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第43話 思春期の真っ最中の少年が両親のノロケを聞かされるような話

 ルーディル領、領主邸宅


「よぉ、トム! 元気にやってるか!?」


「あ、ハンクスさん! お久しぶりですね! オレっちは元気ですよ! どうしたんですか? もしかして、オレっちに会いに来てくれたんですか?」


「気持ち悪い事いうなよ。お嬢様達が一旦実家に帰るというから、その馬車の御者としてやってきたんだよ」


「ロゼッタお嬢様も大変だったそうですからね。せめてこちらにいらっしゃる間は、何も考えずにゆったりと過ごしていただきたい所です」


「そうだな、かく言う私も、実家に戻りはしたが、こちらに来た方が心が安らぐようだ」


「戻ってくればいいじゃないですか!」


「馬鹿をいうな、お前はまだ若いほうだが、年寄りは若い者に道を譲ってなんぼだ。」


「そんなもんですかね?」


「さて、若いモンがちゃんと仕事してるか抜き打ちで確認してやるか。お嬢様達が今旦那様に挨拶してるはずだから、その後でお伺いすることにしよう」


「ハンクスさん、生き生きしてますねー……あー、お嬢様たち、今旦那様のところに挨拶に行ってるのか……オレっちはしーらない、っと……」


***


「お父さん、お母さん、今帰りました」


 ガチャッ、っと姉さんが父さんの部屋の扉を開けると


「ママー、みんなが帰ってくるよー!!」


「はいはい、パパちゃんは嬉しいのですね」


「でもパパ、ママにこうやって甘えるのもだいしゅき~!!」


「あらあら、パパちゃんは甘えん坊さんですね」


 流石にこの年になって、父と母が目の前でベッタベッタしてるのを見るのは、その……


 父さんもこちらに気が付いたようだ、さっきまでのとろけた表情を一変させ


「リリカ、レオ、ロゼッタ、それにミナとフェン殿、よく戻ってきた! 特にロゼッタとミナ、聞けば大変な目に会ったと聞いたが、元気そうでよかった」


 と、母さんにベタベタと抱き着いたまま真剣な顔でこちらにそう言ってくるのだ。


 姉さんがこちらに目で語ってくる


(あんたの親でしょ? なんとかしなさい)


 ロゼッタもこちらにアイコンタクトを飛ばしてくる


(お兄様の親ですよね? 何とかしてください)


 いや、キミたちの親でもあるよね……?


 ミナさんも俺にアイコンタクトで語りかけてくる


(えっと、その……レオ様、ファイト!!)


 いや、ミナさんはこんな反応でも仕方ないけれどね


 最後、フェンまでアイコンタクトしてきた


(そんなことよりおやつ食べたい)


 お前はマイペースだな


 仕方ない。俺は意を決して、代表して話しかけた


「あー、父さん、ただいま。父さんと母さんも元気そうでなによりだ、それと……この光景はそれなりに成長した子供の目には毒だから、俺らが居る間はほどほどにしてくれ、頼むぞ、パパちゃん」


***


「なに? 私の母さんとの馴れ初めを教えて欲しいと?」


「ああ、まさか母さんが元王女だとは思わなくてな、何でこうなったのか、教えて欲しいんだ」


 母さんはともかく、フェンを除くその他女性陣の視線にいたたれなくなった俺は、父さんを連れ出し、俺の部屋で父さんと2人で話していた。


「そうか、レオにはまだ詳細を話して無かったな……」


 そして父さんは話を始めた。


「レオ、私は元は平民だったが、功績を上げて男爵まで成り上がった事は知っているよな?」


 俺は首肯する。


「私は平民は平民であったが、その中でも、孤児、というやつだったのだよ」


 そして父さんから語られる、父さんの過去。


 父さんは孤児だった、だが、学校に通っているときに領主から魔法の才能を見いだされ、領主が全面的に援助をしてくれ、何と上等院にまで通う事となったということだ。


「そこまでやってくださったのだ、私は、全力で魔術の道を突き進んだ。今も学校行事としてあるようだが、当時の高等学院で年に1回行われていた魔術大会で2年生の時と3年生の時、と、前人未到の2連覇を達成したりもした」


