第25話 僕以外と契約して、ヒーローになってよ
ゴロゴロゴロ……
フェンをかばう様に抱き留め、そのまま転がり続ける俺。
先程キックをお見舞いした怪物の居た場所では
――ドカーン
爆発音が響いていた。おそらく怪物討伐に成功したのだろうが、確認する余裕もない。
やがて俺らが転がり終わると
「フェン、大丈夫か⁉」
まずは相棒に尋ねた。
「主、僕は大丈夫だから。同じような事あったら今度は僕を無視して欲しいかな」
人間形態に変身しているフェンは姿形は小柄で華奢な女の子なので、俺が庇おうとして抱き留めた今の状態だと、顔を胸元にうずめてるような態勢だ。
言葉こそいつもの生意気な言葉をかけてくるが、その声にいつもみたいな覇気がない。フェンは顔をうずめた態勢のまま、俺から離れようとしない。
もしかして、どこか痛めたのか?
「フェン、大丈夫か?」
「大丈夫だから、もう少しこのままで……」
「おい、フェン!! 怪我とかしてないか!? 隠すなよ!! 俺の目を見て話せ!!」
むずがるフェンの顔の頬を両手で挟み、顔を上げさせると
「フェン、お前、何で泣いてるんだ……?」
俺を見上げたフェンはうっすらと目に涙を浮かべているのであった。
フェンはこれ以上涙を見せまいと、再び顔を俺の胸にうずめると、両腕でしっかり俺の体に抱き着いた。
俺はそんなフェンの頭を優しく撫でながら
「なあ、フェン。俺、お前も知ってる通り鈍感だからさ、ちゃんと話してくれないと人の気持ちに気づいてやれないんだ」
フェンは答えない。
「フェン、お前は俺が戦う理由、分かるか?」
「皆を笑顔に……」
「そう、そして、その『皆』の中にはな、お前も居るんだよ、フェン」
「……」
「だからな、お前を泣かせるやつがいるなら俺はそいつを許さないし、俺が戦う事でお前を悲しむなら、俺はこれ以上戦う意味が無いんだよ」
「主のお荷物になりたくない……」
「じゃあ、泣いてた理由話してくれ。話しにくいなら今度でもいいが、その間はフェンを泣かせながら俺は戦う事になるかもな。その時は存分に泣いてくれ」
「主は、僕に対しての優しさが足りない……」
そんな軽口言いながらも、少し俺を抱きしめる腕の力が抜けたようだ。そして、フェンは語り出した。
***
「僕が契約を拒んでたのは、理由があったんだよ」
僕は主の胸元に顔を埋めているから、主がどんな表情しているかは分からない。だけど、僕の頭を撫でる主の手はさっきまでと何も変わらず、主も先を急かしたりせずに居てくれる。
やっぱり主は、僕を信頼してくれてる、そう感じられた。
そう感じられたからこそ、僕は自分が情けなくて涙が止まらなくなる。
「僕は主を乗せて速く走るのが仕事だと、それは理解してるんだ。だけど……」
先程の戦闘を思い出す、主が使った技は4つ、武器召喚、遠距離衝撃波、空中ジャンプ、ファイナルアタックの4つだ、主も気が付いてはいるのだろう。
「僕は所詮、主のサポート役でしかない。主が戦っているときも、あくまでサポート役でしか無い。だから、僕と契約しても、使える技が少なかったみたいに、主の戦いの力になれない。」
フェンと契約した際に使えた技は、先ほどの戦闘で使った技の4つだけ、だったのだ。
しかも、剣は1回で壊れる、遠距離衝撃波は剣が無いと飛ばせない、空中ジャンプに至ってはただの移動手段なのだ。そして、ファイナルアタックもチャージタイムがあるためおいそれと連発出来ない。
圧倒的な力で倒したように見せかけて、その実ギリギリだったのだ。
「悔しいな、僕ももう少し出来ると思ってたんだけど」
あはは、と笑ってはみたが、どうしても空笑いなのだ。
自分との契約ではそれほどは主の力に成れないかもしれない、と薄々は感じていた。
だから、僕は主の新フォームとの契約の話をのらりくらりと躱していたのだ。
それでも、主の相棒として主の力になれる、といった思いもあった。
僕を差し置いて、他の幻獣が主を助けてる姿は見たくなかった。
だから、もしダメだとしても取り返しのつくここで試験的に契約したのだ。
――もしかしたら僕でも主の戦力になれるかもしれない、実は主と僕はベストパートナーで、主は僕との契約じゃないと戦闘フォームの力を十分に引き出せないのかもしれない。
――そうだったらまた「主は僕が居ないとダメじゃないかな?」なんて言ってやろう、なんて思いは多少はあったのだ。
その結果があれである。
「やっぱり僕じゃ、主の相棒は……」
――務まらない、そう言おうとしたら
「バーカ」
主がそう言い、また僕のほっぺたを両手で包み込み、また僕の顔を上に向けた。
そこに見える主の顔は……笑顔だった。
***
フェンの語り、それは、本当に俺の力になりたいと思ってるからこそ、自分の不甲斐なさを責めるような内容であった。
確かにフェンは、俺を運んでくれる事が主な仕事であり、戦闘に積極的に参加するような事はさせていない。
ただ、俺はそういうつもりではなかったのだが、フェンは戦力外として見られているように感じて気にしていたようだ。
「バーカ」
このバカな相棒には、一度ちゃんと話してやらないといけないな。
「確かにお前には戦闘には積極的に介入させてない。そういう意味では力になれてない、と悩むのもそうかもしれない、だけどな」
俺は一呼吸置いて
「俺の笑顔を守ってくれたのはお前だぞ、相棒」
「えっ?」
フェンが驚いたような表情を見せる。意外とこいつのこういう表情、レアなんじゃないか?
「あの薬草騒ぎの時も、今回も、お前が居なければ俺はそもそも戦いの舞台にすら立てなかった。そして、何もできなかった事を悔やんで生きていたと思う。」
フェンの表情は驚きに固まったままだった。
「分かるか? お前は、俺が皆の笑顔を守ってると思ってるかもしれないが、俺が皆の笑顔を守れるのも、俺が笑顔でいられるのも、お前のおかげなんだぞ」
俺はそのままフェンのでこに自分のでこを合わせ
「俺にも足りないところはたくさんある、だから、その足りない部分はこれからもお前に補って欲しい。――頼りにしてるぞ、相棒」
そう言ってでこを離すのであった。
フェンは一度腕で目をゴシゴシとした後
「全く、主は本当、いつか女に刺されるかな」
などといつもの調子で軽口を言うのであった。
「ひでえな。でも、そういう機微に疎いのも、俺に足りない所かもな。頼んだぞ、相棒」
「いや、主は女の子の心の機微を分かるために、何十回か刺された方がいいかも?」
――そう言うと、フェンは俺の頬に口づけをし
「主、やっぱり僕は主の事、大好きかなっ」
と言いながら首に抱き着いてきた。
俺もそのフェンを優しく抱き留め
「ああ、俺も愛してるぞ、フェン」
と返すのだった。
(頼れる相棒かと思ったら、時々こうやって弱気になるんだもんな。こういう時くらい親として愛してあげないとな)
なお、レオからは見えないが、レオから「愛してる」と言われたフェンは照れて真っ赤になりながらも、今までで一番の笑顔であった。




