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第121話 弟の家入り

「レオ様、お待ちしておりました」


 シャーロットさんを連れ薬師連盟の本部の建物に入ると、ポツンと1人、専属の薬師さんが出迎えてくれた。


 本来ならまだ薬師連盟は業務を始めていない時間帯であるし、休日であるからそもそもそんなに職員の人も居ない。ある意味しばらくは貸し切りのようなものである。


「すみません、朝早くから。この前の紹介状もありがとうございました。おかげさまで上手く話がまとまりました」


 そう、重役の方と、専属の薬師さんに無理を言って業務前に来ていただいているのだった。嫌な顔一つせずに了承いただいたお二人には頭が上がらない。


「いえいえ、レオ様の頼みとあらば全力で対応させていただきますよ……ところで、そちらのお美しい女性はどちら様でしょうか?」


 これが姉さんとかだったら、薬師さんも面識あるから分かるのだろう。


 そして今からの俺の取引、金額としては非常に大きな取引となるため、遊び半分で友人を連れてくるような状況でもない。


 おそらく、俺の愛人か婚約者か、といった感じで推測してるのだろう。


……残念、外れだ。


 シャーロットさんは薬師さんの言葉に呼応するかのように、礼をし、名乗る。


「お初にお目にかかります。シャーロット=ゼファーです。弟くんがいつもお世話になっております」


「あ、これはご丁寧に、お姉さんですk……ゼファー? シャーロット・……? え、ちょ、まさか……王女殿下!? アイエエエエ!? 王女様、ナンデー!? た、大変です、専務!!」


 あの重役の人、専務なのか。


 薬師さんがドタドタドタと奥に駆け出したかと思うと、今度は奥の方からドタドタドタと2人分の慌てた足音が響き、顔を青くした専務さんと薬師さんが飛び出してきた、かと思うと、冷や汗をダラダラとかきながら


「こ、これは王女殿下!! このような所まで御足労いただき恐縮です!! ささ、王女殿下、レオ様、奥の応接室までご案内いたします!! おい、何を突っ立っておるか!! お茶の用意をしてこい!!」


「は、はい!! ただいま!!」


 あー……俺から見たら姉さんの親友、って印象が一番強いからか忘れがちだけど……王女様なんだよなぁ……。


 専務さん、薬師さん、ごめんなさい。


***


「いやはや、お見苦しい所をお見せしました」


 あれからしばらく経って、薬師さんの方はまだ緊張しているようだが、専務の方は幾分落ち着いたようだ。だが冷や汗は止まらないようで、仕切りにハンカチで額等を拭っている。


「本来であれば連盟の会長が応対すべきところですが、現在は不在でした……重ねての非礼、申し訳ありません」


 先ほどから専務は仕切りにヘコヘコしているが……本当に悪い事しちゃったなぁ。


「専務さん、すみません。シャーロットさんの事は普通に美人のお姉さんとしか考えてなかったので、そこまで気が回らず……」


「レオ様、それ、下手したら不敬なのでは……?」


 薬師さんが緊張で体をガチガチにしながらボソッとそう言ったのが聞こえたのか、シャーロットさんも慌ててフォローをする。


「いえ、弟くんは仲良くさせていただいているルーディル家の人ですので、本当に姉の友達、くらいの感覚なのだと思います」


 実際、姉の親友だと思ってるからその通りなのだ。


 だが、専務はシャーロットさんが俺の事を「弟」と呼んだ事が気になるようだ。


「おや、もしやレオ様は王家に家入り(いえいり)されるのですか?」


「家入り?」


 なんだそれ、初耳だ。


「婿入り前にただの養子としてしばらくその家で暮らし、その後婚約をして婿入りをする、という王国の風習です。とは言え、ルーディル家の長男であるレオ様が婿入り、も考えにくいですが、もし婚約前提であるなら話が繋がるかなと……例のものを持ってきてくれ」


「は、はい」


 薬師さんは部屋を出ると、ヨタヨタと大きな袋を持ってきて、ズシン、とテーブルの上に置いたかと思いきや、また部屋から出ていく。


 そして、4袋を運び終わった所で専務が話を続ける。


「レオ様、こちら、残りの大金貨2,000枚です。お納めください。……もし婚約等の話をされるのでしたら、こちらで婚約指輪等を用意されるのかと思いましたが……」


 あー、なるほどね。


 王家に婿入りするならそれくらいのものを渡しそうだもんね。


「さて、シャーロットさん、せっかくの休日に公務みたいなことをしてもらう事になりそうだけど、いいですか?……なんか嬉しそうですねぇ」


「え? そんな事無いですよ?」


 まあ、悲しい顔されるよりもいいけどさ。


「では……専務さん、薬師さんももう少し付き合ってくださいね」


「ええ、構いませんが、何をされるのですか?」


「ちょっとした事実確認のための書面を作りたいのですよ……薬師さん、申し訳ありませんが、ちょっと2枚ほど、紙を用意して書いて欲しい事があるんですが、いいですか?」


「え、ええ、すぐに準備いたします」


 すぐに紙を2枚用意し、薬師さんがいつでも書ける状態になったのを見計らってから俺は指示を出す。


「まず2枚共に、紙の中央上部に『確認書』と記載」


「はい」


「1枚目には『薬師連盟は大金貨2,000枚の受権者からの要望により、今春からの魔獣災害の復興支援金として王国に寄付するものとする』と記載ください。こちらには最後、専務のサインをいただければと思います」


「はいはい、2枚目はどうされますか?」


「『王国は今春からの魔獣災害の復興支援金として、大金貨2,000毎を受領するものとする』と記載ください。こちらはシャーロットさん、サインをお願いします」


「えーっと、つまり……え?」


「俺は大金貨2,000毎の受領権利を捨て、あくまで同額を薬師連盟から王国に直接寄付したことにしていただきたいのです」


「え?」

「え?」

「え?」


「「「えぇぇぇぇ!?」」」


 3人の困惑した声がハーモニーを奏でた。

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