第104話 ヒーローは遅れてやってくる
――時は遡り、少し前
「すぅ……すぅ……」
レオは馬車の中で眠っていた。そして、その馬車には非戦闘要員のミナ、ルリ、キャロル、そしてフェン。
レイスたちは戦闘の騒ぎでレオを起こさないよう、そして非戦闘要員を巻き込まないよう、一旦敵をやり過ごし、十分に距離を離したところでの交戦を選択した。
そのため、レオも戦闘の騒ぎに叩き起こされる事も無くゆっくりと睡眠を取る事が出来ていた。
一方でそれだけ距離を離していたがため、待機組からは戦況が分からないと言うのが不安でもあった。
そんな中、それは突然にレオ達を襲った。
――ズゥゥゥン
その大きな音と共に、馬車が大きくガタガタガタガタと揺れる。
「きゃっ!!」
とその揺れに驚いたミナは、膝の上に置いた頭を取り落とし、レオの頭はそのまま地面に
――ゴチーン
と頭をぶつける事となる。
流石にレオも頭を打ち付けて平然と寝続ける事も出来ず、目を覚まし「な、何だ!?」と周囲を見渡す。
「おい、オッサン、何があった?」
レオはそう聞くが、返答はない。いやそもそも、馬車の中はミナとキャロルしか居ない。
何かがおかしい、と気が付いたレオを襲ったのは、再びの地響き。
「ミナさん、キャロルちゃん、教えてくれ、何で皆が居ないのか、そして、この地響きは……?」
最初は話すのを躊躇っていた様子のミナとキャロルであったが、おずおずと語り出す。
大型の亀の怪物が出た事、そして、その亀が街に向かっていた事。他の皆は街への襲撃を阻止するために行った事を。
それを聞き、レオの表情が次第に強張るのが分かる。そうしている間も時折振動がレオ達を襲う。それは戦いの激しさを示しているのではないか……?
ーーこうしてはいられないと、レオは馬車から飛び降りるが、着地の時に足に痛みを感じる。
寝る前よりマシになったとはいえ、依然として体の感覚がまだ完全には戻っていないようだ。だが、そんな事を言ってもいられない。
「フェン、居るだろ!? 皆を助けに行くぞ!!」
「レオ様、そんな状態で駆け付けてどうされるつもりですか? 皆様の好意を無駄にする気ですか?」
そんなレオに対し、ミナは冷たい口調で問いかける。それまで皆を守るために無茶をしたレオ、そのレオに休んでもらうために皆は出たのだ。
そのレオが結局戦線に出てしまえば、レオが皆の好意を踏みにじる事になるのではないか。
レオもそれは分かっている、でも、分かっているからこそ譲れないのだ。
「ミナさん、俺が戦う理由なんだけどね……皆と一緒に平穏無事に帰って、平穏無事に暮らすためなんだよ。そのためなら、この身を犠牲にしようと皆から嫌われようと、俺は止まらないよ」
自分に好意を向けてくれる皆の為、戦うしか能の無い自分は戦う事でしか皆に好意を返すことが出来ないのだ……例え、自分が嫌われようとも。
だから、自分は戦う。たとえどうなろうとも!!
「――変身!!」
レオはフェンリルナイトに変身し、そのままフェンに飛び乗る。
「いけ、フェン。遠慮はいらん、全力でぶっ飛ばせ」
『了解、主! 振り落とされないようにね』
「ああ、そんなヘマしねぇよ」
嘘だ。実際は体はまだ痛いし、フェンの全速力に体がどれだけ耐えられるかも分からない、だけど……
――自分の体のせいで間に合わない方がもっと怖い
そのままレオを乗せたフェンは風のように消えていった。残されたミナはキャロルに対し
「キャロル様は、お見通しだったようですね……」
と声をかける。
そう、キャロルはこの一連のやり取りの間も口を挟まず、レオを見送っただけであった。
「大丈夫だよ、ミナちゃん! レオちゃんは約束を守る人だし」
キャロルがそうミナに声を掛ける。レオが皆を心配し、それを助けに行った。全員が無事に帰ってくる事を疑っていないようであった。
だが、このキャロルの回答に対し、ミナは悲し気に首を横に振る。
「いいえ、レオ様は大事な約束だけは破る方ですよ……自分の事も大事にしてくださいと約束しても、2回も破られた私の身にもなってくださいよ」
レオが皆を心配して動いたのは分かってる。現状を打開するのもレオが動くのが一番成功率が高いであろうことも理解している。だけれども……恨み言の1つや2つ、言わせてほしい。そう思うミナであった。
***
高速で風景が動く動く……掴まっている腕が、股を閉めて足で捕まっているが足が、激痛の為に悲鳴を上げる。
だが、弱音を吐いてはいられない。先ほどから地面がズシンズシンと揺れる感触、これがちょっとずつ近寄っているようなのだ。
話によると、大きな亀のような怪物が出たと聞いた。ならば……俺はフェンの上で振り落とされないようにフォームチェンジを行い、ドラゴンフォームに変身した。
そのまま技のセット。体が持たないので、悪いが最初からファイナルアタックで決めさせてもらう!!
「主!! 間もなく到着するよ!!」
フェンが俺にそう声を掛けるので前を見ると、そこでは今まさに、亀が、姉さんとシャーロットさんを踏みつぶさんとしている所だ。
他の皆は助けたくても、地面の揺れに足を取られて満足に動けないようだ。
「主!! 足を取られて速度が出せない!! 飛ぶよ!!」
フェンは地面の揺れの影響を最小限にすべく、全力で前方に飛ぶ。だが、まだ距離が足りない……そうしている間も、姉さんとシャーロットさんが亀の動きを止めようと全力で抵抗している様子が見える。
――諦めてないんだ。なら俺も、諦めるわけにはいかない!!
俺は思わずフェンの背中から前方に飛ぶ。
体を動かす事で節々が悲鳴を上げているような感触に陥るが、今はそんな事どうでもいい!!
明日以降も皆で笑って過ごすんだ!! そして、その為のヒーローの力なら
――最後まで希望を捨てずに居る目の前の女の子2人くらい、救って見せろ!!
俺はフェンの出鱈目な速度からさらに前に飛び出したため、これまた、常識を超えた速度で射出される、だがこれなら……
亀が姉さんとシャーロットさんを踏みつぶす前に、亀の懐に到着し、そしてその瞬間
――チャージコンプリート
技も間に合った。
「ドラゴンキック!!」
亀を吹き飛ばす事に成功した……が、倒すまではいかなかったようだ。
だが、まだ体が完全に治りきらないうちに無理をしたため、立っている事もしんどい。
俺はその場に片膝を付き、それと同時に変身が解かれてしまった。




