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第101話 丁字有利

 大型の怪獣を倒さねば、街に到着する前に。


 だが、大型の亀を守るように、前方と後方を5人ずつ魔法使いが守る体制になっており、むやみやたらに襲撃しても集中砲火を受けるだけだ。


 そもそもイザークの住んでいた街から王都への道は最初の分岐さえ間違えなければあとは1本道で、脇道さえなく、横から攻撃されるにしても、大人数が隠れるほどのスペースはない。


 それ故、前方と後方を警戒すればいい、というのはある意味間違っては無い。


 逆に言えば、不意打ちには非常に適さない地形であるということでもある。


 主戦力のレオを欠いた現状、変身能力があるとは言え正面からの衝突は避けたい。せめて、魔法使いの目を一瞬でいいから脇に逸らしたい。


 何とかできないか、そう考えている最中、アリオンが手を上げる。


「俺なら複数の属性の魔法を同時に撃てる。こんな芸当が出来る魔法使いなんてそうそう居ないから、複数の魔法使いからの襲撃と勘違いさせて、一瞬俺に対して敵の注目を集める事は出来ると思う」


 確かにアリオンが隙を作れば残りの全員で攻める事が出来るだろう。

 勝ちの目も非常に高くなる、だが、その間1人で敵の注目を集めるということは、それだけ危険であるという事であり……果たしてアリオンに耐えられるのかといった疑問がある……


「アリオンが出来ると思ってるんだよね……だったら、アリオンを信じていいと思う」


 アリオンの提案に対し、その提案を否定しなかったのはセラであった。


 幼馴染であるからこそ、アリオンがこういう荒事を好まないのも知っているはずのセラであったが、それでもアリオンが皆の役に立ちたいと思って名乗り出た事が分かった以上、その思いを尊重したいのである。


 元より前線で戦う事を良しとするタイプではなかった、それでいても友が苦しんでいる時や困っているときに、見過ごすような事が出来る正確ではない事もセラは知っていた。


 ドラゴンが出た時、自分の身を挺してセラや他の人質を助けようとしたのはアリオンが「ドラゴンに勝てる」と思ったわけではない。


 自分がやらなきゃ、と覚悟を決めた時のアリオンは非常に頑固で、止めても止まるような人間ではない、それに……


「分かった、アリオンが横から奇襲を仕掛ける。その奇襲に敵の視線が釘付けになったタイミングで、前方からは僕が、後方からはイザークとリリカさんたち魔法使いの皆さん、お願いできますか? 敵がアリオンから僕にターゲットを移したタイミングくらいで襲撃をお願いしたい」


 レイスもアリオンの事は理解出来ている。そして、信頼をしている。


 この襲撃計画はアリオンが起点となるため、アリオンに少しでも疑いを持っている人なら、この提案を却下するか、そもそもアリオンに任せるとは言わないだろう。


 かくして、襲撃に備えた計画は決まった。


***


 のっし、のっしと、大亀は進んでいく。


 この道は基本的に見通しがよく、人も1人2人が脇に隠れる事は可能だろうが、大人数が身を隠せるような場所は少なく、脇から大規模な襲撃を受けるような可能性は決して高くはない。


 そのうえ、見た事も無いような大型の亀に対して襲撃をしようだなんて、普通なら考えないだろう、普通なら。


 結果として司祭は完全に油断をしていた。そもそも、襲撃して何の得になるのか分からないし、実際得なんて無いのだ。


 襲撃されるなんて考えを持つ方がおかしいのかもしれない。


 だが、襲撃されてしまってはそんな考えを続ける方が難しいだろう。


――ボウボウボウ、ドンドン


 道の脇の、人が一人ギリギリ隠れられそうな場所から炎と岩がほぼ同時に発生し、その全てが亀の上に乗った司祭目掛けて飛んでいく。


「!!」


 司祭は咄嗟に分厚い水の壁を展開、炎の魔法を相殺し、岩すらも水の力で防いでみせた。


「おい、貴様ら!! 右側より敵襲あり!! 右側に攻撃態勢を取れ!!」


 攻撃態勢。それは魔法による遠距離攻撃を基本とするこの世界では、魔法使いが敵に対して横一列に布陣する事を意味していた。


 横一列に布陣することにより敵に対して複数の魔法使いの魔法を同時に撃つことが出来る。特に魔法使い同士の戦いの際、数の優位で相手を押し切る事が可能なのだ。


 先ほどの襲撃、複数の属性の魔法が同時に飛んできた事と魔法の連射の状況から、司祭は4~5人の魔法使いによる襲撃だと踏んだ。


 それならば、倍の戦力がある自分たちが数で押し切る戦法を取る、というのもおかしな話ではない。

だが……


「はぁぁぁぁぁ!! 僕を、見ろぉぉぉぉぉ!!」


 進行方向正面から承認欲求に飢えた若者の叫び、いや、魔力の籠った言霊と言った方がいいだろうか。


 そんな叫びに司祭を含め、皆が注目をしてしまった――魔法を放つ直前の魔法使いは3人、体ごとレイスに注目をしている。


 その瞬間、魔法使いの集団は横一列の布陣から縦一列の布陣となる。


――ドォォン


 横一列の布陣のまま、体ごと横を向いた魔法使いの魔法により、その魔法使いの正面に居た別の魔法使いが倒される。俗に言うフレンドリーファイアである。

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