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第16話 薬草狂騒曲

「すまんなレオ、まだ仕事が残ってて私は行くが、ちゃんと体を労るんだぞ?」


 忙しい仕事の合間であった父さんがそのまま家を離れる。


 そして、俺の方も来客を受けたいので、家族団欒は解散となった。


 姉さんはもうちょっとゆっくりしろ、と言いたげであったが、こればかりは譲れない。


――()に頼まれたアレ(・・)の準備もあるし、5日も寝てしまってるから早くやっておきたいこともあるし。


「おお、レオ様! 意識が戻られたのですね! よかったです!!」


「薬師さんのお薬のおかげだと思います。こちらこそ、ありがとうございます。あと、このような姿での面会となりましたこと、申し訳ありません。」


「いえいえ、まだ病み上がりですから! こちらこそ、お休みいただくべきところを面会いただきましてありがとうございます」


 今日はとりあえず、薬師さんとあと一人、面会したいところであった。


 まずは薬師さんと面会をしているところである。


 ミナさんが薬師さんにお茶を用意している。


――姉さんとロゼッタが離れようとしなかったので、仲裁案としてミナさんに控えてもらうと言うところで手を打ったのだ。


「さて、今日面談させていただいているのは」


「はい、薬草の買取と、薬草の株のことですね」


「株の方もご存じでしたか」


「レオ様から、1株を薬師の研究に回すように言われたと聞きました」


 ベッドの上で丸まってるフェンを見ると、顔だけこちらに向けてニヤッとしてみせた。


――やるじゃねぇか相棒、さっきのお話盛りすぎの罰としておやつ3日抜きにするつもりだったが、帳消しにしてやる


――主、これはファインプレイでしょ? 1週間くらい、高級なおやつにしてよ・


――わかったわかった、おやつ3日分高級なのにしてやるよ


――OK


 フェンと目で会話してから、薬師との会話を続ける


「やはり薬草を栽培できるのなら、それに越したことはないですからね、どうですか? 研究に使えそうですか?」


「まずは薬草の買い取りについてですが、ありがたく買取させていただきます。金額としては……これほどでどうでしょう?」


薬師が算盤を見せてくる


ふむ、金貨60枚か。悪くない


「例えば、今回、母と私の病気の治療費なんかもあるはずです、それと相殺したとしたらどんな感じになりますか?」


薬師は算盤を叩く


「えっと、こんな感じですかね」


算盤には金貨48枚とあった。


薬草取りは本当に命がけだった。冒険者がこんな思いをして、薬草を集めてくれてるんだとわかった。


その苦労に比べれば、2人の治療で薬草使って金貨12枚。安いほうだ。


「では、差し引きの48枚で治療費とともに決済させていただけますか?」


「は、はい! もちろんです! それでですね、株の方は先ほど、薬師連盟から買い取り価格の通達が来まして…」


まあ、薬草の量として換算すると少ないが、研究に使えるということで金貨50枚くらいになってほしいものだ。


「大金貨」


大金貨は金貨100枚と同価値である。つまり、金貨100枚はあるわけだ。よかったよかった。


「2――」


大金貨2枚か。思ったより高いな。とりあえず目標は大きく達成したな、と肩をなでおろしたところ


「じゅう枚だそうです。こちら、ご確認ください。」


薬師が布袋を俺に渡してくる。


「えっと……1枚、2枚、……はい、20枚ありました」


「あと、こちらが薬草買取分の48枚です。お納めください」


「ありがとうございます!」


「では、私はもうそろそろお暇させていただきます。ご自愛くださいませ」


「はい! ありがとうございます!」


――そうかー、目標は金貨80枚くらいだったけど、結局その25倍くらいになったなぁ、よかったよかった。


「って、多すぎるわぁ!!」


「ひえ! た、足りませんでした?」


「逆です、逆! なんで1株で大金貨20枚にもなるんですか⁉」


「それがですね、レオ様のお持ちいただいた株、それ自体は確かに金貨50枚程度の価値はあるんですが、その、株と一緒にお持ちいただいた土が」


「土?」


「ええ、冒険者の皆様はどうしても身軽である必要があるため、薬草採取と言えば葉を集めてきます」


「まあ、そうでしょうね」


「株ごと持ち込まれる方もいらしゃいますが、どうしても土は落とした状態になってしまいます」


「でしょうね。それで、それが土が評価されたこととどういう関係性になるのですか?」


「土の質や成分を研究できます。これにより、人工的に栽培を行う際のヒントが得られる可能性があります。人工栽培が他の薬草でも一般的になれば、薬の値段を下げても大きな利益が得られます」


「ああ、そういうことか。後で文句を言われるくらいなら、大金貨20枚くらいで先に話が付けられるなら痛くも無いと」


「そういうことです。一応、私の手元に追加で要求されても大丈夫なように、まだいくらかあります…いりますか?」


「要りません! しかし、ある程度は俺が受け取らないと、薬師さんの面目もつぶれるわけですか」


「まあ、そういうことです。本来ならレオ様が値を吊り上げ、私が値切る交渉をするはずだったのですが」


 大金貨20枚で逃げようとしたのは、連盟の指示らしい。


「やけに簡単に手の内を明かしますね?」


「私を信じて株を預けてくださったレオ様を騙すようなことはしたくなかったのです。本当は全額お渡しして土下座してお願いしたいくらいなんです」


「興味本位で聞いていい? いくらまでなら出せたの?」


「しめて、大金貨200枚です」


――わお


***


 次に呼び出したのは庭師のトムさんであった。内容は単純に


「薬草の1株は、周囲から絶対に見えないように育てろと?」


「本当は堂々と育てたいのだけどね……」


 実際はうちの庭で育ててもらえるか? といった相談をするつもりであったんだけど、1株大金貨200枚という事になると話が変わってくる。

 持ち帰った土が主な価値判断であったとはいえ、平民が一生働いて稼げるかどうか、といった大金だ。何者かがそれを知って狙ってこないとも限らない。


「承知いたしました」


 本当はトムさんに堂々と実験的に育ててもらい、色々と金策だのを考えて見たかったのだけど。


 ごめんなトムさん。正直薬草がどうなろうと知った事じゃないんだけど、この薬草を巡って家族が危ない目に合うのは我慢ならないんだよ。


 とはいえ、俺の手元には大金貨20枚に金貨48枚。


 予算としては最低金貨80枚、最高で金貨200枚程度を考えていたから、目標はクリアしてるのであった。

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