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第15話 家族団欒

 結局のところ、俺は5日も寝続けていたという事らしい。


 その間ずっとぶっ続けで俺の看病していた3人は疲れからか寝てしまっていた。


 3人が目覚めた時、俺はベッドで上体を起こし「おはよう」と言ってみたのだが、治って喜んでもらえるかとおもいきや、3人して大泣きして、屋敷中に響き渡るから一部のお手伝いさんなんかが


「レオ様がお亡くなりになった!!」


 なんて騒いでてちょっと笑えない状態になってしまった。


 それでも皆の騒ぎがひと段落し、今俺の部屋には


「いやあ、しかし、家族皆無事でよかったよかった!!」


 父さんがそう言ってニコニコしている。


 なんでも、母さんが危ない状態だと伝令が来るや否や、馬を飛ばして帰ってきたそうだ。


 だが、帰ってきたら危ないはずの母さんがピンピンしてて、逆に俺の方が危険だったということでたいそう心配したそうな。


 申し訳ない、ちゃんと親孝行しないとな。


「そうね、本当によかったわ」


 母さんもニコニコしている。


 対して不服そうな顔の姉と妹。


「お父さんもお母さんも、少しはレオに厳しく言ってやってよ!全く、無茶しちゃって」


「そうですよ!お兄様、私の知らないところで危険な事ばかりして!!」


 心配だったからこそ怒り心頭なんだろうけど、反省してるのでもうそろそろ勘弁してほしい。


 なお、今は家族4人で俺のベッドを囲むように椅子を置いて座っている。


 姉さんだけ俺に近いところに座ってるけど、その理由は後で。


「フェン様のおっしゃったとおりですね。ロゼッタ様は人を頼る、リリカ様は船を使う、レオ様は走る、と」


 ロゼッタから一歩引いたところに立って控えているミナさんがそう発言する。


 もう家族のようなものなので普通にしていいと言ったのに、一応館の主人と奥様の前、公私をわきまえた振る舞いをするという事であった。


 そして、その話に父さんが食いついた。


「ほう、フェン殿のお話か。どのようなお話だったのか教えてもらってもよいかな?」


「はい、もちろんです」


 ミナさんは咳ばらいをひとつすると、語りだした。


「もし溺れている人を見つけたら、お嬢様方がどのような行動をとるか、といったたとえ話です。まず、ロゼッタ様は周囲の人と協力して確実に助けます」


「そうね、ロゼッタは人と協力するのがいいわね。ロゼッタ、なにも、一人で成し遂げる事が偉い事ではありません。人に頼るのもまた、才能ですよ」


「は、はい!お母様!!」


 フェンはそこらへんの機微を捕えずにあけすけに話していたけど、そこはミナさんが上手く丸めて話してくれているので、ロゼッタも不機嫌にはなっていない。


「続いてリリカ様。リリカ様はご自身の力でなるべく早く助けられるよう、船を人からお借りして助けにいきます」


「ふむ、確かにリリカはいろんな才能がずば抜けているからな。そうやって人への思いやりを持ちつつも冷静な判断力を持って動いたのは我が娘ながら素晴らしいと思うぞ」


「だからお父さん。これ、たとえ話だって。本当にやったわけじゃないから」


 父さんに褒められまんざらでもない一方、たとえ話だという前提を忘れている父さんを窘めていた。


「そしてレオ様は……」


『水上を走って助けに行くよ。その人が何で溺れているのかも、その水場の深さも考えずにただ走っていくよ』


……

 フェンが発言して一瞬部屋が無音になった後


「くっ…くくく…あははははは!!」


「あ、あなた、そ、それは流石にわらい…笑いす…ぎ……フフッ」


 大爆笑を始めた父さんを窘めようとしているが、母さんもちょっと笑っていた。


「ねぇ、ひどくない?俺だけフォローないよ?」


