第22話 夢の中に行ってみたいと思いませんか?
「ママァ」
ビクッと肩を震わせる。
後ろを振り返ると、背後から気配を消して近づいてきたフェンが「ニヤァ」と悪い顔をしている。
完全に弱みを握られた、というか、完全にトラウマ化している。
フェンはいつも余裕がある時は俺をからかおうとするので、最初に発言を聞いた時もからかってるのだと思ったのだが……実際にやってるところ見たら怖いわ……
あの後、姉さんを何とか落ち着かせ、フェンの大枠の教育も半年以内でやるということで決着が付いた。あと基本的な情操教育は速攻で終わらせるとも。
そしてそのフェンは…
「フェンちゃん! 人間の姿の時にペット用トイレ使っちゃだめですよ!!」
ロゼッタが引き受けてくれている。
ロゼッタも今までは末っ子だったのが、妹が出来たみたいで嬉しいようだ。積極的にフェンの面倒を見てくれてる。
あの時みたいにフェンが暴走しても困るので、フェンは人間の姿の時は基本、ロゼッタと一緒に居るようになった。
もちろん、寝る時もロゼッタと一緒である、
俺にやったような事をロゼッタやミナさん、姉さんとかにやるなよ? って釘を刺したところ
「主にしかやりたいと思わないかな」と返答が。
流石は相棒、俺の怒りのボーダーラインを正確に見極めてギリギリ超えない所でからかってくることで。
「主のボーダーラインは分かりやすいかな。だからイジリ甲斐があるかな」
とか言ってて、腹が立つ。
ふと見ると、物陰からミナさんが、誰にも見つからないよう手招きしている。
――なんだろう?
「あの……レオ様……少しお話が……」
***
「ロゼッタの様子がおかしい?」
「ええ、ここ最近、お目覚めの時の様子が」
ロゼッタ専属のお手伝いさんであるミナさんが知ってるのはともかく、兄として妹の様子がおかしいのに気が付かなかったのか……
「ロゼッタ様は皆さまに気取られないよう、平然を装っていましたから」
ああ、そうだったそうだった。
うちの姉も妹も、自分が苦しんでる時に人に助けを求めるような事するようなタイプじゃないからな。
全く、隠してるようで気取られるのが一番心配をかけるっての、わからないかね?
「レオ様は一人で抱え込んだ結果、死にかけましたけどね」
「ミナさん、痛い所突かないで」
ミナさんもほんと、家に来てもう5年くらい経つんだっけ。完全に家族みたいなものですわ。
そして、段々俺に容赦が無くなってきた気もする。
「当たり前です!! あの時、旦那様から使用人に至るまで、どれだけ心配したことか!!」
俺が目覚めた時のことを思い出す。
姉さん、ロゼッタ、ミナさんが屋敷中に響き渡る声で大泣きしたかと思いきや、泣きながら屋敷中の使用人が駆けつけて来たものだ。
あれはちょっと怖かったけど、それだけ屋敷の皆が俺を心配してくれたという事なんだよな。
「とりあえず、ロゼッタに聞いても答えてくれないだろうし……うーん」
最近ロゼッタとずっと一緒に居るフェンなら何か知ってるかな?
***
その日、昼間に俺はフェンと話をしていた。
ロゼッタはミナさんと話をしているので、ちょうど良いタイミングだった。
「え? ロゼちゃんと一緒に寝たい?」
「そんな事は言ってない。ロゼッタが最近、寝起きに調子悪そうと聞いたのでな。何か分かるか?」
「うーん、分かるけど、あれは実際に見てもらった方が早いかな?」
フェンはうん、と頷くと
「ロゼちゃん、ミナちゃん、今日は主も一緒に寝たいって。」
「え、えええ!?」
「そ、そんな、お姉様に悪いです!!」
単純に驚くミナさんと、何故か姉さんを気にするロゼッタ。
それを歯牙にもかけない感じでフェンは続ける。
「僕、主の召喚した幻獣だから、たまに主と寝て魔力を吸わないと元気が出ないかな。でも、リリちゃんから、僕と主の2人で寝るの禁止されてる、だから」
フェンは一呼吸置いて
「みんなで寝るしかないじゃない!!」
力強く宣言するフェンを唖然とした顔で見ていたが、そのうち、フェンの言葉の意味を理解したのかロゼッタとミナさんがキリッ! とした顔で力強くこう宣言した。
「そうですね! リリカ様からレオ様のおっぱいを守れと言われてますし、その役目、果たさないといけませんね!!」
「大丈夫です、お姉様に誓って、お兄様のおっぱいは私が護ります!!」
……女性陣がよってたかって、男の俺のおっぱいを守るという謎の構図が出来上がっていた。
フェン、お前、大変な事してくれたな。
うちの姉妹とその専属の使用人が、男のおっぱいに固執するようになってんぞ?
***
その日の夜……
寝間着を着てロゼッタの部屋で横になった俺、左腕は早々にフェンが抱き着き、そのまま寝ているようだ。
フェンは少しは慣れたのか、用意された寝間着を着る事に違和感はなくなったようだ。
「それでは、お兄様、失礼しますね……」
寝間着を着たロゼッタが俺の左胸あたりに頭を乗せ、うつ伏せのような体制になった。
「では、私も失礼しまして……」
右手にはミナさんが抱きついている。ちょ、胸当たってる!!
いや、俺も年頃の男だよ!! ロゼッタも当たってるけど、これはなんとか、妹だからそんな邪な感情抱かずに済むけど
――ボヨン
ミナさんの胸の破壊力がちょっと困る。
時々帰ってくる姉さんも、俺に対するスキンシップが最近激しく、腕に抱きつかれて胸が当たるようなことはしょっちゅうあったが、あの、ミナさん、姉さんよりでかくないですか?
こんな、ロゼッタも居るから抑えてるけど、ミナさんと2人きりだったら絶対にガマンできないわ。
「……お兄様……」
「すぅ……すぅ……」
そんな事を悶々と考えてたら、2人から寝息が聞こえてきた。
それだけ俺を信頼してるのだろう、安らかな顔をしている。
はぁ、とため息をひとつ。
「主、起きてるかな?」
「フェンか、起きてるぞ。寝た方がいいか?」
「いや、起きてる方が都合いいかな。今から魔方陣を展開するよ」
そういうや否や、空中に魔方陣が展開される。
「ああ、姉さんが言ってたな。フェンの魔法陣構築力と魔力はすごいけど、起動とコントロールは出来ないって」
「主、起動して!」
「起動すると、どうなる?」
「主を連れていくよ、ロゼちゃんの、夢の中に」




