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第35話 撮れ高がなかったのでカット

 うーん、まいったぞ。


 正直、今俺は困っていた。


 さきほどまで、時間稼ぎをかねて、変身をせずに賊を翻弄していたのだ。


 翻弄してて思ったが、相手が弱い。


 体力が続くか、人数が半分以下なら変身する必要すらなかったと思う。


 だが、疲労のせいか動きが怪しくなってきたので、下手をこく前に変身をしたのだ、その結果、数分とせずに賊の軍団が崩壊した。


 何の見せ場もなく、あっさりと。


 あえてムリヤリ見せ場として挙げると、襲ってきた賊の腕を引きちぎり剣を奪い、それで他の2人ほど叩き飛ばしたら、剣が自壊したところくらいしかない。


 今目の前には、元々は賊だったモノが辺り一面に散乱している。


 特に魔術師は、精神でも壊されたのか、感情もない様子で、足が千切れても腕が千切れても延々と魔法を撃つことばかり考えてたみたいなので、念入りに潰しておいた。生命維持しているやつは恐らくいないだろう。


 普通の剣で襲ってきた盗賊も、胴体ごと千切られたモノ、一命は取り留めてはいるけど両腕が無くなっている者等、様々な様相を呈している。


 そんな盗賊だったものにすら気にかけずに、変身中という安心感からの油断か、正面から堂々と賊のアジトであった廃墟に入りながら、俺は内心悩んでいた。


 理由は先ほどの賊とのやり取りにあった。


――貴様、い、一体何者だ⁉


――俺は幻狼騎士(フェンリルナイト)!我が魂に刻まれし正義、しかとその目に焼き付けろ!



幻狼騎士(フェンリルナイト)……何だか語呂がよかったのでポロッと出てきたけど、ちゃんと名前考えておくんだったなぁ……)

 実はこれまで、変身した姿で「自分が名乗る」という事を想定していなかった。これまで変身して戦ってきた敵は皆、魔獣であり、とうてい言葉が交わせる相手ではなかったからだ。

 そして、決め台詞。これも考えてなかった。即興で作ったものなのだ。

(どうせ俺の名前を聞いた相手は全滅してるし、次までにちゃんとしたの考えるか)

~~

(あー、でも、キメ台詞か。これは場合によって変わるだろうからなぁ)

~~~

(仕方ない、キメ台詞も状況によっていくつかテンプレ作っておくか)

~~~~

(ところで、さっきからなんだか鋭く不快な感じの音がする気がするんだが、気のせいかな?)

~~~~~

「主!!」

~~~~~~

 廃屋に入って残党を探しながらゆっくりと進んでいたら、正面よりやってきたフェンと合流した。

~~~~~~~

 だが、フェンの様子がおかしい。珍しく焦っている。

~~~~~~~~

「主!!ロゼちゃんの様子がおかしいかも!!」

~~~~~~~~~

「フェン、落ち着け、何が原因か分かるか?」

~~~~~~~~~~

「この音……間違いない!!この音の発生源を止めないと!!」

~~~~~~~~~~~

 さっきから不快なカン高い音がする気がしたが、どうやら聞き間違いなどではないようだ。

~~~~~~~~~~~~

 聞こえてくるのは……さっきの賊たちの居たところか!!残党が何かやりやがったな⁉

~~~~~~~~~~~~~

 失敗した、変な事考えずにさっさと全部の息の根を確実に止めるべきだった。

~~~~~~~~~~~~~~

――タッタッタ。全速力で入口まで戻ってみるとそこに居たのは。

~~~~~~~~~~~~~~~

「シャッシャッシャ!! 俺はもう終わりだ……それならば、俺らを倒した憎きフェンリルナイトも地獄に道連れにしてやるー!!」

~~~~~~~~~~~~~~~~

 胴体に穴を開けられながらも、賊の頭であったろう男が立ち上がり、一心不乱に音叉(おんさ)のようなものを叩いている様子だった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~

「フェン、あれか!?」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「多分あれ!!」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「わかった、とう!!」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 俺は両足をそろえ、そのまま賊の頭に向かって大きくジャンプ、途中、空中で1回前転し

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「必殺! 騎士(ナイト)チョップ!!」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

――ベギリッ

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 聞いたことの無いような音を立て、賊の頭の音叉を持った方の腕が千切られ、そして

