第105話 ネーミングセンスえ
一体何が起きたのか、司祭は呆気にとられた。
せっかく亀が相手を捉え、2人を倒せると思った瞬間、亀が思いきり吹き飛ばされたのだ。
ひっくり返った状態にならなかった分まだよいが、しかし簡単に吹き飛ばせるほど軽くもないはずだ。
ふと亀が居た場所を見ると、何者かが光り、その場に片膝を付いた少年が一人……
あの少年が亀を吹き飛ばしたのだろうか、だがやはり、1回吹き飛ばしただけで片膝を付いている。
いや、1回とはいえ、あの亀を吹き飛ばせる実力を持った少年……欲しい。
どうせ先程の亀を吹き飛ばした時のダメージでもう戦えないのだろう。
司祭はニヤリと笑った。
***
「レオ!!」
皆がそう声を掛けてくるが、俺は振り返らない。
その声は心配か、それとも苦情か、または俺が出てきた事に申し訳ない表情をしているかもしれない。
正直、怖くて見る事が出来ない。
「ふっふっふ……そこの少年、レオ、と言ったか?」
なんだかえっらそーな爺さんが偉そうな服を着て俺にそう声を掛けてくる。まあ、偉そうな服装は何故かバタバタと暴れたような着崩れ方をしており、服もなんだか濡れているような……服着たまま温泉にでも浸かったのか?
「貴様は見どころがある。貴様だけは命を取らないでやろう。我に下れ」
そんな事をのたまうのだ……勝ち誇るような様子で。
何故勝ち誇っているかわからないが、なんか腹立つ。
「どうした? 全力を出し切ったようだが、それでも貴様は1発は我が眷属の魔獣を退けた。 実力としては十分だ。我が道具として使ってやろう」
……ああ、俺が亀を吹き飛ばすために全力を出して苦しんでいると思ってるのか。
そうかそうか……
つまり、こいつが亀をけしかけた奴か……許さん。
「断る」
俺は怒りの感情を押し殺して言ったはずだが……それでも怒りは隠せてないだろう。
「どうした? 貴様をこの場でそこに居る弱者どもよりも我と一緒に居た方が貴様の実力を生かせるぞ?」
つまり、俺を道具に使いたいということか……。
「はぁ、おいじじい、貴様本当に人間か?」
俺、こいつ完全に嫌いだ。
「貴様、我は有能な人物を取り立て、より上位の存在になる存在ぞ!! その我を貶すか? 神を冒涜すると同じだぞ!?」
こいつ、この期に及んで神とか言い出したぞ。
「神なんてしらねぇよ、俺は俺のやりたいようにやるだけだ」
「ほう……地位も命も無様に投げ捨てた劣等種の分際で、神にすら反逆するか? 神に反逆とは愚かな、それは破滅と同じ意味である」
「つまり、お前に反逆すると破滅しかないと言うのだな……よかったなオッサン、アンタの兄弟、そんな神に反逆してでも家族の元に帰ろうとした強者だわ」
俺が後ろに控える1人にそう呼びかけたからか、司祭の顔が曇る……
「どういうことだ? ……まさか」
「お前が力で従えてたと思っていたキザシだがな、逆だ。奴はお前に従ったふりをして、いつか自分の家に帰る事を諦めず信じ続けた。だから最後の最後にその願いが叶ったんだ。決してハッピーエンドではなかった、だが、それは自分を信じ、人を信じ精いっぱい生きた証だ」
俺はそのまま司祭を指さし、こう宣言する。
「貴様が神だろうとなんだろうとどうでもいい。俺はお前よりも、自分を信じその生きた証を受け止めた人物の方を信じる。その人物を正面から受け止めた勇気ある仲間、その仲間の為に戦う決心をした仲間、そして、お互いがお互いを守ろうと助け合ってる仲間を選ぶ!! 神が人の運命を決めるとでもいうのなら、俺はその仲間たちと一緒に、くだらない運命をぶち壊す!!」
そもそもこの司祭は、キザシが造反している事に気が付かずにまんまと造反されたわけだ。こんなジジイが神であるはずがない。万が一こんなのが神であったとしても、こんなのが神であるなら、俺は倒す。
俺の決心が固いと踏んだか、ジジイはくっ、っと悔しそうな顔をしたが、それでも精神的優位に立とうと必死なのか
「残念だよ、貴様ほどの逸材、ここで消さねばならぬとは……やはり本人の素質がいくらあろうと、付き合う仲間は選ぶべきだという事だな」
などと言っている。
いや、こんなセリフが出る時点でもう、俺の考えが分かってない……
「選ぶんじゃねぇ、仲間は、信じるものだ!!」
「……ここまで神を愚弄するか。貴様は何者だ?」
「仲間を信じるただのフェンリルナイトだ!! 変身!!」
とりあえず、激しく動かなければ少し休めば体力は回復するようだ。俺はそのままフェンリルナイトへ変身をすると、司祭は驚いたような表情を見せる。
「き、貴様!! まさか、噂のフェンリルナイトか……? ちょうどいい、ここで憎き宿敵を滅ぼしてくれるわ!!」
司祭は何故か怒り狂ったような様子を見せ、魔法で作った炎の矢を俺に向かって放つ。
……ちょっと痛そうだな、戦闘中はいいけど、変身解除後はまた痛みで辛い思いしそうだなー、なんて思っていたところだったが
「させない!! 僕は、僕が信じる仲間を守る!!」
俺の目の前に飛び出して魔法を受け止めたのは、先輩であった。さらに……
「そこまで親友から信じられてるなら、俺もその信頼に応えないとな」
俺の隣にはアリオン、そして、イザークのオッサンがいつの間にか並んで立っていた。
「レオ、キザシを少しでも認めてくれてありがとうよ。そして俺のため、キザシのため、俺を信じてくれた仲間のため、俺も全力で助太刀するぜ」
ふと後ろを見ると、姉さんを始め、皆が笑顔で俺を見ていた。俺はてっきり、皆の好意を無下にした事を怒ってるかとでも思ったのだが……
「あんたはまた、無駄に恰好付けて……分かったわよ、あんたたちを信じる、だから、私たちの信頼を裏切るような事はしないでよ!?」
そういいつつも笑顔だ。よし、それなら俺達は、皆の笑顔を守るために全力を尽くすだけだ。
「先輩、アリオン、オッサン。悪いが俺は本調子じゃない。だから……3人を、皆を俺は信じる。いっちょ暴れてやろうぜ!!」
敵が仲間を軽んじるような奴なのだ、ここで俺が全力を出して倒したところで、今の俺はそんな勝利では満足できない!!
この勝利は、仲間の皆と勝ち取ることが重要なんだ!!
「任せろ!! レオが本調子でないなら、僕達がその穴を埋める!! いくぞ、フェンリルナイト・男子料理部、今こそ仲間の信頼に応える時だ!!」
「よし、やってやるぜ!!」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
先輩のその一言でアリオンが気合を入れなおし、オッサンが謎の雄たけびを上げた、のだが……ちょっとまて。
フェンリルナイト・男子料理部て……だっさ。




