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第23話 夢の中での戦い

「曇天の空、ってところか」


 俺が降り立ったその場所は日の光もあまり降り注がない暗い場所だった。それだけでも気分が落ち込んできそうな陰鬱な空気が漂っていた。


「ここがロゼちゃんの夢の中」


 俺の隣にフェンもいる。


「ロゼッタの夢にしちゃ、全体的に暗い感じが強すぎて違和感を感じるな」


「まあ、その原因は間もなく出てくるかな……ほら」


――ドーン!!


 大きな音が鳴り響き、それと同時に爆発のようなものが見えた。


「フェン、あれって……」


「ロゼちゃんたちの居るところかな。急ぐよ」


***


 ロゼッタ=ルディールは夢を見ていた。


 ここ最近よく見るようになった夢。


 それは、自分の家や家族、友人迄もが正体不明な怪物に襲われる夢であった。


 最近はこの夢をほぼ毎日見る、そして、目の前で大切な人たちが無残に殺される結末を迎えた日にはものすごく目覚めが悪く、気分も深く沈んでいるのであった。


 だが、その日の夢はいつもと違った。


 いつもはロゼッタなど意に介さないといった態度である、正体不明の怪物がロゼッタに向けて襲い掛かって来るのだ。そして……


「ちぃ!!」


 正体不明の怪物に襲われ、腰が抜けて動けないロゼッタを守るように男が一人、正体不明の怪物と戦っていた。


 身長はロゼッタの兄や姉たちよりも頭一つ高く、体はいったいどれだけ鍛えたらこんなにムキムキになるのだろう、と思うくらい隆々としている。


 そして、日に焼けたような黒々とした肌に赤い髪を逆立たせている。


 その男は怪物に対しこう言い放った。


「こいよてめぇ、お嬢には指一本触れさせない!!」


 男に突進する怪物。怪物はそのまま男を弾き飛ばし、ロゼッタごと葬り去ろうとしているようだ。


「させるかよぉ!!」


 男はそのまま突進してきた怪物をガッシリとつかむと、踏ん張る。


「ぐおおぉぉぉぉぉ!!」


 あまりの勢いにジリジリと押される男、だが


「うぉりゃぁぁぁぁ!!」


 男は怪物の首らしき部分を掴み、そのまま振り回し


「とんでけぇぇぇぇ!!」


 と投げ飛ばす。


 その力は人間の出せる力を超えている、ロゼッタはそう思った。


 投げ飛ばされた怪物は、一旦地面に叩きつけられたものの、そのまま起き上がり、空に浮かんだ。


「な!!てめぇ、既にそこまで……」


 男はその怪物が飛んだ事に驚いているようだ。そして、飛ぶということは


――男が先ほどまでやっていた、接近戦が届かない。


 男は苦々しい顔をして、空を飛んだ怪物を見ている。


 何も手を出せず、このままではじり貧である事を悟っているのだ


 一方の怪物は空を悠々と飛んだ後、男とロゼッタに向かって口を大きく広げた。


 すると、その大きく広げた口が光り、エネルギーが集まる。


「やべぇ!! お嬢!!」


 男は咄嗟にロゼッタを抱え逃げようとするが、すぐにそのため込まれたエネルギーが男とロゼッタが居た地面に叩きつけられる。


――ドーン!!


「きゃぁぁぁぁぁ!!」

「うぉわぁぁぁぁ!!」


 エネルギー体の直撃によるダメージは回避できたものの、男は背中に爆風を受け、大きく吹っ飛ばされてしまう。


 ロゼッタも爆風の直撃は受けなかったが、抱きかかえた男が飛ばされた余波で地面を転がる。


 そのまま怪物は地面に着地し、まずはロゼッタを襲おうとする。


「お、お嬢!!」


 男が悲痛な叫びを出す。


――俺では力が足りないのか……?


