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第26話 ピンチになったと思ったら、お兄様が私の夢の中で女の子とイチャイチャしてました

 私は何を見せられているのでしょうか?


 先程、私がピンチになった時、お兄様は格好よく私を助けてくださいました。


 そして「ロゼッタ、俺を信じろ」とおっしゃったかと思うと、急に見た事もない姿になられました。


 その姿になったお兄様は格闘で怪物と互角に勝負されました。


 その後、空を飛ぶ敵を追いかけて緑色に変身したお兄様は怪物を退け、そして今……


「主~!主~!」


 何かイチャイチャしてます。


 え? 長い? もうちょっと端的に?



 私が夢の中でピンチになったと思ったら、お兄様が私の夢の中で他の女の子とイチャイチャしてました。



 1文でまとめられました!えへん!


「と こ ろ で お兄様⁉」


「おう、ロゼッタ!無事だった……か……?」


 お兄様が私の表情を見て固まるのが分かります。


「ロ、ロゼッタ、ど、どうした?」


 お兄様もお年頃です、そういう事を考える事もそれなりに多いと理解してます、そういう事を想像したり夢見たりするのも許容します、ですが……


「人の夢の中で何をされてるので す か ⁉」


 わざわざ人の夢に侵入してまでイチャイチャするのは流石にマナー違反だと思います。


「夢の中とはいえ、怪我でもされてないかと心配になって駆け付けてみれば!聞こえてましたよ、大好きとか、愛してるとか……そ、そういうのは、せめて自分の夢の中でやってください!!」


「ご。ごめんなさ……!!ロゼッタ、もしかして……気が付いたのか?」


「ええ、お兄様の考え通りです。ここは私の夢の中なんですね、そして、お兄様とフェンちゃんが夢の中に入ってきているのも……ああ、大方、私が夢で魘されてたから心配になったとかそういう理由なんでしょうけど……」


 そもそも大きくなったり小さくなったり人に化けたりする幻獣なのです。ルーディル家が父の1代で、魔法の腕だけで男爵の地位を戴いているのも、幻獣すらも気に留めない大らかさか、または幻獣の存在を当たり前と思っているからでしょうか。


 それくらいの力の持ち主が、ある日夢に「遊びに来たよ!」なんて言ってきても、ああそういうものなのか、としか思えません。そういうものなのでしょう。


 ある意味で私もルーディル家に毒されたと言えるのかもしれませんね。


 お兄様が不機嫌な私の表情を見てわたわたしています。だから、まずは


「お兄様、やはりお兄様は私が困ったときに助けに来てくださる方ですね。夢の中なんて非現実的な場所までやってきてくださって……」


 私はお兄様に笑顔を向けます。そう、あの時のお兄様、あれはまるで……


「あの時のお兄様はまるで、絵本に出てくるようなお姫様を守る白狼の騎士(ナイト)様ですわ。」


 そしてそのままほっぺたを膨らませ


「で す が !そのお姫様をお助けした後が問題です!助けたお姫様の横で他の女とイチャイチャする騎士(ナイト)様なんて聞いたことありません!!」


「い、いや。イチャイチャなんて……」


「例えばですが、仮にそれがただの演劇の練習だったとしてですよ。お兄様の部屋の中で私やお姉様やミナなんかが他の男と「愛してる」とか囁き合ってるのを見せられるの、いい気分になりますか?」


「そ、そうだな、すまん」


「ご、ごめんなさい」


 お兄様どころか、フェンちゃんも素直に謝罪しています。見ると、目がちょっと赤いようです。なんか涙を流した跡みたいなのもあるし……泣いていたのを慰めてたのでしょうか?


 私は「はぁ」とため息をひとつ


「今日の所はフェンちゃんに免じて不問にします!全く、女性相手に愛してると言うならもっとムードのある場所で2人きりのときに……」


 女性相手……? お兄様の「愛してる」発言は、本当に、女性相手の発言なのでしょうか……?


 い、いやいや、お兄様も私とお姉様のフィアンセ候補として連れてこられた方、私たちを女性として見ているはず……まさか、完全に家族として見てませんよね……?


……ちょっと試してみないと、お兄様の本当の気持ちを……


「お兄様、正直に答えてください。お兄様はフェンちゃんを、その、愛してますの?」

「ああ、愛してるぞ」

「主…」


 うーん、フェンちゃんはなんかただの恋する女の子みたいな表情になっちゃってるけど、お兄様はこの時点ではまだ分かりません。


「じゃあお兄様、お姉様の事は愛してますの?」

「愛してるぞ」


 即答。まあ、指輪を贈るくらいだから即答は想定内です。


「それじゃ、ミナは?」

「愛してます」


 おっと、3人目の愛してます。まあ、貴族階級で妾が居たりするのはおかしい事じゃないですが。


「お母様は?」

「愛してるに決まってるだろう」


 ここにきてお母様まで⁉しかも力強く。これ恋愛感情で言ってたら大問題だと思いますが……。


 あー、これあれですね、次の質問に「愛してます」と答えたら完全に家族愛の事だと思います。


 そう、どうせお兄様は次の質問にも「愛してる」と返すのでしょう、そして「家族愛」だと分かってしまう。


「それじゃ、お兄様、最期の質問ですが……」


 続く言葉がなかなか出て来ません。理由はすぐに分かりましたが。


 お兄様から向けられているのが「家族愛」だと分かってしまうのが怖かったのです。


 お兄様が私をどんな時も助けてくれる事。それが家族愛から来るものであるのならそれでもかまわないとは思ってます。


 だけど、それは「家族じゃなくなれば、二度と向けられない愛」という事の裏返しなのではないかと。


 お兄様がもし、他の人との家庭を持ってしまえば、それは「自分の心の支え」であるお兄様からの愛を受けられなくなるのではないかと思ったわけです。


 ああ、そうか、自分は我が儘にも、お兄様を独り占めしたいのですね。


「お兄様、お父様の事は愛してますか?」

「……尊敬してます」


 あれ? 答えを変えてきた?


