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第11話 お家に帰るまでがヒーローです

 レオは未だ倒れているフェンの横にしゃがみこんだ。


 フェンは先ほどまでの大狼の姿ではなく、普段家で過ごしている時と同じく、子犬の姿となっていた。


 フェンが言うには、この小さな犬の姿の方が魔力と生命力を温存出来て楽なのだそうだ。


 つまり、敵に襲われ気を失っている際に無防備な子犬の姿になってるわけで、そうせざるを得なかった。つまりフェンの魔力と生命力は……もう


「起きろねぼすけ」


『あ、終わったかな? おはよう、主』


――ちょっとだけ余裕があった。


「おはよう、じゃねぇよ。途中から全部俺に押しつけやがって。」


『僕が行動不能になったら、タイムリミットに間に合わなくなるからね。力を温存する必要があったかな』


――ちょっとどころじゃなかった、帰りの体力等を考慮して休む余裕があっただけだった。


「ったく、きついのはお前だけじゃないんだぞ。大体、薬草探しはまだ完了してないじゃないか」


『あ、薬草ならそこにあるよ』


「は……?」


 レオは思わず辺りを見回した。


 言われるまでは気が付かなかったが、この広場の一画に薬草が群生していた。レオは近づいて目視する。

――間違いない、これは……


「確かに、探していた薬草だ……」


『はい、これであとは、薬草を全て毟り尽くして持って帰ればお仕事終了かな? これで姉さんの希望になれるよ、よかったね!!』


 フェンがちょっとからかう感じで言ってきたが、違和感を感じた俺はそれには答えなかった。


 ほぼ等間隔に5つのエリアに区切られて群生している薬草。しかも区切られたエリア毎に育成具合も全然違う。距離もそんなに離れておらず、ほとんど育成条件が変わっていないように見えるにも関わらず、瑞々しく元気に育ってる薬草の群生もあれば、しおれて今にも枯れそうな群生もあった。


「瑞々しい群生が2つ、元気がない群生が3つか……」


『完全にフルハウスかな』


……栽培実験でもしてたか……?


『さて、元気な奴全部刈って持っていこうかな』


「あ、フェン、ちょっと待て」


『ん?どうしたの主?』


「薬草は元気な奴からしなびた奴まで全種類持っていこう。出来れば土ごと何株か追加で持って帰りたい」


 これがもし、栽培の実験をしているのなら、もしかしたら別の環境で育てるヒントもあるかもしれない。


『薬草全種類はいいけど、土ごと株を持っていくのは重いからそんなに持っていけないと思うかな』


「そうか……じゃあ、元気なのを2株くらい持って帰るのはいいか?」


『それくらいならいいけど。さて、そう決まったら主、さっさと収穫開始かな!』


「おま、手伝ってくれてもいいんだぞ?」


『僕の仕事は主を早く安全に運ぶことだからね、薬草採取は主の仕事かな』


「全く、相棒使いの荒い相棒だぜ」


『主の方が荒いと思うかな』


……もしかしたら、若々しい方は毒性が強くて使えない、なんてことになったらいけないので、とりあえず母さんの治療のためにすぐ使う薬草は新鮮なものからしなびて弱ったものまで、一応確保する。


 これは収穫した群生ごとにまとめ、束にして布袋に入れておく。


 そして、土ごと回収した方は念のために持ってきた麻袋に入れておく。


 よし、これで帰ることが出来るな。


『主、土を僕の背中でこぼさないように気を付けてね!! お風呂入らないといけなくなるから』


「どちらにしろ、さっきまでの戦いで汚れてるだろ? 風呂は入らないとならないだろうな」


『お湯に濡れたら僕のセクシーなボディラインが露わになって、主が大興奮してしまうかな』


「したら大問題だ」


 大狼に変化したフェンの背中に跨る。


『そう言えば主、寒い寒い言ってたのに今は言わないね?』


「ん……ああ」


……相棒が散々傷つけられて怒ったせいか、寒さとかどうでもよくなったからな。


 なんて言おうものならフェンが調子に乗りそうだったからそれは言わないでおく。


「この変身の状態だと、寒さとかには耐性が出来るみたいだな」


 レオはまじまじと自分の手や足を見つめ、その手で頭を触る。


 見た目的にも、防寒といった服装には見えなかった。


『へぇ、動きやすそうな薄い服装なのにね』


「不思議な力だよなー。あ、変身解除しとくか」


――変身解除


――ビュゥゥゥゥ

――ガシッ!!