 男がそう嘆いた瞬間であった


「俺の可愛い妹に手を出すな」


 一迅の風が舞い込むと、怪物は大きく跳ね飛ばされ……


 その怪物と入れ替わるように、大きな狼に乗った、少年が居た。


***


――今まで見た夢でこんな展開、起きた事無い!怖い!!


 ロゼッタはそう思い、そしてこれが夢であることを思い出した。


――これ、毎日見る夢?でも……


 自分を助けてくれた大きな男の人は、今までの人生で一度も見た覚えが無い。


 何故自分を助けるのか、何故自分をお嬢と呼ぶのか。


 そして……


「お、お嬢!!」


 見上げると、ロゼッタに噛み付こうとする謎の怪物が居た。


 これは夢、だから気にすることはない!!


 だけど何故か、この怪物に殺されてしまうと危険なのではないか、という考えが浮かぶ。


 なんで、どうして? どうしてそんな事を思うの……


 いやだ、怖い、助けて……


――助けて!お兄様!!


「俺の可愛い妹に手を出すな」


 その時に聞こえた、私にとって聞きなれた声。


 その声は、いつも私を安心させてくれて、いつも私を楽しませてくれて、いつも私をドキドキさせてくれて


――そして、いつも胸をチクチクとさせてくれる


 お兄様の声だった。


 お兄様が、大きな狼に乗ってやってきたのだ。


 白馬の王子様、なんて世間では言うが、この瞬間、お兄様は私の銀狼の王子様となった。


『主の言う通り、念のため狼化しててよかったかな』


 大きな狼がフェンちゃんの声でそう言う。


 間違いない、この狼はフェンちゃんだ。


 私はこれまでこの大きな狼姿は見た事無いが、人の姿にもなれるのだから、大きくなっても不思議じゃない。


「そうだな、流石に俺単体であの状況は打開できなかったし、助かった。よっと」


 お兄様はフェンちゃんから飛び降りると、私に声を掛ける。


「ロゼッタ、大丈夫か? 怪我はないか?」


「お、お兄様⁉ ええ、私は大丈夫です、ただ、あのお方が」


 男は男で、顔を上げこちらを驚愕の表情で見ている。


「あ、あんたは……」


 お兄様は微妙な一瞬微妙な顔をしたが、すぐに怪物に向き合った。


「フェン、他人の夢の中で俺が暴れても問題ないよな?」


『大丈夫だよ、主。むしろ、夢の中だから兵装とかの試し打ちが出来るんじゃないかな?』


「そうかそうか、それなら」


「お兄様、一体なにを……?」


 フェンちゃんとお兄様の会話の内容はあまり理解できなかったけれども、お兄様は私に笑顔でこう言ったのだ。


「大丈夫だ、ロゼッタ、俺を信じろ」


 それは、いつも夢に見た光景……


 お兄様から背中越しにその台詞を聞き、その瞬間、お兄様の背中が大きく見えるあのセリフ。


 だから、その後に続く言葉と光景は、私の思ってたもののさらに斜め上であった。


 お兄様は何故か左手を腰に当て、右手を左上にびしっと上げた。


 そのまま右手をゆっくりと時計周りに回したと思うと、こう叫んだ


変身!(へんしん)


***


 正直、変身した俺はなんかモヤモヤしていた。


 あそこに転がってる、ロゼッタをかばってた風の大男は誰だ?ロゼッタの思い人か?


 ロゼッタに思われてるんだぞ!ロゼッタのことを、命くらいかけて守れや!


 だが、それは後だ、目の前の怪物、こいつは許さない。


 俺の妹に害意を向けた時点で、俺がこいつに容赦をするわけがない。


 さらに、フェンにロゼッタの調子が悪い原因を聞いたらここに連れてこられたのだ。


 どうせ、十中八九こいつが原因なのだろう。


 ちなみに、残りの一二はあそこで寝てる大男だな。


 変身した俺をその大男もロゼッタも唖然とした表情で見てるみたいだが、どうでもいい。


「怪物め、俺を怒らせたことを後悔するんだな」

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