第119話 職人の誇り
「こ……これは……難しいですね……」
俺がイワン達から教えられた設計を俺が書き出したものを、鍛冶師連盟から紹介された鍛冶師に魅せた所、鍛冶師が興味を持ちつつも難しい顔をしていた。
「何とか、1週間で出来ませんかね?」
例えばこれが実用性に耐えうる強い武器を単行程で作る事が可能な設計であるなら簡単に利益にもなるし、すぐに了承をいただけたのだうが、今回は魅せるための武器作りなのだ。最悪、今回の大会で壊れても構わないのだ。
ある意味、使い捨ての奇術道具制作を武器職人に依頼しているようなものである。
鍛冶師連盟の上から「くれぐれも丁重に」と言われている事もあり、無碍には断りにくいということだろうか。
なんだか、この人には悪い事しちゃったかもなぁ。
「いや……ここをこうすれば……実用性に耐えるか……?」
てっきり断られるかと思ったが、気が付くと鍛冶師さんは設計図とにらめっこしながら、白紙に内容を描き出している。しかも改良案まで並行して書き出しているようだ。
「えーっと……それで、受けていただけるのでしょうか……?」
「基本設計としては悪くないですが、本当に使い捨て前提の最低限の強度設計ですね……でも、試みとしては面白い。毎日同じような物を作り続けていい加減刺激が欲しかったところです、やらせてもらいましょう。ただし、条件が1つあります!!」
すっかり俺の事を忘れて設計に食いついている鍛冶師にそう声を掛けると、鍛冶師はどこか嬉しそうに俺に返答を返す。専門職である鍛冶師に縋るしかない俺に対し、鍛冶師連盟所属の鍛冶師が出した制作の条件とは?
「武器として最低限、実用性に耐えるように私に設計の変更をさせてください!! それを了承いただけるならば、1週間の納期に間に合わせて見せましょう」
鍛冶師さんは快諾してくれた。だが、実用武器として使えるものとして作らせろという要求を出してくる所はやはり、武器を作る鍛冶師さんのプライドといったところか。
遠回しに「奇術の道具を作るわけじゃない、武器を作るんだ」と念を押された感じがする。こんな対応されたら、もう……作ってもらった武器で勝ち上がるしか恩返しの仕方が無いではないか。
***
「と、こんな感じで話がまとまったよ」
俺は夕方頃、部屋の椅子に座り精神世界へと行く。とりあえず、忘れないうちに3人に報告しなければならないだろうと思ったのだ。
「ふむ、実用武器として耐えうるもの、ですか……スバルさん、キザシさん、ちょっと想定した武器とは形が変わるかもしれません。私の予想の範疇ではありますが、実際に出来上がるだろう形をお伝えしますので、問題ないか確認ください」
そう言うとイワンはささっと武器の絵を描き、2人にそれぞれ渡す。
「あら、ちょっと想定より大きいですね……それに、扇の開閉の自由度は落ちますか……問題はありませんよ」
「逆に短剣は想定よりちょっと短くなるか……まあ、問題無いと思うぜ」
実用に耐えうるもの、というキーワードだけでイワンはある程度何かを悟ったようだ。
「やっぱり、最初の設計は今回の大会で壊れる程度の強度がせいぜいだったのか?」
「ええ、お恥ずかしながら。私もこういう設計をしたことは何度かあるのですが、いつも知り合い等から強度の問題を指摘されておりまして……今回も強度が足りないと判断されたようですね……」
イワンが「今回は自信があったんだけどなぁ」といった感じでショボンとしてしまっている。そんなイワンをこのまま放っておくのも気が引ける気がして、俺はイワンを慰める事にした。
「鍛冶師の人、面白いと言っていたよ。普通に使える武器としての可能性を見出したからこそ、武器として作りたくなったんだって。鍛冶師の心に火を入れたのはイワン、君のアイデアだよ」
