第38話 ドラゴンよりも怖いオーガ
先のドラゴン戦から数日
「あぁぁぁぁぁぁぁ」
俺はベッドに倒れ込み、盛大にため息をついた。
色々あり過ぎたのだ……
まず最初、ドラゴン退治の後、最悪の場合は黒幕、最低でもあの状態を混乱させた伯爵に軽く私的制裁をかましてやろうと思ったのだが
――ドガーーーン!!
『主、ちょっとやり過ぎじゃないかな?』
「いや、ちょっと凝らしめようと思っただけなんだが……力抑えたし」
『ちょっと懲らしめる、で、家を丸ごと爆発させられたらたまんないかな……』
ドラゴの力で変身したフォームがやたらに強かった。こりゃ、街中で戦うような場合はこのフォーム使えないな……
そしてその後、家に帰った俺を待っていたのは
「レ~~オ~~!!!!」
ドラゴンよりも怖い、姉さんの顔だった。
まずは大金貨で支払いをした事、そして、エスコートすると言った女性を置いて行ったことを怒られた。
そして追い打ちのように続けて、街での声掛けはやめろと言われた。
これだけは誤解を解こうとして、俺は説得に時間をかけた。
「姉さん、大丈夫!! もうあんなことはやらないから!!」
「あんた、そんなので信用できるとおもってんの!?」
だから俺は、ここについては明確にして、姉さんの心配を解消してあげなければと思った。
「いや、ロゼッタともう済ませたから」
「は?」
何故か空気が冷たくなった……そうか、幻獣の受け渡しは犯罪だったな……
「大丈夫だよ。成り行きで半ば無理矢理やったけど、ちゃんと憲兵に自首するから」
その後フェンが間に入ってくれて説得してくれたが、その説得で姉さんが落ち着いてくれるのにも数日かかった。
それに、あの時見た姉さんの顔を俺は一生忘れないだろう。
あ、幻獣の受け渡しはそもそも、そんな事してる人がほとんど居ないし、犯罪でも何でもないそうです。一つ賢くなった。
そして最後の懸念事項、それが倒れてる俺の目の前に居る。
「いやあ、よかったっすね、旦那!」
「てめぇぇぇぇぇぇ!!」
ロゼッタの筋肉改めドラゴ、こいつは許さん!!
俺は他の人が見たら明らかに力負けしそうな大男を、首を絞めながら持ち上げる。
「だ、旦那ぁ!! そんなに激しく、首締めないで……」
「うるさいですねぇ……」
フェンがそんな2人を冷めた目で見ているが、そんなことはどうでもいい。
「ロゼッタのおっぱいは、俺が守る!!」
言葉だけを見ると非常に危うい発言に聞こえるが、俺は至ってマジメだ!
「お、おっぱいって……なんですか……姐御……助け……ガクッ」
「あー、ドラゴ、本当にヤバいかも?」
……
数時間後、俺の話を聞いたドラゴが大爆笑していた。
「いやーハハハハハ!! 俺がそんな事する訳ないじゃないですか!!」
「え? でも、フェンは生んでくれたからママって……」
「あー、いや、親代わり、ってのは否定しませんけどね、幻獣にもそれぞれ性格があるんですよ。それでその性格って、宿主の深層に眠った性格を幻獣が引き継ぐんですよ。俺はお嬢から生まれましたが、俺の性格から考えると、お嬢はむしろ、全ての困難を真正面から力でねじ伏せるタイプ、って感じですかね」
嘘だ、うちの妹がこんなに脳筋なわけがない。
「ん? 待てよ? つまり、フェンがやたら甘えん坊だったり、ママとかママのおっぱいって言ってくるのは」
「旦那の深層心理がママのおっぱいを求めてるのか、幼い頃に甘え足りなかったのかもしれまいたっ!! ちょ、あ、姐御!! そんなに激しく叩かないで!!」
「うるさいですねぇ……」
フェンがドラゴをジト目で冷たく見下しながら、手加減なんてしていないようにどつきまわしている。
一方の俺は、そんな漫才を見て笑う気分になれなかった
だって、考えてもみてよ!
フェンの行動、それが全て、元はと言えば俺の深層心理ということはだ、
つまり、フェンの取る行動を全部、俺が取ってても不思議ではないということだ。
15歳になる男が公衆の面前で「ママのおっぱい」とか「ママ好きすりすり」とかしてるのを想像してみ……なくていいや。精神衛生上よろしくない。
ともかく、ロゼッタのおっぱいの平和は守られた!! これでよかったことにしよう、うん!!
そうしないと、俺の精神が耐えられなさそう。
「と、ところで、ドラゴお前、出てきたはいいが、普段どうするんだ?」
明らかな話題逸らしだが、2人とも乗ってくれた。いや、俺の知り合いの幻獣は皆いい奴だな、うん。変態の幻獣なんていなかった、いいね?
「あ、俺は普段、姐御の弟分として、姐御の中で補佐しますぜ。旦那達は普段、俺は居ないという認識で居ても差し支えないかと」
「ドラゴは戦闘では主力だけど、主の相棒は僕! だからね!」
えへん、と胸を張る。つまり……
「例えば、他に幻獣使役をしなければならない時は、フェンが管理し、幻獣はフェンの体内で控えている、みたいな感じでいいのか?」
「まあ、そういうところかな?」
「よかった、毎日筋肉を見せつけられてノイローゼになる人は出なくて済むんだ!!」
「旦那! 筋肉の否定は生命の否定ですよ!! ほら、一緒に! レッツ、筋トレ!!」
「うるさいから帰れ」
フェンがそう冷たく告げると、ドラゴが小さな赤い光の玉になり、フェンの中に吸い込まれていった。
「ところで主、別の幻獣って言ってたけど、また別の変身フォームが増えたかな?」
「あ、ああ、増えたは増えたが、ちょっとこっち来て見てみろ」
俺はフェンに近くにこいとジェスチャーする
「よいっしょ…っと」
フェンがベッド脇に座る俺の膝の上に座る。
「……横に座れば?」
「別に、こっちでも問題ないと思うかな」
はぁ、この甘えん坊な性格が本当に俺の深層心理の性格なのか?
まあ、いいや。
俺は右手で左手のブレスレットをトントン、とする。
膝の上にフェンが座ってるから、必然的に抱き着くような姿勢になり、フェンが一瞬「あっ……」って言ってるがそれは無視だ。
そして、そこに現れた文字は
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・フェンリルナイト
・フェンリルナイト・ドラゴン
・フェンリルナイト・フォーム3
・フェンリルナイト・フォーム4
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「主、もう腕輪にも見透かされてるかな? どうせ『フェンリルナイトなんちゃら』って名乗るんだよね? って」
「そこについては是非とも異議申し立てをしたいところだが、とりあえず」
フォーム3と4を指さし
「こうやって2つも追加されたわけだ。今後、もし幻獣や精霊、魔獣を使う必要がある場合、フェンの負担にならない程度で対応したいと思ってる。最悪、封印されるフォームも出てくるかもしれない」
フェンはちょっとムッとした表情で
「主は僕を舐め過ぎかな?今の僕なら、そうだね、前に会ったケーキのお姉さん!あの人の幻獣くらいなら追加で使役できるよ!」
「ケーキのお姉さん? 誰だそれ?」
「前一緒にケーキ食べたお姉さん!」
「あー、シャーロットさんか。あの人の幻獣もすごかったな。それじゃ、もしまた幻獣使役が必要なフォームが出てきたら相談させてもらうな」
フェンは笑顔で
「任せてよ!! 僕は、主の相棒だからね!!」
と返すのであった。