『わ! なにかな主!! 急にきつく抱きついたりして』


「さむいよー、ぼくもうかえるー」


 あまりの寒さに幼態化したレオだった。


***


 帰り道、体がものすごく冷えてしまったレオはフェンにがっちりと抱き着き、振り落とされないよう、走行中の風を体に受けないようにしながらもぼんやりと考えていた。


 今回の件、あまりにも不自然なものが多かったように見える。


 まず最初は、魔力の乱れによる寒波である。自然現象ではあるらしいので、それ自体は不自然と言い切る事は出来ないが。


 次に、薬草の生える標高の高い山に最近住み始めたという魔物、これは、恐らく先ほど戦った狼男たちだろう。


 野生動物の行動原理から言うと、奴らは「巣を荒らされた事に対し怒った」のか、または「エサの捕獲」のために俺たちを襲ったと思われる。


 前者である場合、あの土地に馴染んで適合したというよりは「たまたま土地と適合してた」ような魔物である。その魔物がわざわざ山の上まで登って、そこを寝床とするだろうか?

 薬師が言うには「突然沸いてきた」としか言えないらしい。

 それは、何者かに意図的に配置された可能性がある、ということか。


 後者である場合、俺たちを襲った事から、奴らは恐らく肉食かまたは雑食で、動物を食べる習性があるのだろうと推測できる。あんな高山地帯で動物がマトモに居なさそうな土地であるのに、だ。

 あの魔物の身体能力なら、もっと下の方に積極的にエサである動物や人間を狩りに来てもおかしくないのだが……

 そしてその狂暴な魔獣に対し、地元の対応が「入山制限」くらいで済ませており、それで被害がほとんど無いようなのである。


 第3に、戦闘を繰り広げた場所である。

 石切り場なら、石を町に使うため、山の下の方に作ることが普通である。

 何故山の頂上に近い所に石切り場のようなものがあったのか。

 冬の高山の山頂近くなのに雪が積もっていなかったのは何故か。


 そして、第4に「人為的に栽培実験をしていたような痕跡」だ。

 栽培実験をしているなら、山の下の方や町の畑なんかで栽培実験等しててもおかしくないと思うし、その情報が噂話程度でも薬師の耳に入っててもおかしくないと思うのだが……


――ああ、いかん、背筋の芯から凍るような寒気を感じるほど体が冷えてしまい、思考がまとまらない。


『……るじ、主! 大丈夫、生きてる?』


 ああ、大丈夫だ。ちょっと頭がボーっとしてるだけだ。

「俺は珍しく本気で心配そうな声をかけてきたフェンに対し、心配をかけまいとそう答えた。」


『主、考えてる事と言ってる事が逆だと思うよ。そんな事言えるならまだ大丈夫だね、と言えない空気なのだけど……』


 いつものからかう空気が微塵も感じられない。本気で心配しているようだ


「フェン、お前は優しいな。俺がフェンリルだったらお前に3回は惚れ直してるわ」


 出発の時、姉さんに宣言した発言をからかわれたので、そのお返しにからかい返してやったが、フェンは乗ってこない。


『とりあえずお家に着いたけど、大丈夫かな?』


「大丈夫だよ……ととっ」


 緩慢な動きでフェンから降り、立とうとしたところで結構強い立ち眩み


『主!!』


 フェンが悲痛な声を上げたので、俺は全く踏ん張りが利かない足を無理やり立たせる。

 力が抜けて、膝が笑ってるのが分かる、だけども。


「今の俺はお姫様(姉さん)のヒーローだからな。ヒーローらしく凱旋しなきゃ。」

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