 よくわからない、だけど、まあ、家族愛と断定出来なかったが、自分に向けられるのは、凡そそうなのだろうと思いました。


「そ、それじゃ、質問は以上です」


「なあ、ロゼッタ、お前の事は聞かないの?」


「え?」


 あえて避けていたのに、このお兄様は


「ロゼッタの事、愛してるぞ」


 なんておっしゃるのです。急に不意打ちでこられたので、私も思わず


「お、お兄様の私に対しての『愛してる』は、家族愛とかそう言うものですか……?」


 なんて聞いてしまいました。


 お兄様はその言葉を聞いて笑顔で


「まあ、そうかもな。だけど……フェン、ちょっとだけ降りて」


 お兄様に抱き着いた状態のフェンちゃんはちょっと不服そうにお兄様から離れると、お兄様は私の前に立ち、私の頭を撫でながらこう続けられました。


「ロゼッタ、俺はな、別に聖人なんかではないから。実際、嫌いな人もいるし、自分を嫌ってる人をわざわざ助けに行こうと思わない、だけど」


 一呼吸置いてお兄様はこう続けました。


「ロゼッタが悲しんでいたら、俺はいつでも助けに行く。たとえ――ロゼッタに嫌われようとも」


「お兄様?」


「俺は我が儘なんだよ。だから、将来的にどうなるかは分からないけど、愛した人が困ってるなら助けるし、泣いてれば慰めたい。兄と妹というのは結局、どう知り合ったかというだけだと思うぞ。

お前が何を言おうと、俺をどう思おうと構わない。だが、この思いだけは変わらない。俺は、俺にとって特別な人である、ロゼッタの笑顔を守りたい。……俺の事が必要でなくなるまで」


 なんだかはぐらかされたような、微妙に女心をくすぐるような台詞だと思いました。この言葉を聞いてときめくようなら、恋なのだと思います。


……だから、私は兄に恋してるのだと自覚しました。


 お兄様にはお姉様という、心に決めた人が居て、私は特別だけどそれよりは下なのかもしれない。


 だけど、この時初めて、私はお兄様の一番になりたいと思いました。


――勝負をする前から負けが決定して、そして勝負をすることすら諦めてしまった自分を初めて叱りたいとさえ思ったほどです。


 お姉様が高等学院に入学して3年弱、フェンちゃんが居たとは言え、一番長く一緒に居たのは私だった自信はあります。それなのに、何も出来なかったのは私です。今さらながらに後悔してます。


 ただ、光明もあります。お兄様が高等学院入学で王都に行くのに合わせ、私もお兄様とお姉様と一緒に暮らすこととなっています。


 お姉様がお兄様に恋をしているのは明白、お兄様もお姉様を一番に思っているはずです。なのに、邪魔者でしか無いであろう私の同居を認めたのは何故でしょうか……


 もしかして、お姉様はこうなることを見越して……?


 お姉様はいつも私に優しくしてくれます。つまり、後悔の無いようにやりなさいという事だと私は解釈しました。


 だから、私は


「お兄様、頭を撫でるのやめてもらえますか?」


「ああ、済まない。レディに対しての態度ではなかったな、スマン」


「全くです!! 私、決めました!! 私がお兄様の一番の特別になって、他の女性なんて目に映らないようにしてあげます!!」


 お兄様に向け指を立て


「他の人が目に映らないので、お兄様は私の笑顔だけ守れば良いです!! そしたら、お兄様も楽になると思います!!」


「ははは、それは無理だ」


「侮るのも今のうちです、お兄様。私はお兄様に似て」


 お兄様に似てる、それは、家族である事、兄妹である事を肯定してしまう事になります。だけれども、今だけはそれも悪くないと思いました。


「――我が儘ですから」


 と宣戦布告しました。


 とはいえ、ライバルはまずお姉様、ミナ、フェンちゃんに、お母様。その中でお姉様が一歩どころか二歩も三歩もリードしてると。これはなかなか、大変な勝負になりそうです。


「いやー、旦那、あいつをあそこまで痛めつけるとはすげぇなー。って、お嬢、勇ましいポーズ取ってどうしたんですかい?」


 私をさっきまで護衛してくれてた筋肉ムキ男さん(仮名)が私たちにそう声をかけながら近づいて来た……そういえば


「お兄様、あの方はどちら様ですか?」


「そういえばロゼッタに聞きたい事があったんだ、あの男なんだ?」


「え?」

「え?」


……


「「お前誰や!!」」


 基本的に言葉遣いは上品に、がモットーの私ですが、衝撃の事実に言葉が一瞬乱れ、言葉遣いが普段から乱れがちなお兄様と同じ言葉でハモってしまいました。

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