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第32話 レオ、キレた!!

「フェン、あの後のロゼッタ達の様子は分かるか?」


『主、無茶言わないで欲しいかな。貸してあげるから自分で確認して欲しいかな』


 そう言うと、フェンの背中に乗った俺の手元に、フェンの金属板が姿を現す。


 落とさないように受け取り、確認しようとして……


「何も映らない……」


『……主、片面をトントン、って指で軽く叩いてみて欲しいかな』


 言われるがままにトントンと……


「うわ、光った!!」


『主、うるさい。そしたら、『グループチャット』って書いてある四角いマークだけをもう一回トントンってして。言っておくけど、それ以外の物はトントンッってしちゃダメかな』


「わかったわかった……えっと……どれだ……? 左上から、なになに……いちゅうのいせいとのあいしょうしんだん……いせいへのぷれぜんとかたろぐ~おうとばん~……他は……」


『読み上げるなぁ!!』


 フェンから結構マジでお叱りが来た。


『一番右下あたりだから!!』


「一番右下……えっと、ろくおん? ……ああ。あったあった、これか」


 言われたとおりにトントンと指で叩くと、さっきフェンに見せてもらった画面が開く。


 さっきの発言より下だな、なになに


*******************************************************

(フェン)「今から駆け付ける。何か動きがあったら報告」


(フェン)「主が見て判断するかもだから、完結かつ丁寧に報告を」


(筋肉)「了解! 任せてください!!」


*******************************************************


 特に動きは無いようだ、ん? 今新しく筋肉の文字が増えた。


*******************************************************


(筋肉)「護衛は全員殺されましたが、乗客は全員無事です」


(筋肉)「複数の馬車の乗客百名ほどは手に縄をかけられ、元砦だった場所の広間に監禁」


(筋肉)「すぐには手を出しては来ないとは思うが、全員精神的に疲労」


*******************************************************


 今は夕方の3時半といったところか。


 状況から察するに、まあ、恐らく馬車が街を出て2時間経つかどうか、といったところか。


 何かしらでトラブルまで織り込んで考えても、夜間の強行軍は非常に危険が伴うため、王都まで送った馬車が戻ってこない事に気が付くのが早くて明日の早朝、管理組合がこの事態を把握し討伐隊等を編成して動けるのは昼頃だろう。


 つまり、明日の昼頃、それまでには賊が討伐隊を避ける何らかの策を用意しているか、または……


「フェン、直接砦に乗り込むつもりだったが、一旦中継の街に行き先変更だ!!」


『何でかな? この期に及んで怖気着いたのかな?』


「ちげーよ。仲間の確保と、それともう一つ」


『もう一つ……?』


「今回の敵の息の根の止め方、調べに行くぞ!!」


***


「え? 王都行の馬車が道を外れている? そんな馬鹿な」


 フェンの足ではすぐ到着するのだが、乗合馬車はそんなに早く到着するようなものではない。だから、王都に到着していないと言われても信じる方がおかしいのだ。


「はい、今回、当家のお嬢様から『一人立ちしたい』との意向を受け、従者を1名引き連れ、乗合馬車にて当方領地と王都の往復をされる運びとなったのです」


 ここまではほぼ事実だから、スラスラ出てくる。さあ、これ以降はアドリブだ、冷静になれ、俺。


「私共は道中、お嬢様が安全に道を通過したかを判断するため、特定地点で同行従者に合図を出させ、それをもってお嬢様が道中、安全に往来していることを一刻も早く旦那様に報告するよう示し合わせておりました。ですが、この時間になっても、合図を出す馬車が現れないのです!!」


 いや、日中なのでフェンには少し速度を控えめに走ってもらったが、馬車らしいものとは1台もすれ違わなかった、これはつまり……


「それどころか、昼前ごろから待機していたのですが、馬車の1台も見かけなかったのです!!」


 明らかに安定的に大きく稼げる路線である王都便である。その安定便を管理組合が蔑ろにするわけがない。そして、そんなところで一度でも事故のうわさが出ようものなら、乗合馬車業界の全体の信用は地に落ちる。


 実際、応対してくれた組合の職員さんは顔を青くして「し、しばらくお待ちください」と言って奥に駆けて行った。つまり、組合全体が敵、というわけではなさそうだ。


 人型に戻ったフェンが「よくそんなウソがすらすら出てくるかな」とか言ってきたが「いいからお前はその金属板チェックしてろ」と制したところ、職員さんが消えた受付の奥から、髭を蓄え、頭は角刈りに鍛えられた肉体を持ったオッサンが出てきた。えらい人かな?


「どうも、当支部の支部長、イザークと申します。お話は、奥でお伺いしてもよろしいですか?」


***


 ヒゲのおっさん、もとい、支部長イザークさんは俺とフェンを奥の応接室に招き、そこで対面した。


「詳細をお伺いしてもよろしいですか?」


 嘘は許さない、だが、事実の可能性も捨てきれず、その場合に話を聞いていなかったであれば責任問題になりかねない。といったところか?


