第116話 参加するかしないか
「別に、お父さんとか私とか気にしなくていいわよ。貴方がやりたいならいいんじゃない?」
夜、食事時にたまたま学校の大会の話になったのであった。
だが、魔導杯は父さんが2年連続優勝、姉さんに至っては3連覇しているのだ。
まるで、弟である俺がもし出場するとなると、父さんと姉さんの偉業と比べられる事で俺が委縮する事を嫌ったような発言であった。
確かに、父さん姉さんの偉業を考えると尻込みしてしまうのも仕方がないだろう、だが……
不参加にしたいというのは、まだ魔法力が戻っていない事をバレたくないのと言う方が本音である。
「いや、今年は参加しないつもりだよ。まあ、来年以降参加したとしても優勝可能性は低いだろうけど」
仮に魔法力の低下が無かったとしたら、姉さんのこの言葉で参加を決意したかもしれないけれども。
その場合はまず、同級生に勝てるのかどうか。今のところ魔法の能力でいうと俺はセラには及ばないし、あの旅行の後アリオンは何だか魔法の使い方を工夫するようになり、もし戦う事になったら勝てる保証はない。
どちらにせよ、一筋縄ではいかないだろうな、と思う。
「お姉様、そういえば、今年は去年までと違った部門が新しく新設されたと伺いました」
ロゼッタもこちらにやってきたのは今年。年1回の大会を見るのは初めての事であるのだ。そりゃ、興味はあるだろう。
「ああ、なんだっけ、銀狼杯だっけ。何でそんなのが追加されたのかが分からないのよね」
姉さんがそう言ったと同時に、ガタンッ!! とフェンが立ち上がった。
「主……銀狼杯優勝目指して頑張ろう!! 僕も手伝うから!!」
***
「はぁ……」
俺は部屋のベッドに突っ伏してため息を上げる。先ほどの食堂での発言を思い出していたのだ。
「いや、俺は今年は不参加のつもりだぞ?」
俺がそう言った後のフェンの悲しそうな、捨てられた子犬のような、そんな表情が頭から離れないのだ。
実際、魔法の能力低下はちょっとずつではあるが回復しており、純粋に魔法100%の戦いでなければさして影響は無いとは思う。
魔法能力としては子供の頃から基礎を固めていたおかげか、調子が悪い時でもアリオンより弱くなっているという事は無い。だが、魔法が上手いクラスメートからは「レオ君、最近調子悪いね? どうしたの?」と聞かれる程度には落ちている。
俺はそのまますまほを取り出し、めっせーじあぷりを確認する。
先日、新しい変身フォームを1つ得ると同時に、俺のこの変身関連の能力も変化が起きていた。
まず、変身しないと使えなかった能力の一部が使えるようになった。
例えば、マジシャンの時に手を振るだけで出現した剣やL字型の魔杖、カスタムの時しか使えなかったすまほが変身しなくても使えるようになった。
確かに、変身しなくてもすまほが使えたりすると良いなと思ったし、実際そう言った事もあるが、本当に次の変身フォームを得ると同時に実現するとは思わなかった。
もしそれを実現してくれている人がいるなら、その人は神様か何かだろうか? もしそうなら感謝せねばならないだろう。
何故か俺の脳裏には働き詰めでやつれた女性のイメージが浮かんでいるが。
まあ、思考が明後日の方向に飛んでいたので、気を取り直してすまほを見る。
そこにはドラゴからめっせーじが届いていた。
『姐御は俺が宥めておきますから、旦那は心配しないでくださいっす』
いや、確かにフェンが反応しそうな名前だなとか思いはしたが、まさか俺が参加しないと言っただけであれだけ落ち込むとは思わなかったのだ。
『頼む。だが、そこまで落ち込む事なのかねぇ』
俺がそうドラゴに返信すると、しばらくして、ドラゴから返信が届いた。
『俺も、お嬢が龍の名の付く大会で頑張ってくれると嬉しいですけどね。俺の為ではないとしても、俺を認めてくれたような気になるっすよ』
そういうものなのだろうか? ……そういうものなのだろうなぁ。
特に今回、タイトルが「銀狼」なのだ。フェンは厳密に言うと「幻狼」ではあるものの、銀の毛並みを持つ狼であるから「銀狼」と名乗ってもおかしくはないだろう。