「そうですか……面白いと言ってくださったのですか……もし私が生きていれば、是非ともその方と武器開発なんかで議論してみたかったものです」
やはり「面白い」をコンセプトに作った設計だったため「面白い」と判断された事は嬉しいようだ。イワンの表情はそれほど変わらないものの、微妙に口角が上がっているようである。
――武器の件は出来上がりを待つだけか、あとは……
大金貨2,000枚の処分方法だ。流石にこんなに大金をそのまま受け取る訳にはいかない。今日、大金貨500枚を持ち帰るのだってそこそこ目立ってたのだ。
今日は何事もなく帰宅出来たが、その4倍を持ち帰るなんて想像もしたくない。
この大金を受け取ってもおかしくない立場の人、そして、俺が信頼を置ける人に手伝ってもらう、または処分してもらう必要がある。
――そのためにも、姉さんに確認を取る必要があるだろう。
***
「主―!! どう!? 大会の準備進んでる!?」
夕食の頃、俺が部屋から出てくると真っ先にフェンが俺の左腕をぎゅーっと抱きしめながら俺にそう聞いてくる。
「ああ、今年は優勝も可能だと思うぞ。来年からは大会も大盛り上がり間違いなしだ!!」
「主がずっと王者でもいいのに」
「無茶言うな、高等学院所属時の3年間しか挑戦出来ないんだから」
そりゃな、俺が何年も王者防衛を出来るなら構わないんだけど。
「あ、レオ帰ってたのね。お帰り」
「お兄様、今日はほぼ1日お出かけされてましたね。何をされていたのですか?」
ミナさんが厨房で夕食を用意しており、食堂には姉さん、ロゼッタが先に着席していた。ちょうどいい。
「今日は銀狼杯出場の準備でお店を回ってたんだよ、いやー、疲れた」
ロゼッタが「準備なんているんですか?」と言った顔で姉さんの顔を見、姉さんが不思議そうな顔で首を横に振る。
姉さんは魔導杯3年連続覇者として出場しているが、魔導杯は道具の使用が無いため、取り立てて準備が必要無いのだ。
まあ、金獅子杯も訓練用の剣を使うため、準備は不要なのだが。
「あ、ところで姉さん。明日、昼くらいに上等院に顔出すから」
「あら珍しい。何の用かしら」
「ちょっとね……明日って、シャーロットさんって上等院に来るの?」
上等院は自分で研究課題を探しそれを研究するようなところの為、高等学院のような「朝から夕方まで出席が必須」といった授業体型ではないのだ。場合によっては休みを平日に作る事も可能である。
だから目的の人が居るかどうかを確認したかったのだが、何故か姉さんの表情が曇る。
「……シャーロットは私と一緒に居ると思うけど、何でそんな事を聞くの?」
何となく言葉にトゲがあるような気がするが、まあ、姉さんと一緒なのだから何をするか伝えておいてもいいだろう。
もしかしたら、姉さんがフォローしてくれるかもしれないし。
「いや、来週の休みにシャーロットさんと二人で行きたいところがあるから、お誘いしようかと」
途端、家の中の空気が、大きく下がったような気がする。
俺にベッタリくっついていたフェンは急に俺の腕から手を放し、俺から遠く離れた席に座る。
目線もこちらに向けてこない。
「お兄様……」
ロゼッタも、何だか冷たい目線をこちらに送っているような気がする。
そして、俺が一番怖かったのは、俺に笑顔を向けている姉さんだ。
「レオ、どういう事かしら? 悪い事言わないから、私に説明しなさい」
目が笑ってない。
「夕食の用意が出来ましたよ……って、何ですかこの空気!?」
夕食の用意を済ませて食堂に持ってきてくれたミナさんが、へんな空気を察して狼狽えている。
「い、いや、実はね……」
ちゃんと説明したらこの変な空気は払拭されたようだが……
「いいですか、レオ様!! ちゃんとリリカ様やロゼッタ様、私やフェンちゃんの事も考えて、発言には気をつけてください!!」
とミナさんから説教をされる羽目になったのだった。




