第111話 茶色の生焼け毒キノコサラダ
「お、来た来た」
時がほぼ止まったこの空間、周囲からは音もほとんど聞こえない中で、上級から風を切るような音と、オッサンが上空を見上げながらそう言うのが聞こえ、俺もポーズは変えずに上空を見上げる。
そこには2つの小さな動く点があるように見えたが、まずそのうちの一方が急速に大きくなっていくように見えた。
オッサンが打ち上げた2人のうち、先に打ち上げた先輩が落下して来たのだろう。
やがて、小さいながらもはっきりと見えてきた。剣を振り上げ、亀に襲い掛かろうとしてる先輩の姿が。
「はぁぁぁぁぁ!!」
そして、その先輩の剣が赤く光り、さらに赤い刃が巨大化していく。
オッサンの斧と同様に、先輩の剣にも物理貫通の赤光かつ巨大化が付与されている。
そして、遥か上空からの落下による威力上昇、さらに時がほぼ止まっている事により敵が躱す可能性も無い。
結論から言うと、超高威力の物理貫通物理攻撃が亀に対し放たれる事になるのだ。
「くらぇぇぇぇ!! 生焼けぇぇ!!」
先輩も必殺技名を叫び、攻撃を放つ。そして、その衝撃の反動か落下速度が適度な高さで止まり、亀の真上から横に吹き飛ぶが。
――シュタッ
と着地を決める。
さあ、あとはアリオンだ。
上空を見上げると、アリオンもちょっとずつ近付いてきているのが分かる。だが、先ほど綺麗な攻撃態勢で亀に斬りかかった先輩と違い、体制は空で藻掻いていたようなちょっとおかしな姿勢に見える。それでも、アリオンはちゃんとやってくれると俺は確信した。
「アリオンのやつ……覚悟決めたな、あれは」
イザークのオッサンがそう呟くと、イザークの近くに着地していた先輩も上を見上げ
「ええ、先ほど上空ですれ違った時とは別人ですね、あれは」
と答えるのだ。
何故俺達3人がそう判断したのか、それは、アリオンが叫び声を上げてないからだ。
先ほどオッサンが打ち上げた時も、アリオンはへっぴり腰でどこか恐怖しており、叫び声を上げながら打ちあがったのだ。
このままアリオンがダメそうなら、俺は必殺技を解除してアリオンの救助に行くつもりであった。必殺技を途中で止めた際の反動は怖いが、それしか手が無かっただろう。
だが、いくら物理防御無効の武器を与えようと、敵の急所が分からない以上どうしても広範囲を攻撃する魔法は必要なのだ。
イザークのオッサンと先輩の攻撃で肉体は大ダメージを受け亀の抵抗は無くなるだろうが、前に戦ったキザシの変身した怪物のように複数の核を同時に潰さなければならないような場合、広範囲を攻撃出来るアリオンが頼りになるのだ。
「いっけぇぇぇぇぇ!!」
アリオンが亀目掛けて炎の球を放つ。その炎の球はもちろん巨大化、物理障壁貫通である。その上、落下の速度も加わり、威力は大きく上昇しているのだ。
「これも追加だぁぁぁぁ!! 毒キノコサラダ!!」
炎の球が物理障壁を貫通し、亀の体内に入ったあたりで必殺技の宣言と同時に風の魔法で炎を拡散し、広範囲を巻き込む炎の竜巻がデカい亀を包み込むように展開する。
炎の球を亀の体内にで拡散する事で、亀の中から炎の魔法弾を弾けさせ、内側からこんがり焼くのだ。
茶色の生焼け毒キノコサラダ。それが俺が必殺技に付けた名前だ。
と言うか男子料理部って、3人が料理をしている所と言われても茶色い料理と、生焼けの串焼きと、毒キノコサラダを作った時のイメージしかないからな。
名前を考える時間的余裕があったか、または「男子料理部」なんて名乗ってなければもうちょっとちゃんとした必殺技の名前付けてやったけど……
ちなみに落下していたアリオンは自分で起こした竜巻の風に煽られ、また亀から離れた場所……先輩とオッサンの横辺りに着地した。そして、アリオンがよろよろとしながらも着地したと同時に、俺の必殺技が解除された。
「グッ!! グァァァァァ!!」
亀はオッサンと先輩に斬られ、アリオンからは体内から外に向けて焼かれてしまい、一瞬苦しむような声を出した後に
――ドォォォォン!!