ふと、どこの誰とも知らない人間がフェンの主だと吹聴して回る光景を想像してしまい、何だか嫌な気分になった。
ああ、そうか。立場は違えど、フェンもこんな気分だったのかね。とはいえ……
「俺は、どうするべきなのかね」
そう呟き、俺は目を閉じる。そして、俺の意識は段々と遠のき、そのまま夢の中に、とはならない。
夢の中に行く前、ある意味俺の精神世界とでもいうべき所に到達する。そこには3人の男女が待ち構えていた。
「勝てるかどうかはともかく、マスターが挑戦したいかどうかで決めていいのではないですか?」
年の頃30歳前後に見える眼鏡をかけた男。彼の名前はイワン。生前は国の軍部の頭脳として活躍していたそうだ。
「しっかし、あの姿になった俺を撃破出来たマスターが何を恐れているのやら、とは思うがな」
そう言ってケタケタと笑うのは、数か月前に街の襲撃を実行した犯人、キザシ。そして……
「まったくです。3年前、私を撃破したマスターとは思えないですね。マスターはもっと自分に自信をもっても良いと思いますよ」
年の頃は20代前半といったところか、姉さんよりいくつか年上くらいの女性、スバル。
そんな3人が俺の精神世界に出てきているのはひとえに、新しい変身フォームの能力によるところだ。
新しい変身フォーム、それは、俺が殺した相手の能力を利用する能力である。
もちろん無制限と言う訳でなく、相手が納得の上で俺に殺されている事が前提である。
ただ、キザシはともかく、イワンとスバルを俺はいつ殺したのか。それはどちらも同じ場所、あの山の上である。
そう、3年前の狼男、そして斧を持った牛の魔獣は、2人が魔獣に体を飲みこまれてしまった姿だったのだ。スバルが元狼男、イワンが元斧牛男である。
ちなみに、俺の持っている呼び出し可能な死者の一覧は現在、こんなところである。
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1.;6・い’。おswZ2[
2.スバル
3.イワン
4.キザシ
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1は謎なのだが、2のスバルが最初に倒した狼男である事と、それ以前に人を殺した記憶は無い事から、無視しても良いのではないかという事で放置している。
呼び出そうとしたのだが、呼び出し失敗!!となったので、今は放置してても大して影響はないだろう。
「私はマスターの体幹を鍛える事が出来ます。イワンは軍略家であると同時に魔法の名手ですから魔法の効率的な使い方を伝授出来ると思いますし、キザシは知っての通り暗殺剣の使い手。聞いたところによれば銀狼杯は総合力の戦いとの事。私たち3人がマスターを特訓して差し上げれば、優勝も難しくはないかと」
聞くところによると、元々スバルはトウヨウの方で伝統舞踊と伝統武芸を嗜んでいたそうだ。トウヨウの方では力よりも鋭さや動きの滑らかさ、そして美しさを重視する傾向があると聞いた。だから、あの時の狼男からは隙が見えなかったし、剣舞のような動きをしてたのか。
「でも頼む事になるのなら、3人に協力してもらわないといけないだろうが……イワンとキザシはいいのか?」
そう、結局のところはイワンとキザシの返答次第なのだ。だが2人はそのまま首を縦に振るのみ。
「マスター自身が戦略的に考えて動けるようになれば、我々が表に出た時も動きやすいのです。断る理由はありません」
そう答えたのはイワン。ちなみに彼らを独立した存在として現実に出すためには、精神力を削られるのでしばらくは出してあげられえないのだ。スマンな。
「そんな理屈っぽい事は良く分からないが、家族や仲間の為頑張る奴は俺は好きだぜ。……俺が叶えられなかった夢、マスターに託したい」
あの時は良く分からなかったが、キザシ……あんたは心の奥底には、オッサンと同じような心を持っていたのだな……
俺はすぅっと息を吸う。その脳裏には、フェンの悲しそうな顔が浮かんでいた。
家族を、相棒を悲しませたのは、俺だ。だからこそ、俺自身でこの悲しみを止められるなら……やるしかないか。
「スバル、イワン、キザシ。どうかしばらくの間、俺を鍛えてくれ」




