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第3話 宣戦布告

 学校が終わって帰宅しようとしたレオは、帰ろうとする人の流れに逆らってやってきた二人の見知った顔を見つけ、声をかけた。


「ロゼッタ、ミナさん。どうしたの?」


「あ、お兄様!な、なんでもないのですよ!」


 明らかに挙動不審だ。ふと、ミナさんを見てみると苦笑いしてるだけであった。


 まあ、変なことはしていないということか。


「わ、私、お姉さまのところに行ってきます!」


 挙動不審な感じで、ロゼッタは俺から何かを隠しながら校舎に入っていった。


――まあ、丸見えなんだけどね。


 ロゼッタは同年代と比べてもちょっと小柄な方であったので、身体で俺の目線から隠そうとしても隠しきれてなかった。


 どうやら、ロゼッタは自分そっくりの人形を持って姉さんのところに行ったようである。


「ねえ、ミナさん。ロゼッタは何やろうとしてるの?」


 その場に残ったミナさんに聞いてみる。


「今日はリリカ様のお誕生日ということで、ロゼッタ様は手作りのプレゼントをお渡しになりたいと。」


「ふーん、そうか。誕生日プレゼント……」


 あれ、俺、姉さんの誕生日プレゼント何も用意してない。


――ヤヴェェェェェイ!!


「ロゼッタ様の考えでは、旦那様と奥様がプレゼントをお渡しになるのはリリカ様の帰宅後、レオ様はリリカ様の誕生日を忘れてるだろうから、このタイミングだと自分が一番にプレゼント渡せると予想したようですが……当たったようですね」


 ミナさんが「イタズラ大成功」とでも言いそうなすごい良い笑顔で言うのであった。


 なんだかここで同様すると負けを認めた気になって面白くない。


「ミナさんは校舎に来るの久しぶりだよね?どんな気分?」


 話を無理やり転換するに限る。


「そうですね……やはりそれなりに長い間通っていたせいか、まだ数か月なのに、ものすごく懐かしく感じます」


「また学校に通ってみたいと思う事はある?」


「機会があれば、とは思いますが、私は今の生活で十分幸せだと思ってますよ」


 と、こんな他愛のないやり取りをしていたところ


――ドンッ!!


「きゃっ!!」


 話し込んでる2人に勢いよく衝突する小さな影。油断していたミナさんが衝突に耐えきれず、倒れて尻もちをついていた。


……そして、俺は。


「ロゼッタ……?」


 見てしまった、ロゼッタが、泣くのを堪えようとしながら走り去って行ったのを。


 堪えようとして堪えきれず、涙が1滴落ちたのを。


「え……?ロゼッタ様?申し訳ありません、レオ様、ロゼッタ様を追いかけます!!」

「ああ、俺は姉さんの様子見てくる」


 確かに最近の姉さんはどこか余裕がなかったように思える。


 だが、それでも……レオは幼少期の事を思い出す。


 幼少期、俺は姉さんの誕生日を忘れてて、姉さんにがすごく泣いたのを覚えている。


 その時の俺は姉さんに嫌われるのが嫌で、一生懸命野原で集めた花を束ねて指輪を作って謝りながらプレゼントしたっけ。


 その時の姉さんは怒ったというよりも、自分のことが俺のなかでどうでもよくなったのではないかと思って怖くなったらしい。


 子供の時とは言え、こんな子供騙しで姉さんの機嫌がすぐに直ったのも、俺が姉さんの事を考えて一生懸命なのが伝わったからなのだと思う。


 姉さんはこう、目つきが鋭く一見活発に見えるから誤解されがちなのだが、その実、怖がりなところもあるようなのだ。


 そして、姉さんが最も恐れるのが「人との繋がりが切れる事」である。


――だから、目の前の光景が信じられなかった。


 先ほどロゼッタが抱えていたと思われる人形に足跡がいくつも付いて、中の綿が寄ったのか、人型を取っていたとは思えないほどへこみ、接合部の甘い手足部分は一部取れかかっているようだ。


 そして、生気の無い目をしながらヨロヨロとその人形に近づいて行っている姉さん。


――ただの俺の勘だが、今の状態の姉さんにこの人形を渡すといけない気がする


 レオはリリカが人形を掴もうとする直前に、その人形を横からを奪い、左腕で抱きかかえた。


「私の大切な宝物、奪うな!!」


 リリカはとっさにそう怒鳴りつける。それを聞いてレオは少しだけ安心した。


 ロゼッタが嫌いになってこんなことをしたわけではないようだ。つまり、一時的に何かが爆発しただけなのだろう。


 リリカは怒鳴りつけた相手が弟であったことに気が付き、また狼狽えている。


 凄く感情が分かりやすい姉さんだ。そして――何でも自分で抱え込んでしまう姉さんだ。


 このまま放っておくと姉さんは、自分で全て抱え込んで解決しないまま時が過ぎるだけとなってしまう。


 そんなの、せっかく兄弟姉妹として生きているのに悲しいだけじゃないか……


 少なくとも、今の状態の姉さんを俺は放置しておくことなど出来なかった。


 だから俺は……


――ベチン!!


 ぬいぐるみを抱えていない右手のほうで、姉さんの頬を思いきりビンタした。


「なっ!!」


 姉さんは驚いた顔をしたが、次第にまたどす暗い顔になったかと思うと、ビンタした俺に食って掛かった。


「レオ、あんた何すんの!!」


「姉さんがロゼッタにした仕打ちと比べれば大したことないと思うけど?」


「うるさいわね!! 私とロゼッタの問題よ!! 部外者は口出ししないで!!」


「俺も姉弟であり関係者だ、部外者扱いは心外だぞ」


「いいえ、レオは部外者よ!! あんたなんか……」


 ああもううるさい。


 胸倉を掴んできて詰めよってきた姉さんに対し俺は


「黙れ」


――ゴチィィン!!


 頭突きをかました。


 姉さんが思いっきり頭突きをされた額を抑え、悶絶している。


――くっ、姉さんの石頭め。俺もクッソ痛ぇ!!


 出来る事なら俺も悶絶しておきたいが、それよりもやるべきことがある。


「なあ、姉さん。こんなところでチマチマやらず、場所を変えて一度本気で姉弟喧嘩、しないか?」


「姉弟喧嘩……?」


「ああ、姉さんはロゼッタとの事に口出しされたくない。俺は姉さんに他人扱いされたことが我慢ならない」


 だから、と続ける。


「俺と姉さんでタイマンで心行くまで喧嘩しようぜ! 魔法も奥の手も、なんでも使ってOK.勝った方は負けた方に何でも一つ命令することが出来る、ってことでどうだ?」


 姉さんは半信半疑のような状態だったが、魔法もOKと聞いて「負ける事はない」と思ったのだろう。


「ふん……いいわ、やってあげる!」

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