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第39話 フェンリルナイト・ドラゴン

 王都、乗合馬車管理組合本館の一室。


 そこれは乗合馬車の重鎮が集まり、先日の事故調査に伴い支部長イザークの報告書とにらめっこしていた。


 中には頭を抱えている者もいる。


 その中で一番威厳のある男が、報告書を提出したイザークに対しこう問いかけた。


「イザーク、この報告書、全てに嘘偽りは無いと言い切る事が出来るな?」


「はい、本部長! 決して報告書には嘘偽りを書いておりません!」


 報告書に記載されている内容は、要約すると以下のような内容だ。



・乗合馬車が相次いで襲われ、乗客120名と御者8名が捕えられ、馬車の護衛20名は殺害された。


・原因は、この需要の高い時期に御者を召し上げられ、経験の浅い御者を使う必要があったこと、途中で立て看板の向きが入れ替わっていた事、護衛の遺体を確認したところ、中級程度の魔法使いが複数人賊に肩入れしていた可能性があること。


・御者を召し上げた伯爵からは、事前に約束した報酬をビタ一文も払わず、管理組合に敵対を示唆するような言動を取った事



 ここまでは普通なのだ。そうなのだが


「まあ、何故中級魔法という、レベルの高い魔法使いが賊に力を貸していたのか、等は不可解だが、起こった事については仕方ない。報告書もこれで構わない。だが……」


 組合長はそう言いながら、報告書の下を読み進める。


 問題はここからなのだ



 要約すると


・管理組合一丸となって救助に向かっていたところ、御者と乗客が全員、馬車に乗って逃げてきた。被害は1名が気を失っていた以外は軽傷程度。乗客の1人が言うには、フェンリルナイト・ドラゴンと名乗る男が1人で賊の討伐を為したようだ。


・その後、乗客が捕えられていた地点から魔獣が飛翔。遠目で明確には確認できなかったが、その姿はドラゴンであったと推測される。


・そのドラゴンを、フェンリルナイト・ドラゴンと名乗る者が1人で討伐したようだ。



「あのさぁ……」


 普通ならあまりに荒唐無稽な話だからか、重役の一人がついそのように呟いてしまう。


 他の重役からも「これ、事実なのか?」といった困惑めいた空気が感じられる。


「「「フェンリルとドラゴンで、幻獣がかぶっている!!」」」


 あ、気にしてるのはそこか。


「まあ、この幻獣欲張りセットの名前は置いておくとして、賊を一人で片付け、ドラゴンをも倒す男……。明らかに空想レベルだ。普通なら書き直しを命じるところだが……」


 実は王都の管理組合でも、その乗客に対して軽く聞き取り調査をしたところ、イザークの提出した内容を裏付けるような結果になってしまっているのだ。


「乗客が口裏を合わせて嘘を付くメリットもない現状、イザークのこの報告書は本物と見るべきだろう。だが、内容があまりに突飛過ぎて判断が付かない。よって、裏が取れた部分だけの判断を下そう」


 管理組合長は一呼吸置いて


「まず、当該伯爵領への乗合馬車の全面通行禁止、支部の解体。それと同時に国王に対し、伯爵に造反可能性の報告。イザークに対する沙汰は追って通達、支部解体後は私預かりとする」