 そんな中、3年生の時に1年生として母さんが入学してきたそうだ。


「一目ぼれだった、だが、やはり高値の花。そんな中、彼女が本を好きという事を聞いてな」


 せめて、彼女が好きな本を好きなだけ読めるようにと、父さんはそのために魔法研究を重ねたそうだ、結果。


「魔法を使った上質紙の大量生産方法、印刷技術、明り取り用のガラス窓の大量生産技術を発明し、それを王国に献上、私はこの国の本の普及、ガラス工芸の発展に貢献したと言われている」


 そして、国にそんな貢献をした父を放っておくような人間は居なかった。連日連夜、貴族の男連中からは配下になれと言われ、豪商の娘からは全く気持ちの入ってないアプローチを受け、散々だったそうだ。


 研究の熱も失せ、学院をやめてしまうか、とまで思い詰めたそんな時、母さんが話かけてきてくれたんだそうだ。


『あ、あの、先輩! ありがとうございます! 先輩のおかげで、大好きな本がたくさん読めるようになりました!』


『そうですか、ありがとう……貴女は今、幸せですか?』


『はい! とても幸せです!』


『それはよかった……それでその、お恥ずかしい話なのですが……私は本を作る技術は作りましたが、その本というのをどのように読めばいいか、といった所が分からないので、その……時々でかまいませんので、貴女の楽しかった本のお話など、聞かせてはいただけませんか?』


『え? 私のお話なんかでいいのですか? 私もそんなにお話上手な方でないので……』


『私が作った物を心から喜んでくれる貴女だからこそ、その。笑顔を時折見せていただきたいのです』


***


「はいカット」


「なんだレオ、これからいい所なのに」


「いや、親のノロケ話も多少はいいけど、これ、もっと長くなるよね?」


「大丈夫だ、5日ほど休憩せず、寝ずに聞いてくれれば終わる」


「要点掻い摘んで話せ」


「仕方ない奴だにゃぁ」


 中年のおっさんがにゃぁとか言うな。


***


 こうやって、たまに父さんと母さんがたまに話す仲になったそんな中、世の技術を大きく発展させた功績として、父さんは子爵として異例の出世をすることとなったそうだ。


「ん? 子爵? うちは男爵だろ?」


「まあ、どこかの貴族や豪商が技術を独占したりしないよう、独立した身分を与えたかったのだろうな、その際、私は国王に対して言ったのだよ」


「何て?」


「第三王女、ルリア王女を嫁にくれ、と」


 すげえ、ドストレート過ぎる! この父さん、強い!


「もちろん大問題になったさ!」


「だろうなぁ!!」


「だがその場を、私を支援してくれた領主様が抑えてくれたんだよ」


 その領主様、なんと公爵様だったらしく、王も無碍には出来なかったようだ。


 その公爵様曰く「特定勢力に取り込まれないようにという事なら、王女を嫁がせるのも有効なのではないか?」といった政治的な面や「思い人のために国王にまで喧嘩を売る根性、いいじゃないですか」といった説得をしたようだ。


 国王に喧嘩を売る根性? いや「いいじゃないか」で済む問題じゃないが。


「その結果、私は母さんとの結婚を許された、まあ、その際にいろいろとあり、子爵ではなく男爵に降格になり、他にも条件が付いたが」


「ああ、父さんが側室を持たないのもその制限か。どこかの勢力に取り込まれないように」


「まあ、それもあるが、私は母さん以外を娶る気はさらさら無いからな。今までも、これからも」


 そして、父さんは俺の肩に手を置き


「だから、私のせいでリリカやロゼッタが変な輩に狙われるような事にならないか、心配なんだ……レオ、お前頼りになってしまって申し訳ないが……2人の幸せを、守ってやって欲しい」


「ああ、任せろ、父さん」


 大丈夫だ、姉さんもロゼッタも、俺が守る。


――その為なら……

2020/10/02 誤字・脱字報告ありがとうございます。修正させていただきました。

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