 まあ、必要なところで嘘はつくけどね。


「まずは自己紹介をさせてください。私はタクト、こちらの小さい子はまだ使用人見習いのリルです。私共は今、ランバート男爵家に仕える使用人、および使用人見習いの立場であります。本日は、貴組合の王都行馬車をお嬢様であるロゼッタ=ルーディル、および、ミナという名の私共の同僚が利用しているかを確認させていただきたく」


 もちろん俺とフェンの名前は偽名だ。フェンの偽名はフェンリルのフェンじゃないほう、俺の偽名は……よくわからん。気が付いたら名乗ってた。


 その言葉を受け、支部長さんが傍らに立って控えていた職員さんに目配せ。職員さんは慌てた様子で紙をペラペラと捲り……


「は。はい。ご利用されております。本日の王都行特別便の名簿に記載があります」


 支部長はため息をひとつ付き、頭を掻きむしりながらこう俺たちに告げる。


「あなた方の言い分、全くの出鱈目ではないと認めましょう。だが、確証が無い。確証が無い以上、当組合の根も葉もない噂を垂れ流していただくわけにもいかない。何か証拠が出るまでは、こちらでお待ちいただくしかないかと」


「雇いましょう」


「は?」


「早馬の出来る馬乗り3名、護衛用騎兵4名、長距離行軍が可能な馬乗り5名を含む計15名。人員の分配は、まず最初の分岐点までの行軍に早馬1名と護衛用騎兵1名を含む5名、これは王都への道で絶対に間違えてはいけない最初の分岐点で何かしらの細工がされていないか確認するためです」


 俺はおもむろに大金貨を1枚、テーブルの上に置く。


「「なっ!!」」


 2人の反応が、今まで見た事無いようなリアクションだったが、そんなところで躊躇ってる場合でもない。俺は無視して続ける。


「2人組目は早馬2名と護衛用騎兵3名。これはあえて、最初の分岐点から間違った道に向かってもらいましょう。だが、下手に深追いはしなくていい。そして、何か異常を見つけたらすぐに全員で引き返すように」


 さらに1枚、大金貨をテーブルの上に置く。


「3組目は、正規ルートを通って王都まで行く長距離行軍5人組、これは早馬がありがたいが、そこまでは望まない。ただし、王都に着き次第、馬車の到着の確認をすること。到着していない場合、すぐにそのまま王都の管理組合に報告ののち、軍事対応を含むあらゆる手段を講じるよう、申し入れをすることを願います」


 もう1枚、大金貨をテーブルに乗せる。


 都合3枚の大金貨が横に並んでいる。


 支部長と職員さんはもう、口をパクパクしてるしかできないようだ。


 分かってる、多分。相場より高いんだろう。だが、期待した反応ではない。


 俺はおもむろに大金貨をさらに3枚テーブルの上に積んだ。都合6枚だ。その上で言った。


 笑顔で、声は出来るだけ冷たく。


「30分以内に人員を用立てろ。すれば3枚追加だ」


 ここまで、俺は内心はともかく、笑顔は崩していない。


 だが、明らかにいつもの俺の態度ではない事が伝わったようで、フェンすら固まっている。


「し、しかし、もう夕方に差し掛かろうとしている。それだけの人員がすぐに集まるかどうか……それに、明日朝になれば王都から人員が戻ってくるはずだから、それで判断は可能だ」


 支部長の言う事も最もなのは理解している、だが、今回においては、最悪な回答だ。0点だ。


「そうですか、では、この話は無かったことにしてください。リル、こんなところさっさと出るぞ」


「え? あ? うん」


 フェンは一瞬「リルって誰?」って思ったようだが、すぐに自分を指していると分かったのだろう。


 だが、支部長と職員さんはその「偽名に慣れてない故の反応」ではなく「ここで待機」といった要請を急に反故にした俺に戸惑ったと思ったようだ。


 俺が大金貨を回収し、立ち上がるのと同時にフェンも立ち上がり、それを大声で制止する支部長。


「ま、待て!! さっきも言っただろう!! 根も葉もない噂を立てられると迷惑だ!! 営業妨害だ!! 男爵家だろうと、管理組合を敵に回したらどうなるのか分かってるのか!? それも使用人ごときが!!」


 俺はハァ、とため息をつき、一言


「リル、聞かせてやってくれ」


 フェンは金属の板をトントンと操作する。すると


『管理組合を敵に回したらどうなるのか分かってるのか!? それも使用人ごときが!!』


 その板から大きな声が聞こえ、支部長と職員さんが固まる。


「え? 支部長の声?」


 職員さんが反応したのを見て、俺は続ける。


「俺が広めるとしたら、それは根も葉もない噂じゃない。今起こった出来事全てをそのまま(・・・・)広めるだけだよ。」


 理解したのか、支部長の顔が青くなる。


「管理組合の管理する馬車の乗客であった、主の安否を心配し、捜索費用として自腹で大金貨6枚を積んで頼み込んだ使用人を見捨てる決断をしたどころか、管理組合全体で圧力をかける事を匂わせ脅した、ってだけだ」


 寝も葉も無い噂がダメなら、事実をつくってやればいいだろう。


「ああ、追加するなら、その『使用人ごとき』の要望にすら応えられないほど、管理組合の管理は杜撰だって事も追加かな?」


「そんなもの、誰が信じるか……」


「そうだな、未だ行方が知れぬ馬車の乗客が安全に到着すればただの笑い話だ。あんたが大金貨6枚の取引を自ら白紙にしたっていうな。だが……」


 俺は続ける。


「もしそれが事実だった場合、大金貨6枚の取引を白紙にした上に乗客を見殺しにした支部長だ」


「くそ……くそぉぉぉ」


 俺に散々煽られ、何かキレたっぽい支部長がフェンから金属板を奪おうとする。


「させるかよ!!」


 俺はひねりを加えた横回転ジャンプでその間に飛び込み


「ぐふっ!!」


 そのまま支部長の顔に回転蹴りをお見舞いした。


 そのまま白目を向いて倒れる支部長。


 あー、今のは、というか、後半は完全に八つ当たりだ。


 すまん支部長。俺も切羽詰まってたんだわ。

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