と爆発をし、跡形もなく消滅したのであった。
「ふぅぅぅぅぅ」
ほとんど3人に任せたとはいえ、体が思う通りに動かない中でムリをしたなぁ。
今回の戦いでチームワークを見せてくれた3人は、ゆっくりとこちらに戻ってきている。ともかく、終わったのだ。
「レオ!! あの必殺技の名前はやめてくれ!!」
戻ってきた3人は開口一番、口々にそう訴えてくるが知らんがな。
「それだけ切羽詰まった状態だったんだ。名前の事は許せ……3人のおかげで助かった、お疲れ!!」
俺がそう言うと、3人は互いに顔を見合わせ、やれやれ、といったポーズのようなものを取り
「「「応!!」」」
と返答するのであった。
「シャーロット様―!! ご無事ですかー!?」
ふと見ると、街の方からシャーロットさんの護衛兵士がやってきた。
本来は護衛をしてもらうところだったのだが街が破壊されてしまったため、ちょっとだけ街の復旧を手伝ってから追いかけてくる事になっていたのだ。
シャーロットさんがそう望んだ事もあるし、護衛兵士が要らないと思われるほどこの道は安全であるはずだったので、護衛の兵士も少し復旧作業を手伝っていたのだが……
「本来ならシャーロット様の為に命を投げ出すべき我らが窮地に間に合わず、申し訳ありません!!」
護衛の兵士達がそう言うなり、膝を付き頭を垂れる。
うん、無駄に命を散らされても困るし、残して着てて正解だったかも。
シャーロットさんはそのまま頭を垂れる護衛の兵士のトップの人の肩に手を置き
「頭を上げてください。我ら王族は本来、国民のために尽くすべき存在。皆さんが困っている国民の力となった事に対し、何を咎める事があるでしょうか?」
「ですが、我らの使命は王女殿下をお守りする事が使命!! この失態は、我が命をもって償う所存!!」
うわぁ、ちょっと誰か、これ止めようよ。
シャーロットさんも兵士の言葉に絶句しているようだ。
「アタシが言える立場で無いとは思うんだ……ですが」
シャーロットさんの後ろから、ミラが声を掛ける。微妙な立場とはいえ、王族に連なる者であるミラの言葉だ。少しは兵士の心に響いて欲しいが。
「おね……シャーロット王女様は、街に居る人を、兵士の皆様を助けるため、ここで戦う事を決意されました。それはあなた方の無事のためでもあります。その王女様の御心を無視し、自ら命を投げ捨てると言うのですか?」
はっ、と兵士の頭が上がり、そのままミラを見つめる。そのミラのセリフを受け、何と答えるべきか悩んでいたシャーロットさんも、言葉を見つけたのだろうか。シャーロットさんが言葉を続ける。
「確かに、私はここで戦う事になりましたが、それは我ら王国の宝である国民を守るためです。そして、その国民の中には貴方も入っています。貴方は、私のその思いを踏みにじるのですか?」
「け、決してそのような事は」
「私が貴方達に街の復興を優先させたのは、貴方達を信頼しているからです。だから、貴方達が責任を感じる必要はありません。もう一度言います。貴方達は皆、我が王国の宝です。どうか私の信頼を、そして、ご自身の命を粗末に扱うような事はやめてください」
「はっ!!」
いやー、こう見ると、王族も大変だよなぁ。




