まり、入学式を迎える。
そう、あくまで仮、なのである。この後に正式に割り振り試験があり、正式なクラス分けが決まる。
そのクラス分けにおいて、Aは最上位、その後アルファベット順にランク分けがされ、大体、3~40人程度のクラスに分けられる。
仮とは言え、最上級クラスに入った学生たちはその立ち位置を死守しようとし、最下位クラス等に割り振られた学生は下剋上を虎視眈々と狙っている。
そんなサツバツとしてる中なので、入学してすぐに「この学校の全員と友達になる!!」なんて空気にはならないのだ。
まあ、クラス割り振り試験は完全に実力主義であり、超優秀な平民から、劣等生だが貴族の階級が高いだけのプライドが高い奴が混在した中で、互いに最初に実力をぶつけ合い認め合わなければ、友達、なんてのは難しいのかもしれない。
「主が避けられてるのはそれだけじゃないかな」
「ん? どういうことだ?」
周りを見渡すと、ひそひそと俺を遠巻きに見る皆の目。
「婚約者のために3年の学年首席に喧嘩を売った男、って感じで見られてるかな。さらに、その前からロゼちゃんや僕、ミナちゃん侍らせてる節操のない男、って」
ふと女子を見ると、俺に向けてた目線を逸らされた
その後に聞こえてきた会話がもう
「やだ、目が合っちゃった!!」
「今すぐ目を洗ってきた方がいいよ! 孕んじゃうから!!」
人を化け物みたいに……
「よう、色男は大変だな」
そんな俺に気さくに話しかけてきた男の顔を見る……なんだろ、どこかで見た顔だな。
「「あ」」
男がフェンを、フェンが男を見た瞬間、双方、何かを悟ったような反応。
「そうかそうか、あの勇敢なお嬢ちゃんの主ってお前のことか。なるほど、現学院の首席に喧嘩を売る度胸があるわけだ」
と一人で納得している。
別に喧嘩なんて売ってないけどな。どちらかと言うと。無理矢理押し付けてきたから返品しただけだ。
男は右手を俺に差し出してきた。
「アリオン=アルシオーネだ、よろしく! 気軽にアリオンと呼んでくれ!」
なんだ、気さくな奴だな。こういう奴、嫌いじゃない。
俺は差し出された手を取り
「レオ=ルーディルだ。よろしく! 俺の事もレオと呼んでくれ」
そしてアリオンはフェンに向き直り
「アリオンだ。先の集団馬車襲撃事件の時は助けてくれてありがとう」
「僕の名前はフェンだよ! 無事だったならよかったかな!」
ああ、思い出した!!
この男、あの時一人でドラゴンに立ち向かった奴だ!!
「一人でドラゴンに立ち向かう方が度胸あると思うけどなー」
「ん? 何か言ったか?」
「いや別に」
「あれ? あの時一緒に居たセラちゃん、だっけ。一緒じゃないのかな?」
「ああ、セラか。まあ、今はCクラスに割り振られてるから、この後の正式振り分け後に紹介する事になると思うぞ」
「何故、正式な割り振り後の紹介になるんだ?」
「だってあいつ、絶対にAクラスになるから」
「へえ、そう言いきれるくらい、仲良いんだ?」
「同郷だから、幼馴染ってやつかな。純粋な魔法能力でいうなら、俺よりあいつの方が上だぞ」
基本的に実力主義ではあるものの、仮のクラス分けでは親の爵位やらも加味したクラス分けとされている。
Aクラスには基本、子爵以上か、優秀な男爵家の子女までしか割り振られず、平民出身だとどうしても優秀なやつでもCクラス止まりなのである。
これが大きくひっくり返るのだ、入学式後のクラス分け試験で。
俺も足許掬われないよう、気を引き締めないと。
***
高等学院と上等院は式典を共有する講堂にて執り行うのが通例である。
さらに、高等学院に所属する新入生はまだ互いに実力が未知数なので、新入生代表挨拶は上等院の代表がまとめて執り行うこととなっている。
俺達は講堂に集められ、式典の真っ最中である。
なお、講堂はとても広く、今日は高等学院1年生、上等院1年生しか使わないため特別に従者も主人の横に座っていたりする。フェンも俺の横で大人しく座って……すまほいじってら。
――新入生代表挨拶!
司会進行の教師が風魔法に乗せて皆に通る声でそう述べた。
そういえば、例年は上等院に首席で進学した人が代表挨拶をやるそうなのだが、首席であった姉さんは今回、挨拶をしないそうだ。
なんでも、挨拶をするに相応しい人物がいるとかで……
――上等院新入生代表、シャーロット=ゼファー
うん、どこかで聞いた名前だな。
そして檀上に上がる美しいお姉さん。
うん、どこかで見た人だな。
そして、一瞬こちらに視線が向いたと思ったら、小さくこちらに合図を出してくれた。
うん、知ってる人だ。
俺の周りでは「俺と目が合ったぞ!」「俺に手を振ってくれた!!」「これでもう、学院生活思い残すことは無い」とか男連中がコソコソと話しているが、ちがうぞ。
こっちを見て、こっちに合図してくれたんだぞ!
と、シャーロットさんが合図を出した相手を見る。
あの時すっかり仲良くなった様子のフェンが嬉しそうに手をブンブン振っていた。
フェンが大きく手を振るから、俺と、フェンを挟んで隣に座っていた女子学生に手がベチベチ当たってる。
女子学生も「はあ可愛い。仕方ないなぁ。可愛いから許す」って感じでフェンを許してくれてるようだが、マジですまん。
後できつく言っておくので。
檀上ではシャーロットさんの挨拶も終わろうとしている。
「……これからも国の為、人の為、我ら新入生一同、切磋琢磨することをここに宣言いたします。
新入生代表 ゼファー王国第十二王女、シャーロット=ゼファー」
そして、鳴りやまない拍手。しかし、俺の周りはなんだか、王女様って身分の人多いな。
母さんが第三王女で、シャーロットさんが第十二王女だっけか。
……ん? ということは、シャーロットさんって、俺のおばさ……
(それ以上言うと、ぶち転がしますよ?)
俺の脳内のシャーロットさんがおっとりした笑顔を崩さずに、鞭を片手にパシッパシッっと威嚇してきたイメージが頭に浮かんできて、俺は一人で勝手に恐怖に震えたのであった。
うん、ジャーロット「お姉様」はサイコーです!!




