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第17話 指輪物語

 俺の体調も戻ってしばらくして……。


 俺は周りをキョロキョロと警戒しながらとある店にやってきた。


――カランカラン


「こ、こんにちはー……」


 いつもの俺とはちょっと違い、緊張したかのような挨拶とともに店に滑り込むように入る。


「あらー、レオちゃんいらっしゃい」


 お店のお姉さん(お世辞込み)がいつものように、俺の事を迎えてくれた。


「どうしたのかな?お金、貯まったのかな?」


「ええ、まあ、それなりに。……あれ、ください!」


 何といっても小さい頃からたまに会ってた仲なので、未だに俺の事をちゃん付けで呼んだりしてくるのはどうにかしてほしい所なんだけど、今さらかな。


「じゃあ、アレ、用意しておくわね……サイズとか分かる?」


「サイズ?」


「ほら、小さすぎると使えないし、大きすぎるとブカブカじゃない」


「あっ!!」


 痛恨のミスである。俺は膝から地面に崩れ落ちる。


「まあ、サイズはこっちで抑えてあるから大丈夫だよ。」


 お姉さんがニヤニヤとしながら俺の事を見ている。


「なんでサイズ抑えてるのさ」


「たまに来るからね。その時に色々理由付けてサイズ計ってたのよ」


 抜け目のないお姉さんである。


 お姉さんは一度奥の方に引っ込んで、例のブツを持って出てきた。


「はい、レオちゃんの希望通りに作ったやつ、確認してね」


 俺はそれをマジマジと見ている、いや、確かにデザインは俺が出した希望通りだが……


「前見た時より細かく作り込まれてない?」


「何度も作り直してるからね、作り直すたびに技術も上がっていったのさ」


 アハハと笑うお姉さん。


 俺の決断が遅かったからお姉さんにも迷惑をかけたのか、と申し訳ない気持ちになったが、ここは


「ありがとう」


 と言っておくのだった。


「お礼ならいいさ、その代わりと言ってはなんだけど、コレ以外にも何か買って行ってよ」


 商魂たくましいお姉さんである。それなら


「4つでお揃いになるようなもの、ありません?……できれば1つは小さめで、少し暴れたくらいで取れないような感じの」


***


 レオがお店から出てきた。


 表向きはいつも通りだが、足取りがいつにも増して軽やかである。


「怪しい…」

「怪しいですね…」

「怪しすぎます…」

『主が怪しいのはいつもの事』


 リリカ、ロゼッタ、ミナ、フェンが上を見上げる、そこのお店の種類は


――アクセサリー&ランジェリー


「何かしら?女への貢ぎ物?」


「でもレオ様に女性の影はありませんよね」


「もしかして、お兄様もブラが必要なお年頃に…?」


『主は女性下着に囲まれて過ごしたいだけじゃないかな?』


 そんな感じでレオが何をやっていたかを議論していた3人と1匹であったが


「まあ、こんなところで想像してても何も進まないわ。直接聞いちゃいましょう」


 と、リリカが率先してお店の入り口を潜った。


「あら、リリカちゃんたち、いらっしゃい。3人揃ってお買い物?」


「お姉さん、レオはここで何やってたの?」


 入店早々聞いてきたリリカに、一瞬キョドった態度を見せたお店のお姉さんであったが、すぐさま普段の態度を取り戻し


「レオちゃんならそこにある髪飾りを4つ買って行ったわよ」


 と答えた。それを聞いた3人と1匹の顔が曇る。


「あの、もしかして、そのうちの1つは小さくとか、取れにくいように、とか注文しませんでしたか?」


「凄いわね、そのとおりよ」


 ミナが質問すると、お姉さんがびっくりして答える。


 それを聞いたロゼッタが頭を押さえ


「全く、お兄様はわかりやすいです」


 と呟いている。


「え?え?何かまずいの?」


「レオね、多分、私が王都に行ってもここの4人の繋がりが切れないようにとか考えて4人に同じデザインのものをプレゼントしようとか考えたのよ」


「4人?あ、そこのワンチャンも含めて4人ってことね」


「レオ様らしいといえばらしいのですが…リリカ様、私の今の手持ちはこれくらいです」


「お姉様、私はこれくらいしか…」


「私はこれくらいで…よし、お姉さん!!」


「何かしら?」


「予算はこれくらいで、同じデザインの男性用小物、至急で用立て出来る?」


「え、ええ。大丈夫よ」


***


「フェン、ちょっとこっちこい」


『何だい?主』


 主が椅子に座って膝の上に乗れと言っているので、フェンは飛び乗って膝の上で丸まった。


「ちょっとだけ、じっとしてろよ」


(パチン)


『ん?』


「よし、フェン、違和感とかはないか?」


『主が僕の事を気遣ってる事に違和感を感じるかな』


「やかましい。ま、大丈夫っぽいな」


 よくよく見ると、耳に花をモチーフにしたかのような飾りが付けられている。


 特に耳に圧迫感等もないようだ。


『主、これって』


「まあ、単なる気まぐれだ。さて、今日は姉さんの送別パーティーだからな、早く行くぞ」


***


 姉さんの送別パーティ―の時、俺は姉さん、ロゼッタ、ミナさんの3人にプレゼントをした。


 いつものように仲良く3人居たのだ、これから離れて暮らす事になっても、お揃いのアイテムを互いに持ってるだけでも励みになるだろう。


「はぁ……」

「あはは……」

「お兄様……」


 3人の反応がなんか冷たい気がするんだけど。


 え、なに、やっぱり俺ってセンスない?


