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第18話 行け!左だ!左を狙え!

――いつか、お姉ちゃんの誕生日に僕が本物の指輪をプレゼントしてあげる!

――嬉しい! でもレオ、そういうのは大事な人にあげるものよ?

――じゃあ問題ないね! 僕にとってお姉ちゃんは一番大事だから!



 我ながら子供の時のそんな約束、反故にしても誰も文句言わないとは分かってる。


 むしろ守る方がどうかしてると思う。


 それでも、その翌日にアクセサリーのお店に行って、子供のそんなに上手じゃない絵を持っていき「この指輪、用意できますか!?」なんて大真面目に聞いた子供の頃の俺。


「それじゃ、レオちゃんのためにお姉さんも頑張ろうかな!」


 そんな俺に真剣に何年も向き合ってくれた、アクセサリーショップのお姉さん。


 そして、この光景を見ても何も言わずに見守ってくれる周囲の皆。


……最後までやりきるしかないだろ。


 姉さんが何も言わない。俺の指輪見て両手で口を押え、なんだか目がウルウルしている。


――え? 何か間違えた? 引かれてる?


『主、そういうのは主が付けてあげるものかな。女心が分からない主だね』


 皆が傍観者を気取って見守っており、姉さんも俺も動けず、変な空気になっているところにフェンが助け船を出す。


 流石は相棒、頼りになるぜ。でも一言多いわ。


 えっと、アクセサリーショップのお姉さんはなんと言ってたかな……


――左手に付けてあげればいいよ!!


 俺は意を決して姉さんに向き合い、まずは指輪を取り出し、次いで姉さんの手を取り


「……姉さん、拒否するなら今のうちだ。……沈黙は肯定とみなす」


 姉さんは首を縦に振るだけだ、いいんだよな…?


 俺は左手で指輪を持ち、右手に姉さんの手を乗せ、指輪を付けようとする。


……指輪のサイズ的に、薬指サイズかな。


 姉さんの薬指に指輪を通す。


 すると、周囲からものすごくたくさんの拍手が。


 気が付くと、俺の知ってる人たちがほぼ全員居た気がする。


 その中でも反応が2種類あったのが気になったが。


 主に男性陣は「うぉぉぉぉぉ!!」とか「ヒューヒュー」とか「お幸せに―!!」とか盛り上がってる感じがする。


 女性陣も「情熱的だったわぁ」とか言ってる人もいるけど、一部、特に身近に居る人は半分苦笑してる感じだ。


 アクセサリーショップのお姉さんが焦った感じで


「逆、逆!!」


 って小声で言ってるかと思いきや、ロゼッタやミナさんは


「お兄様、この期に及んで日和ましたね……」

「まあ、締まらないところがレオ様っぽくて逆に安心しました」


 なんて言ってるのだ。


 え? 逆? だって左側の手に付けたよ?


――正面に向かい合った姉さんの、俺から見て左側の手に……


――姉さんの右手じゃないか!!


 でも、姉さんは嬉しそうにしてるし、いいんじゃないかな?


***


 そんなこんなで、滑り込みではあったが、レオが昔のリリカとの約束も守ることが出来て、リリカが王都に向かった後日


「そういえばお姉さん、左手って言ってたけど、左手に付けると何かあるの?」


 アクセサリーショップのお姉さんに改めてお礼を言うついでに、レオは気になっていたのか、聞いてきた


「女性に指輪送るような色男がそんな事も知らないわけないでしょ?」


 お姉さんは、ちらっと店頭から工房のところに飾ってある絵を見た。


 それは幼い頃のレオが描いた絵。幼いなりに色々考えて描いたのであろう。


 一生懸命、花の意匠を描いているが、そのデザインされた花は、リリカが好きだと言っていた花で、その花をデザインした指輪にしてほしいとのことだった。


 さらに、まだ習ったばかりであったろう、ところどころ反転した不揃いな文字で「おねえちゃんににあうほうせきつけて」と書かれている。


「いや、本当に知らないんですよ」


 はぁ、とお姉さんはため息をひとつ、そして、レオに教えてあげた。


「まず、女性に贈り物をする場合の指輪って、薬指サイズが一般的なのよ。薬指は相手との親愛とかを示すと言われてるから」


「うん」


「その中でも左手の薬指は、相手との最高の親愛を示すと言われてるの」


「つまり?」


「結婚指輪」


「ぶっ!!」


(そりゃ、姉さんが「大事な人にあげなさい」と言うわけだ)