「そ、それであの、フェンリルナイト・ドラゴンと名乗る者についてですが……」


 イザークはおずおずと進言した。話によると、乗客の一人がドラゴンから助けてもらったと言っていた。イザーク個人としては、何かしらのお礼をしたいところだが……


「実在するかどうか怪しい者に対してまで、判断は下せない、だが……」


 管理組合長はニヤッと笑って


「もし仮にフェンリルナイト・ドラゴンという人物が話題になった時は、その者が不利にならないようにしてやる。今はこれくらいしか出来ないが、よいか?」


「はっ! 何卒、よろしくお願いいたします」


***


 うむ、確かに私はそう言ったな、言ったが。


 乗合馬車の管理組合長である私は今、王宮にて国王と、星導教会の司祭と3名で卓を囲んで議論している。


 領主、特に王都との特別経路のある領の伯爵の造反、そうなれば国政にも一部顔を利かせている教会も話に入ってくる権利がある。

 だから呼んだのだが……。


 そんな中、管理組合長が事の顛末を語るや否や司祭が


「そいつだ!! そいつに間違いない!! 国王!! 今すぐそのフェンリルナイト・ドラゴンを指名手配しましょうぞ!!」


 と息巻いて来たのであった。


「お待ちください司祭殿。まだこの者が何か悪事を働いたという訳でもないでしょう? 今は伯爵の造反について」


「黙れ! 此度の件で、我々は司祭の命と教会の秘宝、龍音叉(ドラコニスおんさ)を奪われたのだぞ!! 聞けば伯爵邸は謎の爆発で木っ端微塵になったと言うではないか!! そいつが造反者だ!! 全てそいつの仕業だ!!」


 国王は目を瞑って黙っている。考え込んでいるのだろう。


 それは置いといて、司祭殿のこのフェンリルナイト・ドラゴンに対しての敵意は何なのだろう。先ほどはドラゴン出現の可能性を聞いても冷静であった彼が……


……ちょっとまて、この司祭は何故『ドラゴン出現』という一報に全く動じなかったのか?


「司祭殿、よく考えてください。その亡くなった司祭は、伯爵邸で、風と土の魔法で殺害されてたんですよね?」


「そうだ!! だからどうした!?」


「分からないんですよ。フェンリルナイト・ドラゴンを名乗る男が、何故、厳重保管されて然るべき秘宝を奪うのに、保管されているであろう教会の方に行かずに、わざわざ伯爵邸なんて警備が行き届いているような場所に居る司祭を狙うのか」


「そ、それはそう、秘宝の保管場所を聞き出すために……」


「それなら、普通は人気の無い所を襲いますよね? 何故わざわざ、伯爵邸内で襲うのか。しかも、魔法という、痕跡の残りやすい手法を使って」


「そいつが屋敷ごと爆破して、その秘宝の出所を探った形跡を消したかったのだろう!!」


「ああ、屋敷爆発ですか。あれ、話によると、魔法によるものではないそうですよ。ただの偶然が呼んだ爆発。フェンリルナイト・ドラゴンがやったという証拠も無いそうですよ」


「え? そ、そんなわけは!!」


「私、何か引っかかるのですよ。司祭殿、ドラゴン出現と言われても冷静だった貴方が何故そんなに取り乱したのか。いや、そもそもドラゴン出現なんて未曽有の災害みたいなものです。それに対して貴方の反応はあまりに冷静だった、もしかして貴方……」


――ドラゴンが出現することを前から知っていた?


 私はあえて言葉を紡がない。


 それに対して、その後の言葉がどう続くか、それに対してどう対処しようか考えているのだろうか? 司祭殿の顔色が色々と変わっている。


「もうよい」


 王が短くそう制したので、私としてはこれ以上発言をする権利はない。私は黙って王の沙汰を待つのみである。


「そのフェンリルナイト・ドラゴンと名乗る男については指名手配等はしない。だが、無くなった龍音叉の在処を知っている可能性もある。秘密裏に行方を追い接触し、当方との話し合いに臨んでもらうよう働きかける。協力的であるなら沙汰無しとする」


 とりあえず、フェンリルナイト・ドラゴンの剣については最低限、イザークとの約束を守れたであろうか。


「伯爵については聴取の上、場合によっては極刑とする。しばらくは王都直轄の立ち入り制限区域とし、広域調査を行う。乗合馬車の管理組合には申し訳ないが、乗合馬車の立ち入りも禁止し、本格的に調査を行う」


「はっ!仰せの通りに」


「か、かしこまりました」


 私はハッキリと、司祭は少々困惑した感じで返答をした。


 しかし……フェンリルナイト・ドラゴンとやら……


 今回は私が抑えてやったが、どちらにせよ大変な立場なのは変わりないようだ。


 今後、この男がたどる道筋はどの道だろうと、決して楽な道は無いのだろう、と予感させられるのであった。

第二章終了となります。ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

次話は第一章幕間と同様メタ整理の回となります。

ストーリーは第三章からとなります。引き続きよろしくお願いいたします。


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