「事実だから仕方がないわね」

「実際にやっちゃいましたからね」

「お兄様ならそうするだろうとしか思えません」


 姉さん、ミナさん、ロゼッタにそう言われ、ちょっとへこむ俺だった。


***


『そこで主は剣の達人の怪物に向かってこう言った「楽しい舞踏だった、だが、最期の曲は終わった。フィナーレだ!」』


「ほうほう……」


 フェンが語っているのは大体のいきさつについてであった。もちろん、変身やフェンがものすごい速度で余裕で走る事が出来る事は伏せてもらっている。


 俺は火事場の馬鹿力、フェンは魔力枯渇するまで踏ん張って今はまともに走れないという設定になっている。苦しい設定であるが、まあ、仕方ない。


 ちなみに、話す内容について、何を伏せて何を話していいかは相棒同士のアイコンタクトで余裕で意思疎通可能であった。


「いいか、変身と、フェンが走ることの出来る距離や速度については伏せるんだぞ?」


『分かったよ主。変身するのと、僕の脚力を伏せて、主を心底情けない道化として語ればいいんだね?』


 正確に意思疎通が出来る間柄というのは本当に便利だと再確認した俺だった。

 気が付けば母さんもロゼッタもミナさんもフェンの話に聞き入っている。


 ちなみに姉さんは


「ふー、ふー。ほら、あーんしなさい」


「あ、あーん」


 俺の世話をするため、俺のベッドの近くに陣取ってたらしい。


 最初は自分で食べようとしたんだよ? 本当だよ?


 だけど、まだ手先がしびれて上手く動かなかったのを見かねた姉さんが、こうやって食べさせてくれているのだ。


 いやね、相手が家族であっても、これめっちゃ恥ずかしいぞ!


 姉さんも、表情は澄ましてるけど、相手が弟なのに耳まで真っ赤にしてるくらいよ。


 そんな俺たちをフェンはチラッと見て、邪悪な笑みを浮かべる。


――あ、こいつ、なんか悪い事する気だ。


 具体的には、話をマシマシで盛る気だ、それも俺が恥ずかしくて悶える方向に。


『そして希少な薬を手に入れた主、全力で屋敷に向かうが!そこは怪物に付けられた傷が体力を蝕む!それでも一刻も早く、お守りしたい姫様の居る屋敷に向かう主、なんとか玄関にたどり着いた、しか~し!!』


――ぽふん


 フェンがベッドの上で前足を1回ぽふんと叩きつける。


 お話の臨場感を出すためのアクセントみたいなものらしいが、迫力が無い。


 だが、どうやら話に入り込んだ父さんたちは固唾を飲んでフェンを見守る。


 当事者的にはもうツッコミどころしかなかったけど、最後の最後にツッコミ入れるか。


「ほら、口あけなさい」


「あーん……もぐもぐ」


 フェンはたっぷりと間を開けると、静かに語りを続けた。


『主の体力はそこで限界を迎えた!玄関前で倒れ込む主!そのまま地面に倒れてしまうのかっ!!』


――ぽふんぽふん


 今度は前足で2回ベッドを叩く。


『そんな倒れる主を抱きとめたのは、主が敬愛する姫様だった!!主は姫様にこう語りかけた「俺は、姫様の希望になれたのでしょうか?」と』


「……ごくっ」


 父さんが唾を飲む。


「……ワクワク」


 母さんが、童話の王子様を見る少女のように目をキラキラさせている。


「……キャー」


 ミナさんは頬を赤くして、まるで恋物語を聞いているような反応をしている。


「……お兄様の言葉に、お姉様はどう答えたのですか?」


 ロゼッタが先を知りたそうにしている。


『姫様は「ええ、貴方こそ、私の最後の希望です」と主に語り掛ける!それを聞いた主は笑顔を浮かべ、息を引き取ったのでありました!!』


 おい、相棒、ちょっとあとで話がある。


 殺すな

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