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第34話 そしてプロローグへ

「伯爵様、準備が整いました、今宵決行となりましょう」


 レオ達が乗合馬車の管理組合を相手にやり取りをしている中、その領地を治める伯爵邸内にて伯爵の執務室で伯爵と執務用机を挟んで立ったままそう話しかける、やせ細った初老の司祭風の男が居た。


 その司祭風の男が被る帽子にはいくつかまばらな大きさの点の丸が描かれており、その紋様はまるで夜の星空に光るいくつかの星を連想させた。


 星導教会(せいどうきょうかい)、それが男の所属する団体の名称であり、男はこの領地の教会の最高位の司祭である。


 王国においてその権威は高く、今は主要領土、特に伯爵以上の領土の主要街には必ず教会があると言っても過言ではない。


 しかし、近年はその信者が減少傾向であり、お布施も減少。協会を維持するだけのお金は完全に領主からの寄付金に頼っている。それ故、この初老の男のように、今や地方領主の言いなりとなってしまっている教会もあるようだ。


 とはいえ、教会も教会でまた、戯れに存在しているわけではない。伯爵以上の、なおかつ王国に対し忠誠の厚いと認められた領主は代々、王国より重要な秘密を共有されており、この秘密を守る上での教育係兼監視役として機能している点もある。


 なので、教会を利用しようなどという考えを起こす領主に関しては代々、教会から王都への密告があり、お家お取り潰しの憂き目にあった領主も過去には何名か居たようだ。


「お、準備出来たか! へっへ、今夜が楽しみだぜ!」


 領主がそう答えるのに対し、司祭の男は内心苦虫を噛み潰したような表情を浮かべたくなったのをこらえる。


 伯爵は3年前、偶然爵位を継承する事になったが、元から頭も悪く、何か不穏な動きがあれば排除に動くつもりであった。


 だが、そのような動きをこれまで見せなかったことから、表立って排除には動けなかったのだ。


 それがここのほんの数日で一気に街からの人の流出を抑えると同時に、我ら教会の密告すらも防いできたのだ。


 その上で教会の保有する秘宝を寄越せと言ってきた。

 バカに見せかけた狡猾な男であり、野心も底抜けに高い男だった。


「本当に王都に反旗を翻すおつもりか?」


「当たり前だろ! むしろ、王国や教会がこの力をひた隠しにしてる方が、俺は理解できないぜ」


 ぐぁっはっは、と伯爵は下衆な笑いを浮かべる。


 だめだこいつ、理解していない。

 ここの伯爵家に管理を任された秘宝だけで国家転覆が狙えると本気で信じている。


 今のこの領土の繁栄が王国ありきであること。そして、もっと強い秘宝はもっと位が上の公爵等が管理していることを理解していない。


「まあ、目論見通りいかなくてもお前の所から献上(・・)された薬、これさえあれば最強の魔術師軍隊すら簡単に作れるんだ。俺にかなうものはいねぇよ」


「ま、まさか……あれを使ったのですか!?」


「ああ、俺の飼ってるノラ犬どもが居たからな、あいつら、魔法使いのいる群れになれて喜んでたぜ!! もっとも、魔法使いにされてたやつはのたうち回ってたがな!! がっはっは」


「く、狂ってる」


「勝てば俺の方が正しいんだよ、そして、あとは裏切り者が出ないうちに粛清だな、お前はもう用済みだ、やれ」


 その一言と同時に、司祭の男を無数の石の槍が貫き、風の刃が体を切り裂いた。


「ぐっ……あっ……」


 司祭の男も警戒はしていたのだ、だが、それでいても隠れていた2人の魔法使いに気が付けなかった。


 何故なら、その魔法使いは、完全に人間としての感情などを失い、ただ言われるがまま魔法を使う人形となっていたからである。


 その司祭の男が息絶える直前に見た、その伯爵の姿は、古より伝わる災厄の悪魔といった様子であった。


***


「しっかし、鎖帷子買ってみたけど、思ったよりは軽いのな」


 誘拐犯のアジトの前で俺は、フェンと打ち合わせをしていた。


 なお、この鎖帷子はフェンが購入を薦めていたものである。


 お店の店主が言うには、場末の盗賊が使うような、なまくらの剣に対しては刃が通ることはあまりない、という事だった。


「身体を完全に切り離されると、治療魔法が使えなくなる可能性もあるからね。斬られない、は重要な要素かな」


 なおフェンは、先ほどの街を出てから狼形態になり俺を運んだ後、一度目立たないように人間携帯に戻っている。


「まず、俺が使える全力の魔法で正面から堂々と殴りこむ。フェンはその隙を突いて、内部に侵入。俺が内部の敵を全て炙り出すまでは隠れて待機、安全が確保され次第、フェンが避難誘導、でいいんだよな?」


「僕が全員の息の根を止めてもいいんだけどね。流石に人質が多すぎるところで暴れるようなことは避けたいかな」


「敵の配置は?」


「入口あたりに魔法使い3人と指示役1人、伝令1人ってところだね。入口奥の方に魔法使い7人、リーダー格含む賊が十数人、っておころかな」


「つまり、俺は入口の伝令を除く4人を派手にやればいいのか?」


「うん、派手にやって、大きく暴れて!」


「まかせろ!」


 そう答えると、俺とフェンは2手に分かれた。


 俺は正面から堂々とアジトである廃墟に向かい、大声でこう怒鳴った。


「っしゃぁぁぁぁ!! このクズの賊どもがー!! 今から俺様が直々に対峙してやらぁぁぁぁ!!」


 こうやって、見張り役の5人が動いたのを遠目に確認する。


 なんで見えるかって? 鍛えてますから。


 伝令役が十分に距離を取ったと思われるタイミングで、相手の魔法使い3人がやっと魔法を使う体制になったようだ。


 なんでこんな魔法の使い方を知らない輩が魔法使いに指示出してるのだろうか。


 俺も相手の魔法使いと同じ構えを取る。ただ、相手の魔法使いと決定的に違うところがある、それは……


 俺は先手必勝、さっき怒鳴った時に魔法の構築を終わらせていたので、相手よりも先にぶっ放せる。


「くらえやぁぁぁぁぁ!!」


ーーちゅどーん!!


 俺の全魔力をつぎ込んだ中級魔法の爆発魔法。王都に出た時に全中級魔法を使えてた姉さんと違い、俺はこの爆発魔法と、風魔法くらいしか中級魔法は使えない。


 だが、十分だ。


 俺に魔法を使おうとしていた3人の魔法使いは回避すらせずに爆発の炎に巻き込まれ、燃えながら倒れた。


 指示を出していた男も、避けはしたが、爆風で大きく吹き飛ばされ、廃墟の壁に思いきり背中をぶつけて倒れた。


 そして、爆発の威力で廃墟の壁の一部を大きく吹き飛ばす事が出来た。


 さて、これで賊も本気になってくれるだろうか。


 あ、次から次に出てきた。ふむふむ、20人くらいか。多分これで全員に近い人数がおびき出せたのではないかな?


 俺はその賊だちを見据え、再度啖呵を切った。


「てめぇら雑魚なんざ、俺一人で十分だ!! 貴様ら、覚悟しやがれ!!」

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