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第120話 俺の悪い癖

「聞いたよ、レオ君!! シャーロット王女様をデートに誘ったんだって!?」


 午後の授業と授業の合間、セラが何だか目を輝かせてそう尋ねてくるのだ。


 シャーロットさんに休日一緒に行って欲しい所がある、と話をしたのが今日の昼だというのに、一体どこでその話を聞いたのやら。


 そりゃ、確かにシャーロットさんに同行をお願いした時に「弟くんからデートに誘われちゃいましたー」なんて言ってはいたけど、まさかそこまで大事になるとは……。


「当たり前でしょ、女友達として私が喫茶店に誘った時ですら、翌日皆から質問攻めだったのよ⁉ ましてやデート、しかも即了解って。今まで何人もの男性が悉く玉砕してる中で、だよ」


 確かにシャーロットさんはデートと言っているが、俺はちゃんと言ったはずで、勘違いをしているのはシャーロットさんと、シャーロットさんの発言を聞いた周囲の人だろう。


 流石にミナさんからもお叱りを受けた所だし、ちゃんと内容を伝えたはずだが……ああ、他の人が居るところで話せない内容については伏せてたけど……


「俺達の将来にとって大事な話があります。シャーロットさん、どうか今度の休日、俺と一緒に来てもらえませんか? 是非とも、受け取ってもらいたいものがあります」


 と言っただけだ。うん、いつも単語だけをポーンと話して誤解させてしまってたみたいだから、今回は伏せなきゃいけない内容は伏せたけど、それ以外はちゃんと全て包み隠さずに話してるはずだ。


 その時横に居た姉さんが頭を抱えていたような気がするが……あまりの俺の成長っぷりに驚いただけだろう、うん。


 その事の次第をセラに説明したところ、セラは俺に対してなんというか、おもちゃを与えられた小動物みたいなキラキラした目をしてから俺にこう言った。


「うん、レオ君が悪い」


 なしてや。


 ともかく、こうして次の週末までは普通に過ごす事となった。とは言え、年に1度のお祭りのひとつ、魔導杯、金獅子杯、そして、新たに出てきた銀狼杯の開催が間近に迫っている事により、普段よりは騒がしい、というか落ち着きのない空気に包まれている。


 そして、その中において学校に通うロイヤルプリンセスの色恋沙汰がニュースとして初等部から上等院までを駆け巡る事となったのだ。


 そのため、嫉妬した男子生徒からの妨害のようなものがあり俺はシャーロットさんに会う事が出来ず、なかなか当日の予定を確認する事が出来なかったのだ。


 仕方が無いので姉さんを経由してやり取りする事となってしまった。


 姉さんに手紙を託し、そして夜、姉さんがシャーロットさんから預かってきた手紙を俺に渡す。


「あんたら、私を通じてなにやってんのよ」


 みたいに毎日姉さんからのチクッとしたイヤミと一緒に渡される手紙には、シャーロットさんが当日をどれだけ楽しみにしているのか、どこに連れて行ってくれるのか楽しみにしている様子が書かれており、ほんと、デートではないと分かっていても俺も楽しみになるのだ。


「おほん……お兄様、表情が緩んでますよ」


 おっと、ロゼッタが慣れない下手な咳ばらいをして止めたいほど変な表情をしてたか。自重しないと。


***


「弟くん、迎えに来ましたよ!!」


 当日、シャーロットさんが馬車に乗り俺を迎えに来てくれたので、俺は馬車に乗り込む。


 そう、俺が誘っておきながら俺はシャーロットさんに馬車を出させていたのだ。これがデートだったらエスコートを名乗り出ながら乗り物を用意させるという、なかなかの非紳士的行為ではないだろうか。


 さらに、出してもらった馬車は軍が物資輸送用に使う馬車であり、その馬車を護衛が囲んでいる。


 元々デートではないのだが、デートの気配なんて微塵も感じさせない風体である。


 だが皆の頭が良い感じに恋愛脳になってくれたおかげか、皆は俺とシャーロットさんの間を邪魔しようと王城前に隠れて待機しているようだ。


 もちろん、軍用の荷駄用馬車なんて皆スルーだろう。


「ご無沙汰しております、レオさん」


 護衛の一人からそう声を掛けられたが……ああ、護衛が上手く出来なかったからって自殺しようとしてた人だ。


 実はあの道中でちょっとお話して打ち解けた人の一人なんだよね。名前聞いてないけど。


 スバルから「トウヨウの方では、自殺をセップクと言うのですよ」と教えられたな。よし、彼の事は俺の中ではセップクさんだ。


「ご無沙汰しております。あの時はご自身の命を投げ捨てようとされてましたが、お元気そうでなりよりです」


 俺がこう言うと、セップクさんはちょっとバツが悪そうに笑いながら


「いやはや、その節はお恥ずかしい所をお見せしました。どうしても剣士としての近衛の悪い癖ですな。身を挺して命を懸けて主君を守れ、としか言われませんので」


 実際にそういう風潮なので俺からは何も言えないが、とは言え今回、銀狼杯という形で「第三の戦闘形態」を模索しているのであれば、彼らが命を粗末にしがちな現状も少しは変わるかもしれない……なんだか、フェンを喜ばせるためだけに参加を決めたはずだが、色々なものが乗っかってきているような気がして、思わず体が強張る。


――キュッ


 俺の隣に座ったシャーロットさんが、俺の腕に抱き着いて来た。これは、デートの雰囲気作りなのかそれとも……


「弟くん、デートじゃないのは分かってますが、今だけはこうしてもいいですか?」


「あれ? でも手紙にはデート楽しみって……」


「女の子を手玉に取ってる弟くんにちょっとした仕返しですよ。喜んでいたとリリカからは聞いてますが」


 イタズラは逆効果でしたね、と言いながらペロッっと舌を出すしぐさを見せる。


……まいったな……


「シャーロットさん、今日は公務とか入ってないですよね?」


「え、ええ。特に夕方まではありませんが」


「じゃあ、さっさと用事を済ませましょう。……約束通り行きましょう、デート」


「……はい、弟くんに、付いていきます」


 こう言うのは優柔不断というのか、それとも八方美人と言うのか。


 シャーロットさんがペロッと舌を出したしぐさをした時、どこか期待していた物が全否定されたとでも思ったのか、ちょっと悲しい表情をしていたように見えて、放っておけなかったのだ。


 俺も神ではないから、悲しんでる人全員を助けたいなんて烏滸がましい事は言わない。


 でも、俺の手が届く所で悲しんでいる人が居れば何かしてやりたいと思うのだ。


 それが偽善と言われようと構わない。俺がやりたいのだ。やりたい事をやりたいようにやるだけだ。


 それでも思う事はある――悲しい顔をしている人を見過ごせないのが、俺の悪い癖。

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