第37話 フェンリル&ドラゴンズ
アリオンは今、命の危機を感じていた。
先程からドラゴンと対峙している奴、こいつがどこまで人質達の安全を保証してくれるか分からない。それに……
最後まで避難誘導をしていた女性陣、せめて、このメンツが安全圏に逃げられるまでは、と思ったのだが、予想以上に相手が悪かったようだ。
恐怖で膝が笑い、それでも絞り出した魔法は空飛ぶドラゴンに対しては、虫がうざい、程度のダメージしか与えられていないようだ。
敵わない、このまま自分はドラゴンに命を奪われてしまうのだろう、だが……そんなことより
――せめて、あいつらの逃げる時間くらいは稼げたかな?
ドラゴンがアリオン目掛けて大口を開き、炎を吐き出した。
アリオンは回避しようにも膝が笑い、動けない。
このまま炎に焼かれてしまう、アリオンがそう思った時、どこからか声が聞こえてきた。
――ドラゴンクロー、セット
***
俺はドラゴン相手に隙を作ってくれた男を守るため、駆け出していた。
そして、駆け寄りながら金属板を左肩の金属箱に差し込んだ。俺の両手に爪のようなものが装着される。
――ドラゴンクロー、セット
フェンの時は剣が登場するまでタイムラグがあったが、今回はすぐに武装が出てきた。
これがフェンの言ってる、戦闘に合うか合わないか、といったやつか……ともかく、今なら
「やれる!!」
俺は男とドラゴンの間に立ち、ドラゴンの火球に向けて爪で一閃。
――ちゅどーん!!
振るった爪の一閃からそのまま爪の形の衝撃波を飛ばし、火球を空中で切り裂いた。
これは……イケる!!
「お、お前……」
ふと振り返ると、腰を抜かしたのか、へたり込んだ男が俺に話しかけてきた。
「お前、お前は一体なんなんだ⁉」
…名を名乗れ、ってことか?
「俺の名はフェンリルナイト……いや」
フォームが違うから呼び名を変えた方がいいよな?
「ドラゴン! 俺の名前は、幻狼騎士・ドラゴンだ!!」
「フェンリルナイト・ドラゴン……だとっ!?」
「じゃあな! お前もさっさと避難してろ!!」
そう言い残すと、俺は開けた場所に駆け出した。
「フェンリルナイト……ドラゴン……」
男がそう言っているのが聞こえた気がしたが、その後、ミナさんと他の女の子に引きずられるよう名形で馬車に詰め込まれてたから、大丈夫だろう。
――あとは、空に浮かんでいるドラゴンを倒すのみ!!
ふと上を見上げると、ドラゴンが高度を上げていた。
前回は俺に上を取られ敗北したのを覚えているのだろう。
「で、主。勝算はあるの?」
いつの間にか俺の横に立っていたフェンがそう聞いてくる。
「おい、フェン。相棒なら信じてみろって」
「信じてるから、この後の展開を先に教えて欲しいかな」
「ふっ、それは、見てのお楽しみだ」
俺は腰の金属箱から金属板を2枚取り出し、そのうち1枚を腕の箱にスライドして入れる。
ドラゴンは距離を取って狙いが付けにくくなったのか、先ほどみたいな波状攻撃をしてこない。
俺の攻撃を躱し、反撃で倒そうとでもしているのか?もしそれなら好都合だ。
――ファイアキック、セット
俺の右足に炎が纏わりつく、早速準備が出来たようだ、それならば
「ぶっ放すしかないよな!!」
――GO
俺は思いきり飛び上がる、そして、そのままスピンしながら空中で横向きの体制となり
「おりゃぁぁぁぁ!!」
回し蹴りを放つと同時に、ドラゴン目掛けて水平蹴りを放つ。
――ボォォウ!!
水平蹴りと同時に、遥か上空のドラゴンに向かい、ものすごい速度で炎の矢が飛んでいく。
え? 狙いが付けられるのかって? いけるよ、俺と、ドラゴの力なら!!
俺はその攻撃が当たることを確信し、もう1枚の金属板を腕の金属箱にスライドさせる。
先程の攻撃はまだ当たってない。だが
――ファイナルアタック、チャージスタート
俺が着地の際に腕を突き、そのまま勢いを殺すためバク転を3回、着地を決めてから
――ドォォォォォン!!
――グギャァァァァァァ!!
空で派手な爆発と同時に、ドラゴンの悲鳴、そして、落下を始める。
「フェン、離れてろ!!」
「僕は大丈夫だよ、主、やっちゃって」
俺が指示するよりも先にフェンは離れた所に居た。流石俺の相棒だぜ。
――チャージコンプリート、レディ
ドラゴンの予測落下地点は、予想通り、俺の真上だ
俺は落下してくるドラゴンを迎えるため、構えを取る
……まだだ、まだまだ、もっと……よし、この距離だ!!
「外しはしない!! 食らえ!!」
――GO
俺は全力で上方に加速し、そして
「止めだ!! 騎士・ドラゴンキック!!」
俺が空に向かい飛び蹴りの体制になったと同時に
ーーグワァァァァァ!!
俺の蹴りがドラゴンを模した炎に包まれ、そして
「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇx!!」
俺の蹴りはそのまま上空に加速し、落下してくるドラゴンを貫き
――チュドーン!!
ドラゴンは爆発四散したのであった。
「あれ?」
ここまではおおよそ、俺の想定通りだ、だが、ふと思った事がある。
「ドラゴンを倒したはいいが、この後の着地、どうするんだ……?」
ドラゴンに最大のダメージを与えるべく、上空に加速しながらの蹴り。
今はその加速も収まり、空中で止まり、そして落下と。
「う、うぁぁぁぁぁぁぁ!!」
落ちていく、真っ逆さまに。
さようなら、姉さん、ロゼッタ、ミナさん、フェン。そう覚悟を決めた時だった
『やっぱり主は最後の詰めが甘いかも』
フェンが大狼の姿となり、俺を受け止めてくれたのだった。
***
「な、なんだぁ!?」
乗客を助けるべく、旧砦に向かっていた乗合馬車の管理組合支部長イザークは、上空での大爆発までのすべてを見ていた。
そもそも、イザーク達が砦に付く前から乗客が逃走してきているのだ。
最初は罠かとも疑ったイザークであったが、そのまま道中で陣を張り、簡易受付兼ベースキャンプとして対応をしていた。
そこで乗客の無事の確認を取り、希望者はすぐに王都への乗合馬車を手配。希望者には一旦街に戻って最上級の宿を即手配する流れとなった。
「あれは……きっと奴だ……」
先程最後の馬車が到着し、とりあえず御者が全員無事なのは確認出来た。
その最後の馬車に乗ってきた若い男がそう呟くのを、イザークは聞き逃さなかった・
「お客さん、今の、誰がやったか知ってるんですか⁉」
「あ、ああ。奴は、フェンリルナイト・ドラゴンと名乗っていた」
「フェンリルナイト・ドラゴン……? な、なんて恐ろしい奴だ……」
「ああ、そうだよな……」
「「フェンリルなのかドラゴンなのか、はっきりしろ!!」」
イザークと若い男の声がハモった。