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

――ぎゅっ


 音叉を持っていた腕を切り取られ、空中に放り出されたその音叉を俺が掴むと、音は鳴りやんだ。


「おのれ、おのれおのれおのれ!! フェンリルナイト!! 貴様の事は忘れないぞ!! 地獄の底からでも呪い続けてやる!!」


 自分がこれまで繰り返してきた事の因果応報だというのに、ずいぶんと身勝手な奴だ。


「てめえがそれを言うか。それならばてめぇは、地獄の底すら生ぬるい。」


 なんかまだぎゃーぎゃー言ってるのだが、やれ「猟師が獲物を狩って何が悪い」だの「獲物が人間様に逆らうな」だの聞いてられない内容だったので


「それならば、悪を狩る俺様にとってはお前らが獲物だ。獲物は獲物らしく、大人しく狩られろ。貴様の罪を数えながら死ね」


 と言い捨て、手刀で賊の頭を頭部分と胴体部分に分けて差し上げた。さて


 俺はその何だか危なそうな音叉を自分の収納スペースにしまいながら


「フェン、これで大丈夫か?」


「分かんない、でも」


――グォォォォォォォォォ!!!!


「この、てめぇ、落ち着きやがれ!!」


 廃墟の内側から、建物を突き破って、怪物とその怪物を抑え込もうとしているロゼッタの筋肉が飛び出してきた。


「一休みしてる暇はないかな?」


「そのようだな」


 俺はその怪物に向き合い、構えた。


***


――時は少しだけ遡り、ロゼッタ側の視点


「皆、落ち着いてゆっくり、裏から脱出して!」


 フェンちゃんが音頭を取り、100人近く居た人質の避難をしてました。


「こちらです、皆様、落ち着いて行動しましょう!」

「あの女の子が先導しますから、慌てず誘導に従ってください!」


 私とミナはフェンちゃんの先導に従う様に言いながら、誘導を行っております。


「ゆっくり、慌てなくて大丈夫ですよ!!」

「歩くのが困難な年寄りや女子供は遠慮なく言え!! 若い男衆は手伝ってやれ!!」


 来年からお兄様と同学年の学生となる、男性のアリオンさんと女性のセラさんも積極的に誘導に力を貸してくださいまして、誘導は順調に行っています。


 この調子、この調子です。


 あとは私たちが裏から脱出し、この場所を後にすれば


――キーン


「うっ……」

「ロゼッタ様!?」


 急に体中の力が抜けたように倒れ込む私。一体どうしたのでしょうか


――キーン


 先程から聞こえる甲高い音、これを聞くたびに、体の中から内臓を掴み取られそうな感覚になり、まともに喋る事も出来ません。


「ロゼちゃん!!」


 気が付くと、フェンちゃんが心配そうな顔をして私を見ています。


 心配しなくても大丈夫だよ、そう言いたいところなのですが


「……ッ」


 声も出ません。


「アリオン、アリオン!! 大丈夫!? しっかりして!!」

「あ、ああ……ッ!! 俺は……大丈夫だ!! ……お前は先に避難しろ」

「あんたを置いて逃げられるわけないでしょ!!」


 どうやら、手伝ってくださったアリオンさんの方も具合が悪いようですが、私ほどではないようです。


 よか……った、これ……で……全員避難……出来たかな?


「主に原因を止めてもらう、もう少しだけ待ってて!!」


 フェンちゃんが駆けていく足音が聞こえます。だけど、私の思考はもうぐちゃぐちゃで……


 今は夢の中にいるのか、現実にいるのかわかりません。例えるなら境界。ただ、そこの光景は


――グォォォォォォォォ


 ずっと前にお兄様が夢の中で退治された怪物が元気に暴れているのと


「こら、暴れるな!! ちくしょう!! もう抑え込めねぇ!!」


 その時に私を守ってくれた筋肉ダルマなお兄さんが、それを抑え込もうとしている様子でした。


 私は悟りました


――ああ、この怪物が外に出ようとしているから、こんなに苦しいのですか


 やがて、その筋肉ダルマさんも巻き込んで、その怪物は


――グァァァァァァァ!!!!


 現実世界に出ていったのを理解しました、そしてその瞬間


!!!!!!!


 体中に激痛が走り、私の意識は途切れる寸前です。


 ああ、お兄様、厚かましいお願いになりますが、どうか……


 私の中から飛び出した怪物が、人を害さないよう、対応してくださいませんでしょうか?


「ロゼッタ、俺を信じろ」


 お兄様が私に本当にそう声をかけてくださった訳ではないでしょう。ですが……


 お兄様を信じて、今日は甘えさせてもらいます。


 体中の激痛から意識が途切れるという、これ以上ない最悪な気の失い方のはずですのに、お兄様が何とかしてくれると思うと、それほど悪くは感じない意識の失い方だと思ってしまったのでした。

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