「まあ、その左手の薬指に付ける指輪を選ぶのは姉さんのやる事だと思うよ。あれは俺が姉さんにあげたかったから贈った、ただそれだけだよ」


 お姉さんは「ふーん」と一言言っただけであった。


(まあ、右手の薬指はそれはそれで、婚約指輪とか恋人からの贈り物とかいう意味合いもあるんだけどね)


 レオのリアクションが見てみたいところだけど、あえて黙っているお姉さんなのであった。


***


 レオが帰ったアクセサリー屋。


――ガラッ


「いらっしゃ…あら、ルリア様、いらっしゃいませ」


 レオの母が訪問していた。


「こんにちは。今日はお礼に伺いました。その節は、ありがとうございました」


 と、お礼の菓子折りを持ってきてたのだった。


「いえいえ、私も、リリカちゃんの指のサイズとか情報提供いただきましてありがとうございます。」


 菓子折りを受け取りながら店主がそう応対する。


「あ、そうだ。ルリア様、今、お時間あります? 奥でお茶でもしませんか? さっきレオちゃんからもお礼の菓子折りをいただいて、うちだけじゃ消費するの難しそうなので」


「あら、レオも来てたのですね。……じゃあ、失礼しましょうか。レオがどんなお菓子をお礼に選んだのか気になりますし。これでセンスの無いものを贈ってたら再教育しないと」


「あはは、大丈夫だと思いますよ。」


 店主は奥にレオの母を案内し、お茶と、レオの持ってきた菓子折りのお菓子を出した。


 レオの母はお菓子を凝視し


「なるほど、これは、クッキー生地を出口がギザギザの絞り器で絞り出し、お花の形にしてるのですか…味は」


――サクッ


「……あの子はホント、どこでこんなもの見つけてくるのかしら……合格」


 とりあえず、レオが理不尽に再教育はされずに済みそうだ……


「いや、こんなお菓子を用意出来る事を黙ってたのはマイナスね! 帰ったら問い詰めます」


 再教育は免れたが、詰問タイムはありそうだ。


「この度は、レオのお手伝いをいただいてありがとうございました」


 改めてお礼を述べるレオの母に、店主はいえいえ、と答える。


「でも、レオちゃんの7年越しのお願いも叶えられてよかったですよ」


 ルリアも工房にある絵を見る。


 幼いながらも、姉のために特注をお願いしたデザイン案。


 その結果、値段が跳ね上がったわけだが、レオはそのお金もいつの間にか用立て、今回の指輪を贈る事が出来たのだ。


「あれで、左手に付けて既成事実でも作ってしまえばよかったのにね」


「さっきレオちゃん言ってましたが、それは嫌だそうで。それはリリカちゃんが決めることだから、だそうです」


「もう、リリカがレオの申し出を断るわけないじゃないの」


「それもそうですね」


 あっはっは、と、レオの母と店主は笑いあう。


 そして――店主は、気になった事を聞いてみた。


 万が一にもそんな事は無いはずなのだ。あくまで再確認だ。


「ルリア様、レオちゃんはもちろん知ってるんですよね? 自分が養子である事(・・・・・・・・・)


「うちではロゼッタさえ知ってる話だし、既にレオも知ってるはずよ。だから、リリカかロゼッタと早く引っ付いて欲しいところなのだけど……」


 サクッ、とレオの持ってきたお菓子を一口齧り


「半端に女の子の心をくすぐるのが上手になってるから、他に行っちゃわないか心配ね……」


 人間、常識である事をわざわざ改めて語る機会はそれほど無い。だから、レオが養子である事は屋敷どころか、ルーディル領内において1人を除いて(・・・・・・)皆知っている常識なのである。


 そう、レオだけ知らないのである。


 また、ルーディル領内では完全に常識であるから、改めてそういう話をする事もなく、そのため余計にレオの耳に入らないのである。


――そんなレオは今


――A New Fighter’s Form Completed.


「あ、新しい変身フォームが増えたのかな? 後で確認しよう」


 平和に暮らしていた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

第一章はここで終了、次話の幕間はメタ話となります。

ストーリーは第二章からとなりますので、引き続きお付き合いいただければと思います。


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