第36話 この怪物、神研ゼミで見たことある
――ギリッ
俺は警戒を高めながら、その魔獣に対し向き合う。
後ろでは魔獣に弾き飛ばされ、瓦礫に埋もれた筋肉をフェンが「うんしょ、うんしょ」と引っ張り出そうとしている。
普段なら「小さい子が一生懸命雑草を引っこ抜いてるみたいな微笑ましい光景だな」とか言ってそうだが、今はそんな事を言ってる余裕はない。
――隙を見せたら、殺られる!!
直感的に分かった。こいつは、前回、ロゼッタの夢の中で倒したあの魔獣が具現化したものだと。そして
あの時より、格段に強くなっているという事も分かった。
夢の中ではまだ形が朧気であった。今は夜の暗がりでよく見えないが、その姿がほぼ明確に具現化されているようだ。
だが、このまま膠着状態を続けているわけにもいかない。
――先手必勝!!
俺は全力で魔獣に詰め寄り、そしてその胴体に渾身のパンチを撃ちこもうとした。
――グァァァァァァァ!!
「なにっ!!」
魔獣は俺に対して突進してきた。それも、信じられないような速度で。
この魔獣、前回の戦いで学んでやがる!!
実際、前回は攻撃を回避、防御して防いでいたのだが、前回それで負けた反省か、今回は魔獣側も攻撃に転じてきた。
「わぁぁぁぁ!!」
距離を詰めて接近戦を仕掛けようとした俺と、元から体当たりをするつもりであった魔獣。
さらに魔獣は大きさからいくと、ロゼッタの筋肉のさらに数倍のでかさである。
途中で体同士がぶつかり、俺は当たり負け、軽く飛ばされ倒れてしまう。
――グアアアアアア!!!
魔獣はさらに追撃をしかけてきた。
後ろ足で倒れる俺の胴体を踏みつけ、そして
――グウォォォォ!!
倒れた俺の頭目掛けて的確に、前足の爪を刺してこようとする。
「ほっ!はっ!たっ!」
俺はなんとか首を左右にうごかしてその攻撃をギリギリ回避する。
二度三度、回避を繰り返していると、魔獣の爪が地面に刺さり、抜けなくなった、今だ!
「必殺!騎士ヘッド!!」
俺は、その魔獣の指の先端目掛けて、渾身の力で頭突きを放った。
地面に刺さった爪、そして、俺の渾身の頭突きにより、変な方向に力がかかったようで
――ピキッ……ピキピキッ
爪にひびが入り、そのまま
――パリーン
と割れた。そして、爪が割れたその先端にさらに
「まだまだ!騎士ヘッド!!」
頭突きの追撃を放つ。これには魔獣もダメージを受けたようで
――グァァァァァ!!!!
と、俺の胴体を拘束する力が緩くなった。
俺はなんとか拘束から抜け出すと
「食らえ!!騎士エルボー!!」
――グァァァァァ!!
そして俺はそのままバク転を繰り返し、距離を取った。
仕切り直しである。
だが、前は確かこの後……
――バッサバッサ
俺に接近されるのがまずいと判断したのか、前と同様に空に飛びあがった。
そして、空を飛んだ事により、今までは暗がりでハッキリと見えなかったその魔獣の姿が月明りに照らされ確認できた。
その姿は、大きな口に爬虫類系の顔、そして立派な角を頭に付け、全身を固い鱗で覆われた、トカゲのような魔獣。度々神話の世界にも顔を出し、人類の滅亡すら成し遂げてしまうと言われている、それはまさに……
「……ドラゴン、だとっ⁉」
ドラゴンは上空から俺を見据えると、口から炎を吐き出し、俺に対して放ってきた。
「よっ!はっ!とう!!」
右に、左に、前に後ろに、ステップ、側転、バク転、前転、あらゆる方法で回避し続ける。
そう、前回はドラゴンの方も強い一撃でこちらを倒そうとしてきたが、それで前回返り討ちに合ったのを学習し、今度は弱い攻撃を途切れることなく連発しているのだ。
弱い攻撃といっても、人間が当たれば強い一撃を食らうのと大差ない。
なので、俺としては回避に専念しなければやられる状態であり、じり貧であった。
「旦那!! 俺の力を使ってくれ!!」
ロゼッタの筋肉がそう言ってくるが、そもそもそんな隙が無い。
――ちくしょう、一瞬でいい、誰か、隙を作ってくれれば……
俺がそう思ったその時だった。
――グァァァァァァ!!……グァッ?
ドラゴンにダメージは入っていない、だが、小さな氷の飛礫がドラゴンの視界を覆っている。
(これは……魔法?)
「化け物め!! これ以上の狼藉は、このアリオンが許さん!!」
気が付くと、そこに俺と同じ年くらいの男が一人立っていた……足をガクガク震わせながら。
まずい、このままではあの男が標的にされてしまう!!
だが、一瞬だけドラゴンの気を逸らしてくれた、今しかない!!
俺は左腕のブレスレットをトントンと叩きながらロゼッタの筋肉に問いかける。
「おい、お前、名前は?」
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・フェンリルナイト
・フォーム2
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……腕輪もフェンリルナイトで覚えてしまってる……もう、フェンリルナイトでいいや。
「俺の名前はまだない!! 旦那が好きに付けていいぜ!!」
「それじゃ、種族名教えろ! お前、ずっと人間形態だろ!?」
そう言いながら俺は「フォーム2」と書いてある文字をトントンと叩き
「――変身」
と叫ぶ。
「おいおい旦那、俺はアレと一緒にお嬢の中に居たんだぜ」
筋肉はニヤッと笑いながら
「俺もあいつと同じ、ドラゴンさ」
と答えた。
変身を完了後、俺はすぐに腰の金属ケースに右手を伸ばし、中の金属板を取り出す。
「ドラゴ!! 俺の力となれ!!」
「応!! いっちょ暴れるか!!」
今まで「ロゼッタの筋肉」呼ばわりされていた筋肉改めドラゴがそう答えると、ドラゴが赤く光り、そのまま赤色の光の玉になり俺の腹部に吸い込まれた。
ボディスーツの色が変化するのはフェンの時と一緒だが、今回は色が違う。ワインレッドのボディスーツとなっていた。
俺はそのまますかさず腰の金属箱から金属板を1枚取り出し
「悪いがぶっつけ本番だ!! 辛くても泣き言は受けつけないぞ」




