第102話 物理的に熱い展開
「よし! 奇襲1発目は成功だな!!」
アリオンの横からの奇襲、そして、その奇襲に合わせる形でのレイスの挑発。これにより10人居た魔法使いのうち、3人を倒すことに成功した。まずは上々といったところだろうか。
「うぉぉぉぉぉ!!」
この混乱に乗じて、後方からイザークが突撃、さらにそれを守るように、リリカ達が魔法で援護をしている。
「ええい!! 何をしているか!! 前方に2人、後方に5人展開しろ!! 確固撃破しろ!! 横から奇襲を仕掛けてきた魔法使いには私が対処する!!」
だが、大亀の上に乗った司祭がすぐさま魔法使いに指示を出し、態勢を整える。先ほどまでは数で不利だったものが、ようやく数字上は互角になった程度である。
――司令塔が働いているうちは、数的に互角でもまだこちらが不利だと思った方がいい。何か、敵の司令塔を無力化出来れば、だが……
炎どころか、岩ですら通さないほどの水の壁を作る事が出来る魔法使い、そんなの相手に正面切って戦えるかと問われたら、アリオンは首を縦に振る事は出来ない。
『なあ、主よ。何故水と風の魔法を使わない?』
ピカトリクスがアリオンにそう問いかけるが、アリオンの答えとしては「そうと決まっているから」としか返せない。
世間一般では、直接的に攻撃を与えられる炎と土、そして、限定的ではあるが水の魔法で作る氷。この3つの魔法が攻撃魔法の要だと思われている。
風も、かまいたちや竜巻を発生させることで攻撃は可能なのだが、そのためには精密なコントロールが必要なため、あまり使う人は居ないのだ。
さらに、氷ですらない水だと「攻撃」にすらならず、上位の使い手はほぼ居ない。
『ふむ、人類は千年経っても魔法を使いこなせていないのか……仕方ない、主よ。今から我が言う通りに水と風の魔法を使ってみよ。主が今遭遇している状況を打破するきっかけになるやもしれぬぞ』
そしてピカトリクスがアリオンに伝えた魔法の使用方法。それはとても今の魔法の常識からは離れた内容であった。だが……
「わかった、お前の言う方法が一番有効だろう。ならば、お前の言う事を信じて俺は魔法を撃つのみだ。頼りにしてるぜ、相棒」
『相棒、か。本である我にそう言ったのはお主で2人目だな』
ピカトリクスはとても楽し気にそう告げるのであった。
***
司祭は大亀の背中に乗り、戦況を確認しているが……戦況の膠着状況を確認すると、冷静さを取り戻した。
最初から横からの攻撃を無視すればよかったのかもしれないが、終わったことを嘆いてもしかたないと気持ちを切り替えていた。
「くっ!!」
前方では変な格好をした男に魔法使い2人で当たらせている。敵も魔法使いとの戦いの心得はあるようだが、2対1という数的不利からか、じわじわと押されているのが見て取れる。問題は……
「うぉぉぉぉぉ!!」
魔法を食らってもそのまま突撃してくる後方の男である。正直、数的有利に持ち込んでやっと五分五分なのではないかと錯覚させる、鬼のごとき突進と気迫。その上
「オジサマ、危ない!!」
後方で魔法支援している数名の魔法使い、そのうち今聞こえた声は……
「第十八王女か!!」
後ろには国の要人もおり、それが司祭の心を揺さぶる。
現状、大型の魔獣を率いている自分を見られてしまっている事は痛手だ。口封じをせねば……そのためには、前方の男を早急に始末し、後方に回さねば、そのためにも……
司祭は前方の魔法使いに速攻を仕掛けるように指示を出そうとしたその時、それまで沈黙を保っていた横からの襲撃者、そこから水の球が放たれる。
――水? 攻撃に適さない魔法に一瞬、司祭は疑問に思うものの、すぐさま風の魔法を操り、水の球の軌道を上方向に逸らす。
水の球に隠すようにして火の球や石つぶてを放ってる可能性もあったが、そのような連携ではないようだ。
訝しがりながらも上の方に軌道が逸れたのを確認し、再び気を取り直して指示を飛ばそうとしたその時……司祭の頭上で、水球が爆ぜた。
その水球はすぐさま雨粒サイズの無数の水滴となり、司祭に降り注ぐ……雨粒の通った軌道に、白いもやのようなものを残しながら。
司祭はその雨粒を全身に浴びる事となる。
「よし、前方の2人、さっさとその男を全力で倒……」
――ザァァァァァ
「!! あっちぃぃぃぃ!!」
前方では指示が途中で止まってしまったがため、動きが完全に止まった魔法使いが2人。そして、その隙を見逃すほどレイスは甘くなかった。
「アリオンが作ってくれた好機!! これを逃す手は無い!! うぉぉぉぉぉ!!」
***
『主、何故人間は<水を冷やして作る事が出来る>氷を水の魔法で作る事が出来るのに、<水を温めたら出来る熱湯>を魔法で作れないと思ってるんだ?』
「ああ、氷は魔法でしか作れないが、熱湯は料理の際に火で沸かすってイメージがあるからだろうな」
『ふむ……イメージが固まってるから使わないのか……よいか、水魔法は水であるなら<どんな状態>でも生み出せるぞ』
つまり、熱湯を最初から生み出す事も問題ないわけで。熱湯をぶつけろという事か、それは……
「でも、飛んでいく際に冷えるだろ? どうするんだ?」
『……熱い物を食べる時に、どういう行動をする?』
「その時は、ふーふーと息を吹きかけ……」
そうか、風か!! 風を防げば、熱が下がりにくいかもしれない!!
アリオンはそう考えが至り水の球を熱湯で作成し、風の魔法で風で熱が奪われないよう、そして、水の球が理想の軌道を通るよう誘導し、そして、頭上で爆ぜれば
「敵の上で、熱湯の雨を降らせる、そういうことだな!!」
そう告げると、魔法を発射したのだ。
『……熱湯の雨までは、我も考えが付かなかった……。……この主、おもしろ!!』