「あんた、大事なこと忘れてるわよ」


 姉さんにそう言われたのだが、ピンとこない……


「その輪の中になんであんたがいないのよ、ホラ……」


 姉さんがそう言って俺に小さな箱を差し出す。


「私たちだと男性がどのようなアクセサリーを使うか分からなかったので、相談して選びました」


 受け取って中身を確認すると。さっきプレゼントした髪飾りと同じ花をデザインしたタイピン。


「男性は普段からアクセサリーとか付けないそうですが、ここ一番の勝負所でこのタイピンを使って、その時だけでも私たちの事を思い出してもらえればと」


「ミナの言う通りよ、あんたは何でも一人でやろうとするだろうけど、ここ一番の勝負の時くらいは思い出しなさい。貴方は一人じゃないんだから」


 サプライズプレゼントを仕掛けたつもりが逆にサプライズされた俺であった。


***


 そして、翌日。


 いよいよ、ルーディル家長女リリカ、彼女は高等学院への進学のため、実家を離れる日を迎えたのだ。


「……見慣れた我が家にも、たまにしか帰ってこられなくなるのね……」


「うぉぉぉん!!リリカァァ!!」


 まるで娘が嫁に行くのかとでもいわんばかりに父ランバートが大泣きする。


「体に気を付けるのよ?」


 目を潤ませながら、母ルリアとハグを交わす。


「お姉様」


 昨日からずっと泣いてて目が腫れてるロゼッタが切なそうに声をかける。


「ミナ、ロゼッタのこと、頼むわよ。」


「はい…いってらっしゃいませ、リリカ様」


 年の近い2人はもはや親友といった間柄にも見えた。


『リリちゃん、ガンバー』


「フェン、あんたほんとテキトーな挨拶ね……元気にしてるのよ?」


 そして……


「姉さん…」


「レオ、あんたも元気でね。あんた無駄に優しいから、変な女に騙されたりしないでよね⁉」


「はぁ⁉」


「そうね……あんた頑固だし、年上で引っ張ってくれる女の子の方がふさわしいと思うわ!」


「いきなり変な事言うなよ!! それに、頑固なのは姉さんも一緒だろ!!」


 俺、知ってるんだからな!


 俺が行かなかったら、翌朝の早朝に薬草取りに行くつもりで用意してたの!!


 フェンの例え話で「姉さんは船を使う」みたいな例えあったけど、あれ、半分間違いだと俺は知ってる。


 姉さんは、溺れてる人に時間の猶予が無いと知ると、その瞬間に誰よりも先に飛び込んで助けに行くタイプなんだよ。


「お姉様、お兄様は人を引っ張っていく力もありますし、おしとやかな年下の女性をエスコートして差し上げるべきだと思います!!」


 なんかロゼッタが正反対な事言ってるが、ふむ


「じゃあ、姉さんとロゼッタの意見を半々で取り入れよう。年上でおしとやかな人がよいと」


「まあ、そんな人身近に……あ」

「そうですよお兄様、そんな簡単にいるわけ……あ」

「え? え?」


 2人がじっとミナさんを見つめていて、ミナさんが困惑している。


――すかさず姉さんが話を強引に変えてくる。


「……逆にしましょう、ぐいぐい引っ張ってくれる年下の女の子で」

「それなら身近にいませんね!!」


 身近に居るとなにか問題なのだろうか。


『主、僕なんてどうかな?主より10歳年下だし、ぐいぐい引っ張っていくよ?』


「「「ないわー」」」


『ちょっとみんなひどいんじゃないかな?』


 こんなバカな話をした後、みんなで笑い合う。


 そんな楽しい時間もすぐ終わり……


「じゃあ……行ってくるわね!!」


 姉さんが馬車に乗って行こうとしている。


……いいのか、俺?このままで……


 いや、ダメだな。


「姉さん、ちょっと待って!!」


「ん?どうしたの、レオ……」


 俺は姉さんに小さな箱を差し出す、そして……


「誕生日に、って約束には間に合わなかったけど……」


 小さな箱をパカッと開ける、するとそこにあったのは


「受け取ってほしい」


 指輪であった。

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