第44話 やまぶきいろのおかしです?
「レオ様、フェンちゃん、これなんですがね……」
「な、なんじゃこりゃぁぁぁぁ!!」
実家に滞在し療養の最終日、トムさんが珍しく慌てた様子で俺を呼ぶので行ってみたら、裏庭の目立たない一画がもじゃもじゃしてた。
「いやあ、確かに、数年前レオ様が持って帰ってきた薬草を植えてはいたのですが、あの後、薬草は枯れもしなければ増えもしなかったんですがね……先日レオ様たちがお帰りになった後くらいからですかね、もう、周りの植物がボウボウに成長始めまして……オレっちも庭師経験そこそこありますが、こんなの初めてですよ」
「主、これ」
フェンが公園で人を物色した時に使ったメガネを渡してくる。それをかけると
・ワ・
こんな顔した小さな人間みたいなのがたくさん、一生懸命土を掘り掘りしていた。
「おい、フェン、これって……」
「土の精霊、ノームかな。とは言え、このメガネで可視化出来るほどの精霊、それもこんなにたくさん一体どこから……」
「トムさんが言ってたが、数年前の薬草が枯れもせず現状維持していたのと何か関連があるのじゃないか?」
「……そうか、土に無理矢理ノームを大量に圧縮して詰め込んだのかも」
「つまり、何かしらの要因でそのノームが詰め込まれた土から溢れたと? ……この後どうなる?」
「ノームは基本的にめんどくさがりだから、移動はあまりしない。ここの土はノームに祝福を受けた状態になるだろうね。とはいえ、ここまでの密度ではノームの生活も大変だろうから、ある程度はこの領土に広まって生活する事になると思う。ここまでのモジャモジャはすぐ解消されると思うかな、とりあえず」
フェンは数年前に採取した薬草の方を指さし
「すぐに枯れると思うから、もう抜いちゃった方がいいかな?」
「オレっちにはよくわからないですが……フェンちゃんの言う通り抜いちゃっていいんですかい?」
「ああ、トムさん、お願いできる?」
「分かりました……ああ、もう枯れてる……よいしょっと……あ」
トムさんが枯れた薬草を持って俺の所に駆けてくる、どうしたんだろ。
「レオ様、両手をこう、モノを掬い取るような形にしてもらっていいですか?」
「? こう?」
「ええ、いきますよ!!」
トムさんがブンブンと枯れた薬草の花の部分を振る、すると……
――ボロボロボロボロ
「……これは?」
「恐らく、種ですね」
ああ、なるほど、薬草と思われてるから、薬草採取の冒険者は花には目もくれないと。だから、花から種が出てくるとしても、それは自然と落ちてしまい、そんな種をわざわざ探す冒険者など居ないだろうな。これ、結構レアかもしれない。
「王都に持っていかれます? それなら日持ちするように乾燥させておきますが」
「じゃあ、数粒だけ残して、後は乾燥してもらってもいいですか?」
残りは薬師さんの所に持って行ってみよう。
***
「た、種ぇぇぇ!!!???」
久しぶりに会った薬師さん、種を持ち込んでみたら仰天してた。
「そ、そんなのうちに持ち込まれても、む、無理です!!」
「無理って……」
「希少薬草の、さらにその種ですよ!! そんなの、こんな片田舎の薬師が取り扱っていい者じゃないです!!」
といってから、はっとして
「い、いえ、決してルーディル家に不満があるわけではありません!!」
「いや、分かってるよ。実際田舎だし」
しかし、まいったなぁ
「この種は一部だけなんで、このまま差し上げますよ。残りは乾燥させてるから、王都の本部に直接持ち込んでみます」
「で、でしたら、私から紹介状を書かせていただきます!! せめてものお礼です!!」
こう接してみると、やはり地元の皆いい人ばっかりだったんだな、と思えてくるよ。
***
王都に戻ってすぐ、俺は種を薬師連盟の本部に持ち込んだ。
受付で対応した職員は最初は横柄な態度であったが、紹介状を見るなり飛び出していった。
そして応接室に通された俺に代わりに応対する事になった重役っぽい人、この人は懇切丁寧に対応をしてくれた。
「いやまさか、3年前のあの薬草の株を持ち込まれた方がこんなにお若い方だとは。先ほどはうちの者が失礼いたしました」
「私のような若造が来れば対応もおざなりになるのも仕方ないと思います。で、その後の研究は進んでいるのでしょうか?」
「いえ、分かった事といったら、土の精霊の加護が多分に含まれている事と、人為的に再現することは不可能、といったところでしょうか」
その代わり、と前置きがあり
「あの土の上ではどんなに育成が難しい植物でも育つ、という事が分かってます。この種とあの土があれば、あの薬草の量産も可能でしょう」
そう言ってから重役は頭を下げ
「3年前は提供いただいた物を買いたたくような真似をして申し訳ありませんでした」
「い、いえ。私も納得してましたし、お互いウィンウィンということで!!」
「話によれば、全てを知った上であの値段で提供いただいたと。その上、今度は種まで提供いただけるとの事。我々は病気を見る薬師連盟であり商人ではありませんが、それでも、正当な報酬を支払う必要があると思慮いたします」
パンパン、と重役が手を叩くと、大きな布袋をお盆に乗せた職員さんが入ってきた。
「まずは手付金として、3年前にお支払い損ねました大金貨180枚、こちらをお納めください。種につきましては精査の上、適正報酬を後日ご自宅までお持ちいたします」
「な、ちょ、ええ!!??」
弱った。そんなにお金使う事無いぞ俺。
こうして、高等学院入学前に俺は、平民として暮らすには十分程度のお金を手に入れてしまったのであった。




